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富士ゼロックスで培った0→1の価値創造、特許戦略のノウハウを実践で社会に還元する

大企業スピンアウトからブレインテック/ニューロテックを牽引するユニコーンを目指すCyberneX

連載
研究開発型イノベーション創出のケーススタディ

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この記事は、国内産業のイノベーション創出及び競争力の強化に寄与する活動を推進する、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)に掲載されている記事の転載です。

 企業の保有する技術や人材、知財を活用した新価値創出の手法として、スピンアウト/スピンオフ、カーブアウトが注目されている。しかし、経営経験のない日本の大手企業の社員にとって、起業へのハードルは高い。企業発スタートアップを促進するには、資金面以外にどのような支援が求められるのか。富士ゼロックス発のスピンアウトとして注目された株式会社CyberneX CEO 馬場 基文氏に起業の経緯、資金調達や支援の活用について伺った。

株式会社CyberneX CEO 馬場 基文氏

1997年 富士ゼロックス株式会社入社、総合研究所にて将来価値に繋がる技術を数多く発明。2004年から同社の中核商品技術開発を牽引し、発明技術を商品に多数実装。2016年以降は、商品開発本部、研究技術開発本部の部長職としてIoT/AI領域で社外との戦略的パートナーシップを構築し、同社の新たな価値創出を牽引してきた。特許出願は国内外290件以上に及び、発明技術の商品実装による所属元企業と社会還元への貢献額は推定4600億円以上にのぼる。この実績が評価され、全国発明表彰発明賞、文部科学大臣表彰科学技術賞、関東地方発明表彰日本弁理士会会長奨励賞等の受賞歴多数。2016年より同社の既存事業外での新収益獲得を目指し、外部共創による0→1価値の創出活動を開始。脳波イヤホン、コミュニケーションロボット、AI対話など、新たなコミュニケーションの未来を生み出すための技術探索と価値検証を実施してきた。2020年5月、この取り組みの事業化を継続させるためにスピンアウト、所属元企業から知的財産権(技術資産と特許資産90件)の譲渡を受けて法人を2社設立。現在に至る。

脳情報を日常活用する未来へ向けて、研究開発型から活用サービス開発へと事業をシフト

 株式会社CyberneXは、富士ゼロックスの脳研究技術開発チームがスピンアウトしたブレインテックスタートアップだ。独立時に国内外80件以上の関連知財を買い取っており、親会社との資本関係を持たないスピンアウトの事例として多くのメディアで取り上げられた。

 2020年の設立当初は、イヤホン型Brain Computer Interface(BCI)「XHOLOS(エクゾロス)」を使って脳データを収集する研究開発支援事業としてスタート。次に、取得したデータからリラックス状態や集中状態といった脳の状態を可視化する解析エンジンを開発。さらに、行動変容につながる活用サービスの開発へと進み、現在は脳情報活用BCIプラットフォーム「XHOLOS」を中心とした1)脳情報活用支援サービス、2)リラクゼーション事業、3)ソリューション事業の3つの事業を展開している。

脳情報の取得・解析から、活用サービスへ

 脳情報活用支援事業として多数の大手企業との協業で事業開発に取り組む一方、自社でも麻布広尾にリラクゼーションサロン「Holistic Relaxation Lab XHOLOS」を2022年6月にプレオープンして実証を兼ねたサービスを提供。同サロンでは被施術者が脳波デバイスを装着し、アロマ施術中のリラックス状態をライトの色で表示することで、施術者と会話をしなくても気持ちよさを伝えられる。さらに、施術中のリラックス状態のレポートをフィードバックすることで顧客体験を強化できる。リラクゼーションサロンでの実証の結果、人間の無意識状態を強い自己認識に変えることで、アロマ購入など行動変容につながることがわかってきたという。2022年11月22日からは正式オープンとし、継続してサービスを提供しながらデータを蓄積していく計画だ。

リラクゼーションサロン「XHOLOS麻布広尾」

 サロンで生のデータを収集することで、人間のリラクゼーション状態が個人によって異なることもわかってきた。タイプ別の分類、リラックス後にパフォーマンスが上がることなども知見としてたまっているという。

 「脳の状態から人間の生活が少しずつ見えてくる、というのは大きな気付きです。自分の意識している状態と無意識状態の両方を正しく理解できれば、誰よりも自分のことをわかってくれるAIが作れる。これが究極に進むと、休むタイミングや仕事の取り組み方、コミュニケーションの取り方を教えてくれる、そんな心強いパートナーとなって人間に寄り添うパーソナルAIが登場します。私が目指すのは、ひとりひとりの人間が最高の状態になれるようにAIが支援する世界です」と馬場氏は語る。

 こうした世界観は富士ゼロックスの在籍当時から持っていたそうで、馬場氏が感銘を受けたというXEROX創業者のJ.C.ウイルソン氏の言葉「我々の事業の目的は、より良いコミュニケーションを通じて、人間社会のより良い理解をもたらすことである」、またパーソナルコンピューターの父と呼ばれるアラン・ケイ氏の名言「未来を予測する最善の方法は、それを開発することだ」にも通じるものだ。

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