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東芝が力を入れるシミュレーテッド分岐マシンと量子暗号通信

連載
大河原克行の「2020年代の次世代コンピューティング最前線」

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東芝の量子分野への取り組み

 島田社長兼CEOが語るように、東芝の量子分野への取り組みは、大きく2つにわけることができる。

 ひとつめは、シミュレーテッド分岐マシン(SBM=Simulated Bifurcation Machine)である。

 シミュレーテッド分岐マシンは、東芝が2016年に発見した最先端の量子インスパイアド技術だ。東芝が提案した量子分岐マシンを原点に、2019年にはシミュレーテッド分岐アルゴリズムを提案。これをもとに進化を遂げている。

 また、シミュレーテッド分岐アルゴリズムは微分方程式で解き、並列更新が可能であることから、PCクラスタやGPU、FPGAといった既存の並列計算機による高速化が容易な点も見逃せない特徴だ。言い換えれば、並列計算という古典コンピューティングの技術トレンドと親和性が高いアルゴリズムともいえ、これらの性能を活用して組み合わせ最適化問題を高速に解くことができる。

 2016年の発表時点では、FPGAを実装したシミュレーテッド分岐マシンは、コヒーレントイジングマシン(CIM)の約10倍の高速化を達成。8個のGPUを活用したGPUクラスタ実装シミュレーテッド分岐マシンでは、CPUで実行しているシミュレーテッドアニーリングの約1000倍の高速化を実現したという。

 さらに、最新のシミュレーテッド分岐マシンは、FPGAを実装したbSB(弾道的シミュレーテッド分岐アルゴリズム)マシンでは、2016年のCIMに比べて約120倍の高速化を実現したほか、さらなる高精度化を実現するdSB(離散型シミュレーテッド分岐アルゴリズム)では、GPUクラスタを実装したdSBマシンにおいて、シミュレーテッドアニーリングマシンでは1年2カ月かかる計算を、30分間で解くことができたという。

 東芝では、これまでの成果をもとに、2021年3月から、FPGAをした実装したオンプレミス版シミュレーテッド分岐マシンのサービス提供を開始。2022年3月には、速度や精度、規模を大幅に向上させることができる新たなアルゴリズムを採用した量子インスパイアド最適化ソリューション「SQBM+」の提供を開始した。

 さらに、2022年6月からは、マイクロソフトのAzure Quantum 上でSQBM+を利用できるようになり、bSBアルゴリズムと、dSBアルゴリズムを、Azureクラウドで提供されるGPUハードウェアを活用して、最高のパフォーマンスを発揮するように自動的に最適化することもできるという。また、Amazon Web Services が運営するAWS Marketplaceでは、シミュレーテッド分岐マシンのPoC版を公開しており、大学や研究機関などが利用できるようにしている。

 東芝では、SQBM+を、高速、大規模に対応できる特徴とともに、いますぐに使えるイジングマシンと位置づけ、送電経路の最適化などを行う電力最適分配、渋滞が発生しないように自動車の走行経路を決定する渋滞回避策を構成する最適な組み合わせを求める分子設計、最短の走行距離を導き出す経路最適化計算、リスクが低く、高い収益性をもたらす株の組み合わせを探索するポートフォリオ最適化などに利用できるとする。

 また、クラウドおよびオンプレミスのいずれでもサービスを提供しており、場所を問わない場合や、時間をかけても大規模な計算をしたい場合にはGPUリソースが潤沢なクラウドを活用し、データを外に出せない場合や、規模よりも超低遅延が重要な場合にはオンプレミスの利用を提案するといった使いわけも行っている。

 東芝では、シミュレーテッド分岐マシンを中核に、業種に特化したソリューションパートナーやグローバルパートナーなどと連携したソリューション化を推進するほか、すぐに利用できるという特徴を活かして、成功事例を積み重ねを推進していく考えだ。

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