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オンライン授業ログ活用で学習効率アップ。京大が開発した教育用説明生成AIエンジンの効果とは

【2月16日、17日開催】NEDO「AI NEXT FORUM 2023」で展示される最新AI技術(3)

特集
NEDO「AI NEXT FORUM 2023」

 本特集では、2月16日・17日に開催されるNEDO「AI NEXT FORUM 2023」でも展示される、社会実装に向けた最前線のAI技術を、全10回にわたって紹介する。第3回は、AIによる学習支援システムについてだ。

NEDO「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」プロジェクト
「学習者の自己説明とAIの説明生成の共進化による教育学習支援環境EXAITの研究開発」

教育用説明生成AIエンジン
EXAIT (Educational Explainable AI Tools)

 京都大学 緒方広明研究室では、学習ログの収集と分析を支援する「LEAFシステム」の研究開発を進めている。高見享佑氏ら京大の研究チームは、株式会社内田洋行と連携して、教育用説明生成AIエンジン「EXAIT (Educational Explainable AI Tools) 」を開発している。主な対象教科は数学と英語で、商業高校向けに簿記も対象としている。

 新型コロナ禍により2020年初頭から、教育現場ではオンライン授業を余儀なくされ、様々な取り組みがなされてきた。文部科学省の「GIGAスクール構想」は前倒しで進められ、全国の生徒には一人一台PCまたはタブレットが配布され、ビデオ会議システムやVRを駆使した柔軟な教育が進められている。

京都大学 学術情報メディアセンター 特定研究員 高見享佑氏

 オンライン授業が行われると大量の学習ログが残る。高見氏らは、そのログを活用することで、個別最適化された教育プログラムが実践できると考えている。既存のビッグデータとAIを用いる取り組みのように、ただ単に情報を推薦する類のサービスとは異なり、「なぜその学習が必要なのか、理解して、納得して進める」こと、すなわち「理由の説明」が重要だと高見氏は語る。

回答プロセスを言語化、つまずき理由を
納得しながら学習することが重要

 AI活用においては「判断の理由を説明できるAIが重要だ」とよく言われている。教育分野においても学習者の思考過程がブラックボックスになっている点は課題だ。従来は正解と不正解のデータから推測していたが、結果だけを見ても細やかな学習支援は可能ではない。そこで高見氏らは回答者に自分自身で回答プロセスを言語化させ、そのデータを蓄積することで、より細かい粒度で「つまずきポイント」を見出すことで、これまでにない学習支援が可能ではないかと考えている。

 具体的にはこうだ。オンラインで問題を解くと、解答過程がペンストロークのデータとして残る。その動画を後から見て、学習者が自分の思考過程を自分で説明するのである。その説明をテキストデータとして残し、学習プロセスのどこで間違っていたのかを明らかにする。同時に、その説明データから模範解答を自動生成、類似解答を提示する。

「関連問題を『ここでつまずいているから』という理由で推薦したり、『なぜこの問題が推薦されたか』を明確化してあげる。説明できるAIとして教育現場への導入を狙っている」という。現在、一連の流れを実現するための個別のモデルを開発しており、最終的には融合を目指している。

自己説明、知識の活用に
フォーカスしたAI活用

 繰り返しになるが、高見氏らは「自己説明」という学習スタイルを重視している。「従来のAIによる問題推薦は知識の定着のため。我々は自己説明、知識の活用にフォーカスしている」と高見氏は語る。従来、教育現場でのAI活用では、繰り返し学習に用いられることが多い。「数学などでは、知識を活用しようと思っても実際には知識が繋がっていなくてできないということがよくある。我々のシステムでは、そこに応じた問題提示ができる」。

 実際の運用では、ペンで解答すると、それが動画として残る。動画を見ながら、どういう解答をしたかをキーボードで入力する。具体的には中学2年生の数学などで実証試験を行なっている。思考過程はペンストロークとして記録される。ペンが止まるとつまずいている可能性が高い。生徒は何をしたのかを一時停止ボタンを押しながら、解答プロセスで自分が何を考えて問題を解いていたのかを入力していく。その入力テキストデータを使って、これまではブラックボックスだった生徒の解答プロセス、思考のプロセスを明らかにすることができる。そして回答した際の細かい学習データ、言語化データは蓄積され、AIのための学習データとして活用される。このサイクルを回す。

 AIはその学習データを用いて、「つまずきポイント」の自動判定に用いたり、自然言語処理を行って模範回答を作る。判定結果は学習者にフィードバックされる。つまり「ここであなたはつまずいています」と「つまずきポイント」が指摘される。現在は画像データまで活用することはできていないが、今後は取り込んで、さらに精度を上げたいという。

 このシステムの長所は、自己説明のデータをAIが使うだけではなく、人自身も学習できる点だ。「自己説明」といっても人によって様々である。回答は正解しているが説明がうまくいってないこともあれば、またその逆もある。それぞれに類似した回答を提示し、自分の回答に類似した問題を解くことで学習が効率的に進められる。新たな問題の推薦に対しても作り込みのルールベースではなく、学習者のログデータ自体をAIの学習データとして使っており、「どんな問題にも対応できる」という。

データ駆動+モデル駆動の融合
AIの信頼性を確立

 ただし、データ駆動モデルはデータがないと動かない。そこでデータ駆動だけではなく、モデル駆動で推薦するアルゴリズムも開発している。教材データを基にして、教材がどんな知識を持っているか知識マップを作成し、そこから推薦するというアプローチだ。

 こちらでは学習データがなくても知識構造に基づいた問題の推薦が可能となる。今後は、このデータ駆動アプローチとモデル駆動アプローチを融合させることで、これまでのシステムの欠点を補えあえるのではないかと高見氏は考えている。

 つまずきポイントに応じた推薦のシステムも開発しており、今後統合予定だ。「ただ単に問題を推薦するのではなく推薦理由も提示することでAIの信頼性も高まる」と高見氏は語る。「従来はただ単に推薦されていて、何もわからず『やりなさい』と言われていた。『なぜ』というところがなかった。なぜこの問題が提示されたのか、推薦理由を提示することで学習者の納得感と学習意欲、そしてAIの信頼性が高まる」(高見氏)。

生徒の学習意欲と理解度向上に貢献
教員の働き方改革にも

 実際にはどの程度有効なのだろうか。高校1年生を対象に、推薦理由を提示することで説明効果はどれだけあるか検証したところ、説明があったほうがクリック率が高く、継続的に推薦機能を使ってもらっていることがわかった。では学力はどうか。学習理解への効果をテストで見ると、推薦問題をクリックすることと学習理解とは正の相関があった。「ただ単に問題をたくさん解くのではなく、推薦された問題を解くことが重要。学習者の理解状況を判断して、それに基づいた問題を解くことが重要ということがわかっている」という。

 生徒のアンケート結果でも「効率良く解くことができて便利」といった声があり、学習効率の向上が評価されていることがわかる。また、最初はAIを疑っていても徐々に実感としてAIを信頼しつつあることも明らかになっているという。

 教員からの評価では、システムを使うことで教員の負担軽減にも寄与しているという。特に月10時間以上システムを利用する教員は残業時間も4割短かかった。短時間で学力把握が可能であり、教材作成も短時間でできることからだと考えられる。

 ただ「現場の先生方との方向性の共有には時間がかかった」という。「現在、7つの学校で実証してもらっているが、『研究開発に協力している時間がない』という反応もあった。『使ってみましょうか』といってくれる学校を中心に実証研究を進めている。現場の先生とやりとりして、足並みを揃えながら開発と評価を進めていくところは大変だった」と振り返る。

社会人向け教育にも適用可能

 技術を普及するための取り組みも進めている。2021年5月には一般社団法人エビデンス駆動型教育研究協議会が立ち上げられ、初等中等教育においてもエビデンスに基づいた教育が進められている。システムに対する現場の期待も高く、社会実装も進みつつある。学生向けだけではなく、社会人向けに企業の通信教育でも使いたいという話もあるという。

開催概要
名称:AI NEXT FORUM 2023-ビジネスとAI最新技術が出会う、新たなイノベーションが芽生える-
日時:2023年2月16日(木)、17日(金)10時00分~17時00分
場所:ベルサール御成門タワー「4Fホール」(〒105-0011 東京都港区芝公園1-1-1 住友不動産御成門タワー4F)
アクセス:都営三田線 御成門駅 A3b出口直結、都営大江戸線・浅草線 大門駅 A6出口徒歩6分、JR浜松町駅 北口徒歩10分、東京モノレール 浜松町駅 北口徒歩11分
参加:無料(事前登録制)
内容:AI技術に関する研究成果を実機やポスター展示などにより対面形式で解説(出展数:最大44件)、各種講演やトークセッションを実施(会場参加とオンライン配信のハイブリッド形式)
主催:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
運営委託先:株式会社角川アスキー総合研究所

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