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自律飛行する革新的なドローンAI!

【2月16日、17日開催】NEDO「AI NEXT FORUM 2023」で展示される最新AI技術(6)

特集
NEDO「AI NEXT FORUM 2023」

 本特集では、2月16日・17日に開催されるNEDO「AI NEXT FORUM 2023」でも展示される、社会実装に向けた最前線のAI技術を、全10回にわたって紹介する。第6回は、新たに開発した複数のAI技術を搭載した、自律運航する革新的ドローンだ。

NEDO「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」プロジェクト
「サイバー・フィジカル研究拠点間連携による革新的ドローンAI技術の研究開発」

開発したAIを搭載する商用ドローンのコンセプト機体

ドローンがさらに活用される時代に向けて

 東京大学の土屋武司氏、産総研の神村明哉氏らは、イームズロボティクス、日立システムズらと共に、AIをドローンに適用する技術の研究開発を行なっている。

 土屋氏らは将来、ドローンは制度改正もあって空撮、保守点検、配送などの分野で普及が進んでくると考えている。2022年12月には改正航空法が施行され、機体認証と操縦ライセンスがあれば、「有人地帯における補助者なし目視外飛行」(レベル4)が可能になった。これらの背景のもと、ドローンがさらに普及することを見越して進めているプロジェクトだ。

土屋 武司氏
東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻・教授

神村 明哉 氏
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報人間工学領域 インダストリアルCPS研究センター フィールドロボティクス研究チーム 研究チーム長

曽谷 英司 氏
イームズロボティクス株式会社 代表取締役社長

自律運航AI、故障診断AI、緊急着陸AIの開発

 進めていることは3つ。フェーズⅠはカメラを使った「自律運航AI技術」の開発だ。カメラで地上を撮影しながら飛行して、ルート上に車両や人があったら自律的にルートを変更してその上空を回避することで、安全に飛行を行なっていくというもの。

 フェーズIIは「故障診断AI技術」の開発。プロペラ破損やモータの異常などに起因する機体の不具合をAIが検知する。

 フェーズIIIは機体の異常事態に対して緊急着陸する「緊急着陸AI技術」の開発だ。着陸可能なエリアをカメラの映像をもとにAIが見つけてドローンを安全な場所で着陸させる。

 これらの技術開発を進めながら、現在イームズロボティクスのドローンに「自律運航AI」を搭載して飛行実証を行なっている。

自律運航AI、故障診断AI、緊急着陸AIの検証

 これまでにプロジェクトでは災害模擬現場や橋梁模擬施設での実証のほか、2022年5月には佐川急便の協力のもと、佐川急便相馬営業所(福島県南相馬市)と柚木公会堂(福島県相馬市)を結ぶ約1.5kmを往復で飛行する実験などを進めてきた。

 故障診断AIの開発においては、実際の飛行条件で異常を模擬するのは大変なため、大分県産業科学技術センターとciRoboticsのドローンアナライザーを使って行なっている。様々な状況を再現したログデータをもとにAIが異常を検出できるかを検証している。

 緊急事態になると緊急着陸AIが発動する。AIがカメラで捉えた映像のなかから、セマンティック・セグメンテーションにより建物などがないフラットな部分を見つけ、自動で安全エリアに移動させ着陸を行うシナリオだ。現在のところ実際の機体には実装されておらず、オフラインの状態で試験を行なっている。

開発して今回のプロジェクトでも利用している実験用ドローン

これまでにないデータを収集してAIを学習

 独自性はどこにあるのだろうか。安全のため、地上の人や車をAIが認識し自動で上空を回避できるドローンの研究開発はこれまでは行われていなかった。「高度100mからだと人は豆粒ほどで普通は認識できない。そのため高度によらず、見えている幅が20mくらいになるようにズーム値を自動制御して追いかける技術を開発しました。これによりAIの認識精度を上げています。従来はなかった技術です」(産総研・神村氏)

 プロジェクト開始時には高高度からの人の姿の学習データはほとんどなかった。そこで人や車が含まれる数万のデータを取得し、AI学習を行なった。

 海外では物流でドローンを活用している事例も出ているが、日本よりも規制がゆるく、平気で人のいる上空を飛ばしている。しかし、ドローンに限らず飛行体は必ず落ちるものだ。当然、人の近くに落下することもありえる。「実際に運用すると墜落は避けられないでしょうし、保険制度もそこまで追いついてない。日本においては、かなり重要な技術になると思う」という。またこの課題があることから、実際のレベル4飛行の運用は、もう少し先になるのではないかという。

緊急着陸についてはAI以外も併用して安全を担保

 故障診断に関しては人工回帰型ニューラルネットワークの一種であるLSTMを使っている。手法としては一般的だが、ドローンの故障データ自体がほとんどなかった。そこでドローンアナライザーを活用して、何かにぶつかったときなどの状態を模擬して、故障データを新たに取得した。

 緊急時の着陸については、セマンティック・セグメンテーションで平坦な場所を見つける手法を用いている。アプリケーションとしては新しく、必要とされている技術だ。

 そして、AI以外の緊急着陸手段も合わせて検討している。物流でドローンを使う場合は飛行ルートが決まっているので、あらかじめ「このあたりは着陸可能」というところを決めておく。そのうち人がいないところを見つけてドローンが自動で着陸するという実験にも成功している。各AIによる認識等は基本的にドローンに搭載しているコンピュータで完結している。

物流やインフラ点検に向けた実験

 応用にはどんなものがあり得るのか。インフラ点検への応用については、福島ロボットテストフィールドに橋梁点検設備があり、そこで実験を行なっている。ドローンで橋梁をまたぐときには、人や車がいたら、いったん停止し、いなくなってから横断するといった動きを実証している。

 物流に関しては前述のとおり、2022年5月に南相馬の佐川急便の営業所から飛行している。目的地ではドローンポートのHマークをAIで認識して、自律で着陸を行なった。将来の物流事業に向けて試験したものだ。

TerraMetrics Data SIO, NOAA, U.S. Navy, NGA, GEBCO ©2022 Google

ドローンが飛び交う時代は2030年以降か

 2018年から始めたプロジェクトは5年目となる2023年3月で終わりだ。今後の一番の課題は自動運転と同様、安全性やその担保、そして評価システムの確立だ。「確実性の評価が実運用においては課題になる」という。プロジェクトのなかでも国際標準を進めるISOなどにも情報を出して標準化の活動も行ってきた。2022年末の航空法改正で機体の認証も始まった。有人地帯を無人で飛行させるための第一種機体認証に、自律運行AIのようなシステムが使われることが必須であるといった要件や仕組みが作られることが重要なのではないかという。このNEDOプロジェクトが終わったあとも、それらの活動は継続していく予定だ。

 実用までの道のりは技術以外のハードルもあって長い。だが国内外に広がっていく可能性はある。「自律運行AIのような技術を取り込んでいければ、日本から出たこの技術は世界標準に、海外に広まっていくきっかけになるかなと思う」。

 実際に物流ドローンが飛び交うような世界は2030年くらいではないかとのこと。レベル4については「まずは今年後半くらいから地方での実装が進められるのではないか」という。

開催概要
名称:AI NEXT FORUM 2023-ビジネスとAI最新技術が出会う、新たなイノベーションが芽生える-
日時:2023年2月16日(木)、17日(金)10時00分~17時00分
場所:ベルサール御成門タワー「4Fホール」(〒105-0011 東京都港区芝公園1-1-1 住友不動産御成門タワー4F)
アクセス:都営三田線 御成門駅 A3b出口直結、都営大江戸線・浅草線 大門駅 A6出口徒歩6分、JR浜松町駅 北口徒歩10分、東京モノレール 浜松町駅 北口徒歩11分
参加:無料(事前登録制)
内容:AI技術に関する研究成果を実機やポスター展示などにより対面形式で解説(出展数:最大44件)、各種講演やトークセッションを実施(会場参加とオンライン配信のハイブリッド形式)
主催:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
運営委託先:株式会社角川アスキー総合研究所

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