「グランツーリスモ」・山内一典氏が求める 「車とデータ」のイノベーション
山内一典(「グランツーリスモ」シリーズ クリエイター)
この記事は、国土交通省が進める「まちづくりのデジタルトランスフォーメーション」についてのウェブサイト「Project PLATEAU by MLIT」に掲載されている記事の転載です。
――「グランツーリスモ」といえば、レースゲームの代名詞的存在である。1997年12月、初代のPlayStation®で発売されて以降、25年以上に渡って一線を走り続けている。
同作の特徴は、自動車メーカーと提携して「実在の自動車」をゲームに持ち込み、それが走る空間を「ゲームとして/リアルドライビングシミュレーターとして」リアルに再現してきたことにある。25年前、ゲーム機向けとしては初期のリアルタイム3DCGで「憧れのあの車」を走らせるところから始まったシリーズは、現在では自動車産業とも深い関わりを持つ。
CGで世界を構築して利用する、という意味で、ゲームはデジタルツインに近い部分がある。特に、「グランツーリスモ」のような「リアルさ」を追求する作品ではなおさらだ。
初代から一貫して同シリーズの開発に携わっている、株式会社ポリフォニー・デジタル 代表取締役 プレジデントの山内一典氏は、今回の取材時、すでにPLATEAUの3D都市モデルを自ら触り、試していた。最新のイノベーションを率先して取り入れている同氏に、自動車ゲームにおけるデジタルツインについて聞いてみた。
計算資源最適化の中で目指す「ドライビング体験」の再現
――「グランツーリスモ」の歴史は、リアルな自動車モデルとコースを作り続けた歴史でもある。最新の『グランツーリスモ7』と初代『グランツーリスモ』の映像を比べると、その差は一目瞭然だ
山内:初代の自動車モデルは、1台300ポリゴンで作られていました。デザイナー1人で1日1台、というところでしょうか。しかし今は、1台に6ヶ月かかります。
それだけリアルになっているわけですが、実は「もう今後は作り直さなくていい」くらいの精度でデータを作っているからでもあります。今のモデルは、最新のPlayStation®5(以下、PS5™)でもオーバースペックなものです。ソフトが出るたびに作り直すのではなく、すでに作ったデータを今後使っていくことを想定しています。
――ゲームではプレイヤーにとっての「快適さ」が最重要項目だ。どんなに美しいグラフィックになっても、コントローラーの操作で思い通りに動かなければ意味がない。レースに没入できるのも、ゲームの中で「リアルな世界の再現」と「快適な操作性」が共存しているためだ。
PCであろうとゲーム機であろうと、使える演算資源には限りがある。その中で最大の効果を発揮するよう、データを小さくして扱う。しかしそれでも、現在のゲームデータは大きなものになっている。『グランツーリスモ7』を構成するデータは、自動車からコースまですべて含めて100GBぶんあるという。
しかし、そのデータは「作ったものそのまま」ではなく、ゲーム機で快適に動かすために、徹底的に小さく最適化した結果の「100GB」なのだ。
山内:ビデオゲームというのは、凄まじいリダクション(縮小)の世界。本来我々が作っているデータは、ゲーム内で使っているものから1桁・2桁上のサイズです。
例えば、「グランツーリスモ」の中では実際に存在するサーキットが多数再現されています。これは半分研究目的でもあるのですが、それらのデータを作る際には、現実のサーキットで本当にアスファルトの凹凸までデータ化しているのです。
PS5のコントローラーには、振動を微細に再現する「ハプティックフィードバック」が搭載されています。その機構で走行時の振動を再現するためにデータ化したのですが、凹凸からロードノイズの再現も行っています。
なぜデータをそれだけリアルに作るかといえば、やればやっただけ、ユーザビリティやエンターテインメント性に還元され、品質が向上するからです。
――「グランツーリスモ」は、CGとしての表現だけでなく、車の挙動のシミュレーションについてもリアルさを追求してきた。ゲーム機に付属するコントローラーでもリアルな走りができるのはもちろんだが、精度の高いレーシングコントローラーにも対応し、現在はeモータースポーツとしてのレーシングイベントも積極的に開催されている。そうしたことに対応できるのも、「やればやるほど品質の向上につながる」という発想があってのものだ。