メルマガはこちらから

PAGE
TOP

AIで生産調整に加えて需要まで補完。最新鋭植物工場の裏側にあるテクノロジー

【2月16日、17日開催】NEDO「AI NEXT FORUM 2023」で展示される最新AI技術(2)

特集
NEDO「AI NEXT FORUM 2023」

 本特集では、2月16日・17日に開催されるNEDO「AI NEXT FORUM 2023」でも展示される、社会実装に向けた最前線のAI技術を、全10回にわたって紹介する。第2回は、ものづくりにおけるAIの研究開発のなかでも、AIで効率化された植物工場のバリューチェーンだ。

NEDO「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」プロジェクト
「AIによる植物工場等バリューチェーン効率化システムの研究開発」

 株式会社ファームシップは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」研究開発プロジェクトのなかで、植物工場等のバリューチェーン効率化システムの研究開発を進めている。現在、農業は高齢化が進み、就業人口も減少している。食料自給率も低下している。だが食料生産は国を支える根幹の一つだ。このような背景のなか、この事業では人工環境の植物工場においてAIを積極活用することで、フードロスの2割削減や若年齢層の雇用促進など、様々な問題を解決することを目的としている。

 ファームシップは植物工場事業に参入したいと考えるパートナー企業に対して、生産現場支援、管理者・作業者人材育成支援、販売支援など収益化のための総合ソリューションを提供している企業だ。生産能力は19t/日で世界トップクラス。株式会社ファームシップ 取締役の宇佐美由久氏は「植物工場を核としたバリューチェーン全体を見ている」と語る。

株式会社ファームシップ 取締役 宇佐美由久氏

売上予測、生産量予測、生産管理、生産効率最大化

 昨今、電気代が上昇している。このため植物工場でも収支が悪化しており、さらなる生産効率向上が必要となっている。ファームシップはバリューチェーンの無駄を排除するAI効率化システムの開発を行っている。農業では生産した作物が売れないことは、よくある。そこで野菜の売上予測に取り組んだ。具体的には主にレタスの卸売価格を予測し、無償で公開している。

 植物工場は基本的に1年中同じ価格で作物を販売している。いっぽう露地野菜の価格は上がり下がりがある。露地野菜の価格が高くなると植物工場の野菜が売れる。その予測に生産をフィットさせると効率が上がることになる。なかでもレタスの価格は変動が激しく、2017年には10倍も変動した。そこで、AIを活用して事前に価格変動を精度高く予測する。そしてレタス生育を加減速して生産をフィットさせられれば機会損失や廃棄ロスを削減できる。

 二つ目の取り組みは生産量の予測だ。野菜は収穫するまで何グラムの野菜が取れるかわからない。環境を制御できる植物工場でも収穫量予測は難しい。ファームシップでは収穫数日前に写真を撮影、AI画像解析を行って高精度な重量予測ができるようにした。最終的には需要と予測をマッチさせることが目的だ。露地栽培では生産速度の調整は難しいので、植物工場ならではの強みとなる。

 生産効率を向上させるための生産管理も行っている。順調に生育できる良い苗を事前選別できれば不良生育を削減でき、無駄な生産がなくなる。移植時に苗の質をAI画像解析を使って選別することで、順調に育つかどうかを事前に判別している。株のかたちが良くなるか悪くなるかまでデータを取得して良い苗を見極め得るようにしたのは「他では類を見ない」技術だという。

 生産効率の最大化についても取り組んでいる。もちろん、明日の注文量に合わせて1日で野菜を育てるようなことはできない。だが温度、湿度、二酸化炭素濃度などをコントロールすることで生産速度を早めることはできる。レタスの場合、露地栽培では最短で3ヶ月、おおよそ12週間程度かかる。だが従来型植物工場ではCO2濃度を高めることにより5週間程度で育てることができる。

 ファームシップでは、それをさらに2.5週間に短縮することに取り組んでいる。これは「本当にできるのかと業界でも疑われたくらい」の技術だが、実際にほぼできたと宇佐美氏は語る。ただし従来型の植物工場にはできないため、さらに、よりクローズドにして資源を投入し、栽培条件をさらに最適化する必要がある。これには今後2年くらいの開発期間が必要だという。

AIを植物工場の実課題に適用

 ファームシップでは、AI技術自体の開発は行っていない。既存の技術を用いて、出荷量予測や生産量予測などバリューチェーン最適化のために適用を進めて効率を高めている。植物工場をフィールドとし、農業バリューチェーン効率化を構成する生産性向上、省人化・効率化、ロス・過剰在庫の削減、顧客満足度向上の各項目において、農業分野で必要になっているところにAIを応用した。なお、活用されているAIはそれぞれ別の技術で、それが同じプラットフォーム上で動作する仕組みを提供している。

 ファームシップでは2022年12月現在、パートナー工場を全国7カ所に設けている。本事業は2023年3月に終了するが、4月以降は開発した技術を実際に適用していく。宇佐美氏は「事業を持っていることが我々の強み」だと語る。

 植物工場レタスは、一般に露地栽培レタスの3倍程度の価格だと言われている。しかし最近は、コストに厳しいコンビニでも使われるようになっているという。露地野菜は農薬や虫の問題があり歩留まり5割くらいに留まる。だがファームシップの植物工場レタスは9割以上使える。そのため価格も2倍程度であれば許容される。また検査や消毒などの工程も簡易化でき、なんといっても日照に影響されることがなく過不足がないことなどから、徐々に需要も高まっているという。「採用が本格化したら全国に大規模な植物工場が必要になる」という。コストも将来的には半減させる。その「未来が見えてきた」と語る。

植物工場によるゼロエミッション農業の実現へ 生産性向上と温室効果ガス排出削減の両立

 農業には、就労人口の減少や食料自給率の低下、食品ロス拡大など多くの課題がある。生産効率を高めるためには、さらに投資と開発が必要だ。また農業による温室効果ガス排出量は全産業の1/4にもなる。使用土地面積の少ない植物工場は、これらの課題を解決することに資するものだと宇佐美氏は語る。

「人の面でも植物工場は働きやすい」という。温度・湿度が一定した安定した環境だからだ。だから人手も集めやすい。ある植物工場建設の事例では、必要な人材の採用で、それまでの市の農業従事者総数を1割以上増やすこととなった。

 また、需要と供給をマッチすることで食品ロスを減らすことができる。電気は太陽光発電など再生可能エネルギーを用いることも可能だ。植物工場では農薬は使っていないし、化学肥料の使用量も1/5程度にできるという。土壌から発生するCO2も抑えられる。

 生産面積あたりの土地利用効率も高い。植物工場にすれば、生産面積で1/100にできる。太陽光発電施設込みでも、おおよそ1/20くらいの面積で同じ量のレタスが生産できるという。

 ファームシップの「ブロックファーム沼津」では、ほうれん草を大量生産している。屋根は全て太陽電池で、購入する電気量は半分。将来はゼロを目指している。独自の生育/環境制御技術により、使用電力は従来比50%。生鮮にくわえて加工販売も行うことで、植物工場野菜市場の拡大を見込んでいる。コストやエネルギー消費、温室効果ガス削減にも貢献しながら「オンデマンドでの野菜生産」を目指している。今後は開発した要素技術をスケールアップさせ、さらなる次世代植物工場実現を目指す。

「植物工場がどんどん増える流れは止まらない。AIの活用により効率はさらに良くなる。流れはますます加速する。安全・安心な野菜が工場で作れることを知ってほしい」(宇佐美氏)。

開催概要
名称:AI NEXT FORUM 2023-ビジネスとAI最新技術が出会う、新たなイノベーションが芽生える-
日時:2023年2月16日(木)、17日(金)10時00分~17時00分
場所:ベルサール御成門タワー「4Fホール」(〒105-0011 東京都港区芝公園1-1-1 住友不動産御成門タワー4F)
アクセス:都営三田線 御成門駅 A3b出口直結、都営大江戸線・浅草線 大門駅 A6出口徒歩6分、JR浜松町駅 北口徒歩10分、東京モノレール 浜松町駅 北口徒歩11分
参加:無料(事前登録制)
内容:AI技術に関する研究成果を実機やポスター展示などにより対面形式で解説(出展数:最大44件)、各種講演やトークセッションを実施(会場参加とオンライン配信のハイブリッド形式)
主催:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
運営委託先:株式会社角川アスキー総合研究所

「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」配信のご案内

ASCII STARTUPでは、「ASCII STARTUPウィークリーレビュー」と題したメールマガジンにて、国内最先端のスタートアップ情報、イベントレポート、関連するエコシステム識者などの取材成果を毎週月曜に配信しています。興味がある方は、以下の登録フォームボタンをクリックいただき、メールアドレスの設定をお願いいたします。

バックナンバー