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地域河川から人工関節、昆虫食まで SDGsにつながるテクノロジー、ビジネス

第48回NEDOピッチ「SDGs ver.」レポート

特集
JOIC:オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会

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人工関節が叶える 歩き続けられる未来
株式会社カーム・ラーナ

 年齢とともに増加する変形性関節症の患者のうち、股関節に痛みを感じる患者は国内に120万人から510万人いるとされており、その9割が女性となっている。しかしながら小柄な日本人女性の体格に合ったインプラントが少なく、また従来の手術方法は筋肉を多く切るため、痛みや筋力低下が残りやすいなどの課題を抱えていた。

 株式会社カーム・ラーナはこれらの課題を解決する純国産人工股関節ミルフィーおよび股関節の手術を支援する携帯型手術台ルキュアの開発を行っている。

株式会社カーム・ラーナ 代表取締役 中村順一氏

 人工股関節ミルフィーは小柄な日本人女性の体格に合ったコンパクトサイズであると同時に、筋肉を切らない最新の手術方式に適した工夫が施されている。また、携帯型手術台ルキュアには、難易度の高い最新の手術を易しく安全かつ正確に実施できるようにする工夫が詰まっている。他にも手術補助台を使うことによって患者を平に寝かせることができるようになったり、ルキュアの持ち運びがしやすくなるよう、搬送キャリアを開発するなど使いやすさに徹底的にこだわっている。

 事業展開も順調で、ルキュアは既に1000例以上の手術に使用され、首都圏の40病院に導入実績がある。またミルフィーは千葉大で300例の手術を行っており、千葉県内の10病院に導入されている。今後は販路拡大を進めて、5年後の2027年には全国展開を実現したいとしている。

 人工股関節の国内市場規模は1200億円で20年間で約3倍に増加しており、今後も成長が見込める。さらに世界市場は1兆4000億円に達しており、日本の10倍以上の規模を持つ。残念ながらこの市場に日本企業はまだ参入できていないが、カーム・ラーナはさらに良い製品を開発してこの市場にチャレンジしたいとしている。

企業共創によるSDGsの最新事情

 5社のスタートアップによるピッチに先立ち、セコム株式会社 本社オープンイノベーション推進担当 リーダー 沙魚川 久史氏が司会者からの質問に答える形で、大企業におけるSDGsへの取り組みの最新潮流が紹介された。

セコム株式会社 本社オープンイノベーション推進担当 リーダー 沙魚川久史氏

――様々な企業がSDGsに取り組むようになってきているが、最近の潮流で特徴的なことは何か。

 SDGsはもともとビジネスを通じて社会をより良くしていこうという活動で、そこが従来のCSRとかドネーションなどとは根本的に違う。初期では商品を通じて世の中を良くしようというモノづくり、サービス作りをSDGsと捉えていた会社も非常に多かった。しかし最近は、事業活動全体、あるいは商品を生み出すバリューチェーン全体で社会課題に取り組むことがサステイナブルな社会につながるのだという広がりが出てきた。

 例えば生産工程のCO2削減とか、社員1人ひとりの自己実現をサポートするといったことも、実はトータルで見るとより良い社会を作る事業活動になっている。製品そのものということに着眼していた時代から、一歩進んで事業活動のバリューチェーン全体で、より社会貢献やサステイナブルな社会づくりに寄与するにはどうしたらいいのかということに、皆さん取り組み始めたのかなと思っている。

――目標実現のため、(大企業が)スタートアップと共創することはあるか。

 昔は大きな社会課題を1つ解決すると、それが多くのお客様の幸せに直結するという時代があった。しかし社会が成熟して豊かになり1人ひとりの価値観が成長してくると、1つの社会課題を解決しても、それが必ずしも1人ひとりに刺さるわけではなくなってきた。

 お客様の数だけ多様化してきたマインドセットを会社の中に取り込んで、みんなで新しい価値に取り組んでいくというオープンイノベーションの姿勢が大事だと思う。オープンイノベーションをプロダクト開発の技術的な提携と捉えている方もいるかもしれないが、本当に重要なのは、その前段階である自分たちが持っていないマインドセットを外から取り入れてくるところにある。

 多様化する社会によりフィットして寄り添っていくために、マインドセットをたくさん掛け合わせる必要がある。そのためにオープンイノベーションというのは特に今重要になってきている。

SDGs推進に向けた政府の取組について

 SDGsスタートアップ5社によるピッチに続いて、経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 専門職 齊藤 直樹氏から、政府と経済産業省によるSDGs推進に向けた取組について紹介がなされた。

経済産業省 産業技術環境局 技術振興・大学連携推進課 専門職 齊藤直樹氏

 日本のSDGsに向けた取組は、2015年に国連サミットでSDGsが採択された翌年に、内閣官房に推進本部を設置したところから始まる。推進本部の本部長は内閣総理大臣、副本部長に内閣官房長官と外務大臣、構成員に全閣僚という構成になっている。この推進本部とステークホルダー代表による円卓会議で日本のSDGs実施に向けた様々な指針を策定している。

 SDGsはすべての企業に対して17の目標達成にビジネスの文脈の中で取り組むことを求めている。2030年までに年間12兆ドルの新たなビジネス機会をもたらすと試算されており、中でもエネルギー関連事業では国内自動車産業の市場規模を超える803兆円の市場が生まれるとしている。

 その一方、日本企業のSDGsへの取り組みは進んでおらず、最も進んでいる金融業界でも41.5%、取り組みの遅れている建設業では21.2%の企業しかSDGsに積極的に取り組んでいないのが実情である。

 そこで注目すべきは機関投資家のSDGsに対する意識で、投資の意思決定にESGの課題を取り込む機関投資家および運用資産額は年々増加しており、逆にESGに積極的でない企業に対してはポートフォリオから外す動きもある。

 企業に対するヒアリングからも、ステークホルダーの関心増加や優秀な人材の確保、資金調達の実現や投資家からの好意的な判断の獲得など、SDGsをビジネスチャンスとして本業に組み込むことのメリットが数多く指摘されている。

 経済産業省は研究開発型スタートアップ支援事業を推進しており、NEDOはスタートアップの各ステージに対応した複数の支援プログラムを用意している。また、令和3年補正予算による支援事業も行われており、特に地域活性化やエネルギー・環境分野の民間投資の活性化など4項目に該当する事業を営んでいるスタートアップは積極的に応募して欲しいとしている。

 最後にSDGsに関連した研究開発を行っているスタートアップに有用な税制の紹介があった。1つは研究開発税制で、研究開発を行う企業が法人税額から試験研究費の一定割合を控除できる制度となっている。一般型の研究開発税制のほか、オープンイノベーション型など複数の制度が用意されており、全てを合わせると法人税額に対して最大50%の控除を得ることができる。

 また、オープンイノベーション促進税制と呼ばれるオープンイノベーションを目的として国内法人等がスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得金額の25%を控除できる制度もある。これもオープンイノベーションを志向する企業にとっては非常にメリットが多い精度なので、積極的に利用して欲しい。

 「国策に売りなし」は投資家の間で言われている格言だが、SDGsは世界中の政府が国家運営の根幹をなす施策として取り組んでいる。その点からも、SDGsは企業のPR目的や横並び意識で片手間にやるものではなく、世界のトレンドに乗ったビジネスチャンスをつかみ取るために取り組むべきものと言える。

 既存企業には新たなビジネス開発の一環として、スタートアップには本業そのものとして、SDGsの視点から得た新たな着想から、世界に羽ばたくスタートアップや新事業が生まれてくることを期待する。

   

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