「ロボットフレンドリー」な環境の実現に向け、官民のキープレーヤーが実証の成果と知見を講演
「自動配送ロボのラストワンマイルシリーズ04」レポート
森トラスト「ロボットが走りやすい物理環境の標準化」とは
共通テーマ「ロボットフレンドリーな施設の実現に向けて」の3番目は、不動産デベロッパーの森トラスト 社長室戦略本部デジタルデザイン室部長代理の朝比奈泰裕氏が、「『新たな都市の価値を創造』を目指す with ロボットでのサービス創出/プロセス変革への挑戦」と題して講演を行った。館内物流のロボット活用で重要な「ロボフレな物理環境の構築」について仮説を立てて検証し、再定義した経緯を語った。
森トラストは、東京・港区を中心に1950年代からオフィス・商業・住宅のビル開発を手がける不動産事業が柱だ。さらにホテル&リゾート事業の2番目の柱と、海外不動産投資や新規事業開拓のスタートアップ投資の投資事業を3番目の柱に掲げる。ロボット領域では、次に登壇するQBIT Roboticsを含めてスタートアップに出資。同社のクラウドサービスで複数メーカーの自動配送ロボット群をビル内の物流に活用する実証実験を行った。
実証で見つかった課題は多数あり、金属製の重い防火扉の開閉から、ロボットが運ぶことに対する物流事業者の責任分界点などさまざまだ。「そもそもロボットが滞留することを想定してビルは作られていない。まだ紙の伝票が残っていて、ロボットがすっと(集荷に)入れる環境でもない」。現時点ではROI(投資利益率)がよくないという結論が出た。
では、優れたROI実現には何が必要か。既存のビルをロボット向けに改造して「ロボフレ環境」にするための施設改修費用の削減と、ロボットをカスタマイズする費用の削減が求められるだろう。しかし、そもそも導入コストを抑えるための施設改修方法がわかっておらず、カスタマイズするための要件定義に時間とお金がかかっては先に進まない。
朝比奈氏は「ロボットが走りやすい物理環境の標準化が第1だと気づいた。ロボフレ環境の構築旗揚と重なり、その理念に共感してロボフレな物理環境の構築プロジェクトに参画した」と話し、物理環境の標準化でコストの低廉化を目指すことに。「施設側は何もしないで、とにかくロボットで対応してくださいと安易に考えていた」と振り返る。
物理環境の標準化として、まず「ロボフレレベル暫定版」を策定。参考にしたのはバリアフリー法で、車いすでも建物の中を円滑に移動できるようにする法律だ。これに準拠すればロボットも移動しやすいと見立てた。「ほとんどのロボットを使用可」を「レベルB」の基準にして、「レベルA」はどこでも自由に行き来できる環境。「レベルC」はバリアフリーレベルにも達せずロボットの移動に支障が出るレベルとした。
実験には清掃ロボット5台を使った。ロボフレレベル暫定版をもとに、ホテルの断面図や平面図を色塗りしてみた。基準階はレベルAで自由に行き来でき、客室の廊下部分はレベルB、客室の中は全てレベルCだ。ロボフレレベルは「難しいからやめる」ではなく、レベルBをAにするには何をすればよく、いくらかかるのかを判断するために活用する。レベルCをBにするには防火扉の改修が必要とわかれば、助成金や規制緩和の適用を促せる。
詳細な検証で見えてきたことは多い。例えば、建物内には水回りからドライエリアへの出口に足拭きマットが敷かれ、ロボットの走行時に巻き込んでしまう。またカーペットと床との間にある5ミリ以上の段差は、運ぶ荷物にダメージを与える可能性がある。
実験を経て暫定版を再定義した。レベルBからAにする手段や費用も算出して、評価や判断ができる。段差の高さ(なし、5ミリ以上、5ミリ以下)や溝(幅10ミリ以下、10~20ミリ、20ミリ以上)、戸の幅、エレベーターのかご幅、床面の滑り、環境光、障害物などを挙げて解消方法を記載。駆動系・認識系それぞれにロボットの性能を上げるコストを試算した。
今後、既存施設の改修工事に適用して、ロボットが円滑に移動できたのかの評価が必要になる。「ロボットに関わるみなさんにこのロボフレレベルの定義を見てもらい、共通認識として認められるものに昇華させていく」と朝比奈氏は述べて講演を終えた。
会場参加者との質疑応答では、「ロボフレレベルで建具や建材にも手を付けるのか」と問われ、朝比奈氏は「ひとまず15項目の指標を決め、走行に関わる部分をスタート地点にした。最終的には建具の高さや形状、材質にも発展させたい。壁面の材質や天井の反射に関する指標も重要なファクターだ」と答えた。