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アマゾンの「ルンバ」買収でスマートホーム市場での米当局の懸念増

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 アマゾンは、Eコマース市場での強さが知られているが、クラウド市場やオーディオブック市場でもトップシェアを有している。また、グーグルの牙城であるデジタル広告市場でも存在感を強めるなど、現代のコングロマリット企業として拡大を続けている。

 そんなアマゾンがいま注目している市場の1つがスマートホームだ。

 アマゾンは2022年9月末、ハードウェアのローンチイベントを開催し、スマートホーム関連のプロダクトを多数お披露目した。イベントでの注目株は、スマートスピーカー「Echo Dot」、睡眠トラッキングライト「Halo Rise」、4Kテレビ「Fire TV」、見守りカメラ「Blink Mini」、野外監視カメラ「Ring Spotlight Pro」、ホームロボット「Astro」など。

 また2022年8月5日には、日本でも知られる掃除ロボット「ルンバ」を開発するiRobotを約17億ドルで買収する計画を発表。iRobotの株主らの合意と当局の承認を得た後に買収完了となる。

 このようにスマートホーム市場での足場固めを進めるアマゾン、その大きな狙いは、家のデータを取得し、複数のスマートホームデバイスによる連携活用を実現することにあるとみられている。単一のプロダクトでは不可能な包括的なスマートホームサービスを構築することで、スマートホーム市場での優位性を構築しようとしているのだ。

 しかし、米国では一部の議会議員からアマゾンのiRobot買収が市場競争を歪めるとの懸念の声があがるなど、アマゾン一強を阻止する動きも強まっている。

 以下では、スマートホーム市場におけるアマゾンの動きを探りつつ、同社に対し強まる当局の圧力の現状についてみていきたい。

アマゾンのスマートホーム戦略の肝、アンビエント・インテリジェンス

 アマゾンのスマートホーム事業が今後どのように展開するのかを予想する上で、iRobotの買収が大きなヒントを示している。

 iRobotは掃除ロボット「ルンバ」を開発する企業だが、アマゾンが買収で獲得したいのは自動掃除機能ではなくiRobotが強みとする家のマップデータ取得機能だとみられている。

 ルンバが掃除をする際、掃除ルートを策定するために部屋の形や物体の位置をセンサーで把握するプロセスが行われている。アマゾンは、この機能を活用し、他のスマートホームデバイスとの連携を模索しているというのだ。

 このことは、アマゾンのスマートスピーカー「アレクサ」のスマートホーム部門責任者であるマルジャ・クープマンズ氏がテックメディアThe Vergeの取材で明確に語っている。

 クープマンズ氏は、アマゾンのスマートホーム関連の取り組みにおいて「アンビエント・インテリジェンス」というコンセプトが重要だと指摘。アンビエント・インテリジェンスとは、AIによって複数のデバイスが統合された空間のことを指す。この空間では、デバイス単体では不可能なことが、複数のデバイスによって可能になるという。

 そして、アンビエント・インテリジェンスを実現する上で、必要になる要素の1つが複数のデータポイントを持つ、詳細な部屋・家のマップとなるのだ。

 アマゾンは現在、ホームロボット「Astro」や屋内見守りドローン「Ring’s Always Home Cam」などを通じて部屋・家の詳細マップ策定を試みようとしているようだが、どちらも一般向け販売には至っていない。データ策定の加速に向け、iRobotの買収に動いたことがうかがえる。

 iRobotの共同創業者でCEOのコリン・アングル氏の発言もアマゾンのスマートホーム事業の今後を予想する上で、重要な示唆を与えてくれる。

 アングル氏によると、AI開発をさらに一段進める上で現在必要なのが、ベターなAIを開発することではなく、コンテクストを理解させること。現時点で、AIが「キッチンに行き、ビールを取ってきて」という言葉を理解することは可能だ。しかし、キッチンがどこにあるのか、冷蔵庫がどこにあるのか、またビールがどのような形をしているのかというコンテクストを知らなければ、言葉を理解しても意味をなさないという。

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