実体験から知るスタートアップだからこその特許の重要性
特許庁IP BASEセミナー「スタートアップが語る知財戦略のリアル~実体験からわかる、それやったらあかんやつ!?~」
資金調達時に海外の先行特許が発覚!
ソナス株式会社は省電力低遅延のIoT向け無線通信技術「UNISONet」を開発する東大発ベンチャー。UNISONetはセンサーが中継器を兼ねることで広範囲に通信をおこなえるマルチホップ無線通信技術で、広域現場のセンサーの一元管理や、ビル周辺のサービスをひとつのネットワークで提供可能な点を強みとしている。
事業としては、UNISONetの無線モジュールを組み込んだゲートウェイやセンサーユニットとクラウド上のIoTシステムをプラットフォームとして提供し、ビルや橋梁などさまざまな建造物の地震計の常設設置や傾きの監視に採用されている。2022年には屋内の人や物の位置情報をリアルタイムに把握できる測位システムのサービスも開始するなど事業を拡大している。
UNISONetは「同時送信フラッティング(CTF)」という転送方式を実用化した独自規格だ。大原氏らはCTFが発見された2011年から技術研究を続け、2015年にソナスを創業、2017年から営業を開始した。ところが、2018年10月の2度目の資金調達のタイミングで先行特許が見つかってしまう。専門家に調査を進めてもらったところ類似ではあるけれど抵触はしていないことがわかり、最終的には事なきを得たという。
反省点として、「我々はこの技術の第一人者、という驕りから先行調査をしなかったのが原因」と振り返る。その後は専門家に依頼してしっかりと知財調査をしているそうだ。
研究室とビジネスとのギャップを学びとして生かす
もうひとつのケースとして、研究上ではわからなかった問題が社会実装で見つかる事例を紹介。地震計を設置から1年以上経過後に、顧客からセンサーノイズの発生報告があったという。反省点として、実環境で新たなエラーが発生し得ることを事前に想定していなかったことを挙げる。このエラーは約6万5000分の1の確率で起こることがわかり、現在はそのエラーをカバーする特許も出願しているそうだ。
柿沼氏は「実環境での実験は大学ではあまりやらないので、実装後に出てきた課題をカバーする知財は強みになります」とコメント。
最近は先端技術への理解があるVCが増えており、大学発ベンチャーも資金調達しやすい環境になってきているそうだ。松本氏によると「VCのキャリアに興味を持つ技術系が増えており、技術系VCではない一般のVCもアドバイザーとして社内に弁理士や研究者を抱えるようになっています」とのこと。
ソナスは2018年度のIPASに参加。知財の優先順位についてIPASで専門家に相談したところ、「ビジネス戦略がないと知財単体では武器にできない」と指摘され、当初社内で考えていた優先順位とは違う出願内容や順番となったそうだ。
松本氏は「新規ビジネスでは特に知財単体で評価するのはとても難しい。社長自身が顧客のニーズを拾って、どの技術がマッチするのかをすり合わせた泥臭いビジネスの話を語ることによって会社の価値が生まれてきます」とアドバイスした。