全日本から世界戦へ!
ラリージャパンで世界の荏崎ろあに
皆さんこんにちは、現役レースクイーンの荏崎(えざき)ろあです。今回は、11月10~13日に愛知・岐阜で行なわれたWRC第13戦「ラリージャパン」にウェルパインモータースポーツのメカニックとして参加させていただきました。
全日本ラリーに続いて2回目のメカニックで、いよいよ私も国際ラリーデビューとなりました。ラリージャパンは開催スケジュールが長いため、今回は車検からDAY1までの様子をお伝えしていきます。
公式車検が11月9日(水)にあるため、私は前日の11月8日(火)にサービスパークである豊田スタジアムに入りました。前の週にSUPER GTの最終戦があり、まだまだレースクイーン気分が抜けない中でしたが、豊田スタジアム入りするとしっかりメカニックモードになっていました。伸ばしてきた長い爪とデコネイルともお別れをし「頑張るぞ~!」という気持ちでいっぱいです。
今回ウェルパインモータースポーツが使用する車両はプジョー・208R2で、クルーはこれまで通り村田康介選手と梅本まどか選手です。プジョーのクルマは運転をしたことはありましたが、整備した経験はなく、今回初めて車両に触れることとなりました。メカニックも今回は私を入れて3人。「私はメカの1人として役に立てるのだろうか」と不安に思いつつも、前回お世話になった早水雄一郎チーフメカが指導してくれるとのことだったので、少し不安は和らぎました。
公式車検当日の11月9日(水)は、少しゆっくりめの8時にサービスパーク入りして車検準備となりました。私たちのチームに指定された予定車検時刻は17時なので、メンテナンスの時間はたっぷりあります。まずはチームミーティングで、誰がどこのメンテナンスをしてどういった流れでサービスをするかを決めました。今回はメカニックが3人なので、作業が盛りだくさんです。ひとまず、足周りの増し締めをして、メカニックみんなでフロントとリアのブレーキパットの交換手順の確認をしました。
その際、海外のレーシングカーあるあるなのですが、そのボルトのサイズなどが特殊で、メガネなどの工具を使って緩めるにも、そのサイズをすべてイチから覚えなくてはならず大変でした。今まで仕事で足周りの整備をしてきたのは国産車ばかりで、ある程度メーカーごとに工具のサイズは暗記していましたが、やはり海外レーシングカーとなるとついつい身構えてしまいます。
そのほか、キャスターやキャンバーなどのアライメントの調整をしましたが、初めて使う工具も多く、やはり現場ならではの新しい経験にワクワクしました。
昼食の後はタイヤを組み替えてもらう作業です。以前の記事でも書きましたが、ラリーでは路面状況に応じてタイヤを交換し、予備に積むスペアタイヤの種類も変えます。私のチームではダンロップさんからタイヤを支援していただいているため、豊田スタジアムの外に展開しているダンロップタイヤサービスまで行って交換してもらいます。WRCはピレリが公式タイヤなので、そのほかのタイヤメーカーは基本的にサービスパーク内には居ません。4駆のクルマはピレリ以外のタイヤは使えず、208R2は2駆(FF)のためダンロップタイヤが使えたのです。
今回は、ドライ路面用のソフトタイヤを3本、ウェット路面用のウェットタイヤを3本用意してもらい、フロントにソフト、リアにウェットを装着しました。基本的に摩耗の少ない前輪駆動車のリヤにはウェットで大丈夫とのことです。そして、スペアタイヤとしてソフトとウェットを1本ずつ積みます。
海外基準でとても厳しかった車検
そろそろ車検時間が近づいてきたかな? という辺りで、車検の進行がかなり遅れているという情報が入ってきました。久しぶりのWRCで、海外チームのグループR車両は車検員の方も見慣れていないと思うし、国内ラリーより厳しいチェックが必要、さらに言語の壁もあって時間が押してしまったようです。
とはいえ、指定時刻になったので公式車検場である豊田スタジアムの地下駐車場へ向かいます。駐車場入口での受付確認後は、エンジンを掛けることが禁止のため、メカ&スタッフみんなで208R2を手押しして車検場奥まで進みます。
公式車検で最も厳しくチェックされるのが安全装備です。競技前の公式車検では安全面、競技後に行なわれる公式車検ではタイムに関わる性能面のパーツや取り付け方法を確認されます。今回はロールケージが規則通り溶接されているか、積んでいる消火器の規格は規則に準じているか、などなど多種類の安全装備が確認されます。
監督はじめスタッフが車検に通るか心配していましたが、ここまで大きな問題もなかったし私は余裕で通るだろうと思ってました。先に私は選手たちのウェアやヘルメット、シューズ類を車検員にチェックしてもらいます。ウェア類がすべてFIA公認のものか、期限は切れてないか、詰め込む靴下の数までチェックされます。この作業は全日本ラリーの時も経験したのでスムーズに終わることができました。
指定時刻からさらに2時間近く待って、いよいよ最初の重量測定の順番がまわってきました。重量測定の次は、ロールケージや消火器、シートやハーネスなどの車内安全装備、そしてリフトに上げて燃料安全タンクと下まわりのチェック、最後にエンジンやミッションの封印(シーリング)と進んでいきます。目の前には車検落ちする車両もたくさんあり、海外のFIA技術責任者やたくさんの日本人の車検員が車両を隅々までチェックする物々しい雰囲気で、私も少し緊張しました。
すると、私たちの車両はなんと車検落ちとの宣告が……。
ラリーカーの車内には安全のためロールケージが取り付けられていますが、そのパイプの材質や太さ、取付方法などは規則で細かく決められています。そしてクラッシュ時にクルーの頭部が当たる可能性のあるパイプにはFIA公認のロールバーパッドを装着しないといけないのですが、そのロールバーパッドの長さが少し足りなかったのが1つ目の理由。2つ目の理由は、シートとシートレールの間にあるスペーサーの接触面積が少ない、とのことでした。
このようにかなり厳しいです。私からするとこんなとこでダメなの? って思ってしまいます。周りを見ると、国内のエントラントはほとんど車検落ちしています。再車検は翌日11月10日(木)の朝8時30分とのこと。
私たちは比較的修正が簡単な部類のようで、すぐにロールバーパッドの追加取り付け、そして監督がどこからかRally2用のシートスペーサーを入手してきて、20時過ぎにはすべて解決しました。事前に聞いてはいましたが、やはりラリージャパンの夜は長いです。ほかの車検落ちしたチームの中には、一旦サービスパークから離れて工場まで車両を運んだり、ほぼ徹夜で修正したりと、かなりハードな内容もありました。
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