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行政の3D都市モデル活用を支援する三菱総研が語る「未来の課題」

3D都市モデルPLATEAUは我々をどこに連れていくのか? 〔三菱総合研究所(MRI)編〕

特集
Project PLATEAU by MLIT

 国土交通省が推進する、3D都市モデルの整備/活用/オープンデータ化の取組み「Project PLATEAU(プロジェクト・プラトー)」。今年度は、PLATEAUを活用したサービス/アプリ/コンテンツ作品コンテスト「PLATEAU AWARD 2022」において、幅広い作品を広く募集している。賞金総額は100万円となっている。

「PLATEAU AWARD 2022」は現在応募を受け付けている(応募締切:2022年11月30日)

 「3D都市モデルPLATEAUは我々をどこに連れていくのか?」と題する本特集では、PLATEAU AWARD 2022を協賛する5社に、現在のProject PLATEAUとの関わりだけでなく、各社がPLATEAUの先にどんな未来を思い描いているのかについてインタビューしていく。

 本シリーズ最終回となる今回は、総合シンクタンクである三菱総合研究所(以下、MRI)の登場だ。

 MRIはProject PLATEAUに初年度(2020年度)から参画し、PLATEAUの3D都市モデルをWebブラウザで可視化する「PLATEAU VIEW」(V1.0)の開発/運用にはじまり、自治体/公共分野で都市計画/まちづくり、防災や防犯、モビリティ、地域活性化といった幅広いユースケース開発/マネジメントを手がけてきた。

 数多くの事例を手がける中では、自治体がPLATEAUの3D都市モデル活用を進めていくことの可能性とともに、そうした未来に向けた課題点も見えてきているようだ。同社 デジタル都市マネジメントグループ 主席研究員の林典之氏、デジタル都市マネジメントグループ 研究員の小津宏貴氏に詳しく話を聞いた。聞き手を務めるのは、角川アスキー総合研究所の遠藤諭だ。

三菱総合研究所 スマート・リージョン本部 デジタル都市マネジメントグループ 主席研究員の林典之氏(左)、研究員の小津宏貴氏(右)

全国で多数の自治体/地域ユースケース実証を支援するMRI

 PLATEAUにおいてMRIが携わってきたユースケース実証事例は数多い。まず2020年度には、前述したPLATEAU VIEW開発のほか、公共分野において30件を超えるユースケース実証に参画。2021年度は静岡県沼津市における「3D都市モデルを活用した自動運転車両の自己位置推定技術検証」や、石川県加賀市における「3D都市モデルを活用した太陽光発電施設の設置シミュレーション技術検証」のコーディネートを手がけた。

「3D都市モデルを活用した自動運転車両の自己位置推定技術検証」の技術資料(PLATEAU Webサイトより

 今年度(2022年度)は国土交通省「まちづくりのデジタル・トランスフォーメーション(DX)実現会議」の運営を支援しているほか、社会課題解決型ユースケース(25件)のマネジメント、地方自治体における3D都市モデル構築/活用ユースケース実装の補助事業「都市空間情報デジタル基盤構築支援事業」(36団体)の支援も手がける。

 こうした積極的な取り組みの背景には何があるのか。遠藤のインタビューはそこから始まった。

――(アスキー遠藤)まずは、そもそもなぜMRIは積極的にPLATEAUに取り組んでいるのか。そこからお聞きしていいですか。

林氏:はい。もともとMRIは何でもやっているような会社ですが、その中でわれわれのチームは空間情報やGIS、デジタル都市といったことをずっとやってきました。2Dの空間情報をずっと扱っていて、ここ10年くらいで3Dの空間情報が盛り上がってきたので、それも扱うようになりました。これはPLATEAU以前の話ですね。

 ただし、最初のころはまだ「3Dデータはあってもいいけど、なくても大丈夫」という程度の位置づけでした。一方で、別領域の取り組みとして自動運転に使う3Dマップ(「ダイナミックマップ」)の作成支援などを手がけ、道路上にある構造物がすべて点群データとして取れるようになりました。そこから「これで街の形が全部取れるね、ほかの分野にも使えそうだね」という話になり、本格的に3次元データの活用を検討するようになりました。

――もともと空間情報を扱われていて、徐々に3次元の世界に近づいてきたわけですね。

林氏:そうです。そうした動きと並行してProject PLATEAUが発表され、3D都市モデルの取り組みが盛り上がってきました。わたしはもともと都市計画の経験もあるので、そうした新技術が都市や地域のマネジメントの「武器」になると考えました。そこで、最近では3D都市モデルやデジタルツインがどのように都市のマネジメント、まちづくりに使えるのかを、自治体などと一緒にやっているという話になります。

堅いユースケースから柔らかいユースケースまで

――以前インタビューしたアクセンチュアは民間のユースケース支援でしたが、MRIは自治体のユースケース支援が中心なんですね。

林氏:はい。PLATEAUの3D都市モデルを自治体がどう使っていくか、行政のさまざまな事業でどのように活用していくのかという、若干地味ではあるもの大切な取り組みを担当しています。

 

――自治体のユースケースというと、まずは「防災」とか「都市計画」といったテーマになりがちです。もちろんそれも大切なんだけど、たしかにちょっと地味ですよね……。そういう“お堅い”事例ばかりなんですか。

林氏:いえ、柔らかいユースケースもありますよ。茨城県に鉾田市という自治体があるんですが、メロンの生産量日本一を誇るにもかかわらず知名度が低いことが悩みでした。そこでPLATEAUに目を付けて若手職員による検討チームでアイデアを出し合い、シティプロモーションのためのアプリを開発することにしたんです。

 具体的に言うと、3D都市モデルで再現された鉾田市の観光名所を、ゆるキャラの「ほこまる」の案内で散策するゲーム仕立てのアプリです。名所をうまく回ってランキングの上位になったら、メロンなどの名産物がもらえるという仕掛けですね。

――メロンがもらえるなら、めっちゃいいじゃないですか!

林氏:そうなんですよ(笑)。

 この話、鉾田市の若者たちが盛り上がって企画を進めて、今年度の国土交通省の補助事業として採択されました。ただ、自分たちだけでは技術面や事業面でどうプロジェクトマネジメントをしたらいいかわからないところもある。そこで、その補助事業の事務局業務を請け負っているMRIが、横から情報共有やアドバイスをしているといったかたちです。

 自治体と事業者のマッチングについては、国土交通省のほうでマッチングの仕組みを用意しています。ニーズ/シーズの紹介やオンラインイベント等を実施していて、「こういうことがやりたい」という自治体と「こういうことができます」という企業をつなぐ仕組みです。

今年度開発中の鉾田市のシティプロモーション向けアプリ(中央)

――なるほど。ほかの自治体についても、基本的には鉾田市の事例と同じような関わり方なんですか?

林氏:そうですね。テーマは防災や都市計画、モビリティなどさまざまですが、自治体としてやる気はあるけど技術がわからない、仕組みがわからないといった場合に、われわれがコンサルティングさせていただくというかたちです。

 PLATEAUでお手伝いした中では、たとえば加賀市における太陽光発電のシミュレーションなどはわかりやすいですね。屋根の形状まで再現したLOD2の3D都市モデルを使うことで、正確な日照量に基づく発電量がシミュレーションできることに加えて、パネルの反射光による問題が起きないかどうかもあらかじめチェックできます。

――太陽光発電のパネルを設置したはいいけど、その反射光で隣の家がまぶしくてしょうがない、そういう事態を防げるわけですね。それは新しいな。

林氏:“3Dならでは”のユースケースとしては、みなとみらいで展開しているローカル5Gのシミュレーションもあります。ある場所に設置した基地局からどこに、どのくらい5G電波が届くのかというのは、2次元のシミュレーションでは正確にはわからないわけです。ここに3D都市モデルを使うことで、最適な設置場所を決めるというのをやっています。

自治体における3D都市モデル活用を妨げる「ハードル」とは

――これまでたくさんの自治体の3D活用モデル活用を支援してきた立場から、課題を感じられる部分はありますか。

林氏:自治体一般を民間と比べると、まだまだ活用が広がりにくい土壌があると感じます。たとえば「今の仕組みは2次元の地図でやっているので、別に3次元のデータは必要ないです」といった具合に、既存のルールや枠組みを乗り越えないと、なかなか3D都市モデルの活用が広がらない。そうした自治体のハードルをどう乗り越えていくのか、国土交通省とも日々議論を重ねているところです。

 活用に積極的な自治体では、トップの市長だったり企画、都市計画の部署が「やろう」という場合が多いですね。一方で、各現場の部署の方は「今の業務だけでも大変なのに……」となりがちです。決して自治体にやる気がないわけではないので、まずは「やろう」という自治体から盛り上げて、そのユースケースを徐々に広げていきたいと思います。

――そこは少し時間がかかりそうですが、乗り越えていきたいですね。ほかにも「ハードル」はありますか?

林氏:行政はさまざまなデータを持っているわけですが、そのデータをそのままオープンにしてしまうと問題が生じる場合がある。だからそのままは出せない、というケースもあります。

 たとえば防災を目的に水害シミュレーションなどをやるわけですが、実際にシミュレーションをしてみると「この家は完全に水没する」とか、ものすごくインパクトのある絵として出てしまうわけです。そこで「これを出すと大騒ぎになるからやめておこう」とか「縮尺を小さくして、個々の家まではわからないようにしよう」となってしまう。そういうハードルもあります。

――本来の目的からすればリアルなシミュレーションの結果を出したいところだけど、とはいえ住民の方の感情もあるし、不動産業者などのビジネスにも影響が大きい。そこは難しいところですね。

林氏:PLATEAUの3D都市モデルについても、自治体が持っている「都市計画基礎調査」の情報が基になっているのですが、これもすべてオープンになっているわけではない。本当は建物の形状だけではなくて、「オフィス」や「ホテル」といったメタデータも持っているのに、それが外に出てこない。

――でも、本来はそういうセマンティックデータも含むのがPLATEAUですよね?

林氏:はい。国としてもオープンデータ化を推進しており、法律も整備され、計画も進められている……はずなんですが、なかなか出てこなかったりします。

――たしかにそこはまだまだ議論が必要な、大きなテーマという気がしますね。

林氏:MRIが事務局運営をお手伝いした、国土交通省のまちづくりのDX実現会議においてもそういう議論があり、あらためてオープンデータの方針が打ち出されました。

 PLATEAUについても、やはり建物の形状、ジオメトリのデータだけではなくて、その用途やいろんなデータ、動的なデータも含めてセマンティックデータを組み合わせないと活用の幅が広がりませんし、都市をデジタルツインとして表現してシミュレーションするといったこともできないでしょう。そこの“蛇口”がちょっと詰まっている場合があるのは課題ですね。

活用促進のために「機運を作る」「環境を整える」

――なかなか解決が難しそうな課題ですが、きれい事だけを言ってても先に進まないので、こういう話も大切だと思います。で、これからどうしたらいいでしょうか? MRIさんとしてはどう取り組んでいくつもりなんですか。

小津氏:3D都市モデル活用に向けた「機運を作っていく」のがひとつだと思います。「よそがやったからうちも」というのはよくある話ですので、少しずつ事例を増やしていく。1つの自治体の中でも、ある部局で取り組みが盛り上がったら、ほかの部局にもそれが波及して使ってもらえるようになるかもしれないと考えています。

 またPLATEAUの活用にあたって浮き彫りになってきたさまざまな課題、たとえば現状の法制度などについては、分科会などで議論を重ねて、少しずつつぶしていっています。

 もうひとつが「データ活用環境の整備」です。わたしは「東京都デジタルツインプロジェクト」に関わっているんですが、これは東京都のデジタルサービス局が主導してやっています。そのミッションは、東京都のデジタルツインを構築して、都の各部局がデータを活用できるシステムを整えるということ。実際にいろんな部局がデジタルデータを活用して行政の業務を行うというのは、まさにこれから庁内のデータ共有基盤を整えて、事業を進めていく中で取り組んでいくことになります。

――「機運を作る」「環境を整える」を通じて、時間をかけて状況を変えていくと。あとは「それで得られるメリットは何か」を具体的に見せることも重要ですよね。

小津氏:各地域で空間情報、3D都市モデルを整備するだけじゃなくて「活用しよう」とすると、結局はどんどん地域DXの話に変わってくるわけです。行政をどう変えるのか、そのためにどんなデータを組み合わせる必要があるのかといった具合に。当初の話からどんどん広がっていく感じですね。

林氏:民間もそうですが行政も投資対効果みたいなことを言われていて、単に「面白そう」だけでは動けません。そこにキラーコンテンツ的な、「これは3次元じゃないと無理だ」とか「本当に役立つわ」とか、そういうユースケースが出てくると「よしやろう」となる。今はそれを模索しているのが現状です。

さらに未来を“妄想”して3D都市モデル活用の課題を考える

――ただですね、たとえば東京都のデジタルツインの取り組みにしても「これが出来上がったらこう使いたい」「未来はここまでやってやるぞ」みたいなビジョンはないんでしょうか。多少は“妄想”に近いものであったとしても、ある程度ぶっ飛んだ未来を想定しないと、その途中のものすら出てこないと思うんですよ。

小津氏:行政としては、まだそこまで提示できてはいないですよね。

林氏:あくまで個人としての見解ですが。遠藤さんのおっしゃるとおり、デジタルツインをバリバリやっていけば、現実の都市空間は不要になってすべての交流がデジタル上で、メタバースだけで行われるようになるかもしれない。そう妄想してみると、この「生身の身体」や「人と一緒にいる空間」の意味って何だろうと、もう一度振り返ることになりますよね。

――そうそう、やっぱりMRIさんにはそのくらいのスケールの話をしてほしい(笑)。特に「空間」や「建物」の話ってみんなに関係があるし、よくわからないくらい無限の可能性がある一方で、だからこそ、そう簡単にいかないところもあると思うんですよね。

林氏:生身の身体と生の現実感を本当に捨てられるのか、そうしたものを捨てていってもきっと何かが残ると思いますがそれは何なのか、そこはしっかり考えていかないといけない。たとえばメタバース空間に入っても、やはり現実世界の身体感覚、距離感なんかがベースになってないと、みんな混乱しますよね。

 モラルやルールといった部分も同じだと思います。バーチャル世界に行ったときに、ある空間の所有権だとか、そこに広告を出していい権利、誰かとケンカしていい権利とか(笑)、そういうものを誰がどうやって作っていくのか。そこはちょっと考えないといけないんでしょうね。

――東京都がやる前に、誰かが先回りして「バーチャル東京都」を作ってしまうとか、ありえますもんね。バーチャルな世界ならば、新宿や渋谷、銀座の街を勝手に自分のものにしてしまってもいいのか。

林氏:「それができるからこそメタバースなんだ」という意見もあれば、「さすがにそこまでやると混乱するよ」という意見もあるでしょうね。やはりある程度は秩序がないと、みんな困るだろうなとは思います。

小津氏:すでにかなりの精度で現実世界をデジタル化することができるようになっていますが、その後には林の言うように「何をデジタル化するのか」というベストミックスの議論に進むのかなと想像しています。

――MRIさんにはそういう未来の課題もしっかりふまえつつ、自治体の事例ももっと増えるように支援して、PLATEAUを盛り上げていただきたいなと思います。

林氏:そうですね。昔から、地域おこしでは「よそ者、若者、馬鹿者」の存在が必要などと言いますが、そういう方が今度は3D都市モデルを使って、地域をガラッと変えるような事例がどんどん出てきてほしい。一部の大都会ばかりではなく、全国の地域、街にも目を向けていただきたいなと思っています。

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