資金調達、オープンイノベーションにも利くスタートアップの知財戦略
『えっ、法的に使っちゃダメなサービス名ってあるの⁉』ってならないための スタートアップが知っておきたい商標、特許の成功事例丸わかりセミナー
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事例から学ぶ特許・商標
特許庁 総務部 企画調査課 課長補佐(スタートアップ支援班長)芝沼隆太氏の講演では、「事例から学ぶ特許・商標」と題し、身近な商品を挙げながら特許や商標の活用事例を紹介した。
ザ コカ・コーラカンパニーの「いろはす」のプラスチックボトルは、少ない材料で強度を確保する技術を特許権、形状を意匠権、商品名を商標権として登録し、3つの知財で保護されている。
知財の機能は、事業の差別化、模倣の防止といった「独占」だけでなく、資金調達やM&Aの評価といった「信用」、オープンイノベーションのツールとしての「連携」もある。令和3年度に特許庁が実施した調査では、知財の活用による効果として、創業期のスタートアップの42%が「資金調達への貢献」と回答している。
起業、事業を考え始めたときに最初に確認する必要があるのが商標だ。商品名を決める前に、まず他人の権利を調べておきたい。商品のローンチ後に他者の登録商標であることが発覚すると、商品名の変更や損害賠償を請求される恐れがある。
部活に関するサービスを事業化するため、社名・プロダクト名を「BUKATSU」にしようと商標出願したところ、前例があったので「BUKARU」に変更したとのこと。もし当初のアプリ名で事業を始めていたら、後から社名やプロダクト名を変更する必要に迫られたかもしれない。
参考リンク「NoMaps2022 カンファレンス「STARTUP CITY SAPPORO Presents スタートアップにとって知財は重要?特許庁と知財専門家に聞いてみた」に参加しました!」
また、スマート保育園の実現を目指すユニファ株式会社は、「スマート保育園」を商標登録済みだが、メディア露出が増えたこともあり、「スマート保育園」を一般名称のように使われてしまう恐れがある。登録商標であることをアピールするため、(R)表記を徹底し、普通名称化を防いでいるとのこと。
参考リンク「ユニファ株式会社 代表取締役CEO 土岐 泰之氏 インタビュー 6000超の保育現場に導入 社会のインフラとして課題解決を目指す「スマート保育園」サービス」
商標は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で調べられる。使いたい名称が他者の商標ではないかを調べたいときには、まずJ-PlatPatで確認しよう。
次に特許権のイメージを「転がりにくい鉛筆の発明」を例に解説。
断面が円形の鉛筆を転がらないように改良した発明について、「断面六角形の鉛筆」として出願すると、四角形や五角形、三角形は含まれない。「多角形の鉛筆」でも楕円やかまぼこ型も含まれなくなる。しかし「転がらない鉛筆」では不明確なので審査は通らない。上手く上位概念化して広い権利範囲を考えることで、「広く・強く・役に立つ」特許になる。
単純に特許を出願するだけでは、役に立つ権利にはなりにくい。自社に必要な特許権を取得するには、専門家との壁打ちでアイデアを具現化することが重要だ。またコア技術を保護する方法として、周辺特許を追加出願してコア技術の守られていない範囲をカバーする、定期的に特許の権利範囲を確認する、といったポイントを挙げた。
スタートアップの知財戦略構築の事例は、IPASの成果事例集「知財戦略支援から見えたスタートアップが躓く14の課題とその対応策」で紹介されている。また、投資家向けには「ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き」に、知財の落とし穴の事例が挙げられているので参考にしてほしい。
特許庁のスタートアップ支援施策
最後に、特許庁のスタートアップ支援施策を紹介。特許庁では、スタートアップの事業戦略に連動した知財戦略の策定を支援支援する「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)」、知財コミュニティ活動を促進する「IP BASE」の2つの取り組みを実施している。IPASは、創業期のスタートアップに知財メンタリングチームを派遣し、適切なビジネスモデルの構築とビジネス戦略に連動した知財戦略の構築をハンズオンで支援するプログラムだ。
スタートアップ向け知財コミュニティ「IP BASE」は、ウェブサイトによる情報発信のほか、事例集の掲載、無料会員向け勉強会の開催、知財専門家の検索などを提供している。
そのほかの支援施策として、スタートアップのスピード感に対応したスーパー早期審査、特許の手数料が3分の1になる軽減制度なども実施している。詳しくはIP BASEサイトをチェックしよう。
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