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AIとロボットで新薬開発を加速する MOLCUREの分子設計技術とは

連載
このスタートアップに聞きたい

 AIとロボットを活用して新薬を開発する株式会社MOLCURE(モルキュア)。同社のバイオ医薬品分子設計技術は、AIとロボットを活用して自動的に大規模スクリーニングと分子設計を行なうことで、医薬品候補分子の発見サイクルを効率化し、従来手法よりも高精度により多くの分子設計を実現するものだ。

 2021年7月にはジャフコグループ、STRIVE、SBIインベストメント、日本郵政キャピタル、GMOベンチャーパートナーズ、日本ケミファを引受先とする総額8億円の資金調達を実施。2021年9月現在、この技術を元に国内外の製薬企業7社10プロジェクトでの共同創薬パイプライン開発を実施している。今後はグローバル製薬企業との共同創薬パイプライン開発をさらに加速していく計画だという。

 医薬品業界で注目を集めているバイオ医薬品だが、近年は国内でもスタートアップやアカデミアとの協業の必要性が高まっている。特に機械学習を活用したAI創薬はスタートアップに強みがあり、大手製薬企業との共同研究も年々増加傾向にある。業界ではバズワードになりつつあるAI創薬は、標的探索、リード化合物探索、既存薬の再開発の3つに大別されるが、このうちMOLCUREが取り組んでいるのはリード化合物探索の部分だ。

 リード化合物探索とは、癌細胞などの創薬ターゲット(標的分子)に対して、標的分子に結合し、その働きを抑える医薬品の候補分子を見つける研究開発である。バイオ医薬品は従来の低分子医薬品に比べて分子のサイズが大きく、構造が複雑なため、探索の難易度が高い。

 MOLCURE代表取締役の小川 隆氏によれば、医薬品が製品として上市されるまでには約1000億円のコストがかかり、医薬品候補が実際に販売にこぎつけるのはわずか2万分の1だという。

 「我々の目標は、世の中に医薬品を立て続けに出せるようにすることです。世界にはまだ有効な治療法のない症例が3万以上あります。AIを用いて医薬品の分子設計を効率化し、治療法がない疾患に対して、早期に有効な薬を作る目途が立つような世界にしたい」と小川氏。

 MOLCUREの技術は、進化分子工学と言われる手法でバイオ実験を行ない、そこから得られるサンプルを次世代シーケンサー(NGS)でデータとして変換、AIで解析して有効な医薬品候補を絞り込む。コンピューターによる計算だけでなく、ラボの実験と密接に融合させているのが特徴で、この独自技術に関する特許を2本取得している。

 過去の案件では、製薬企業が、これまで匠の技術を持つ研究者が実験を繰り返しても1種類しか見つからなかった医薬品候補分子を、同社と共同創薬パイプライン研究を行うことで、医薬品候補分子を14種類まで引き上げた実績を持っている。AIが設計した医薬品候補分子の性能は、実験によって得られた医薬品候補を上回ったという。AIで設計した医薬品候補分子が、最終的に上市される未来も遠い話ではないだろう。

バイオテクノロジー実験自動化ロボット「HAIVE」を自社開発

 現在は、Twist Bioscience、日本ケミファをはじめとする製薬会社7社、10プロジェクトと共同創薬パイプライン契約を締結しており、MOLCUREのAIを用いることで、実験主体の従来手法に比べて高精度かつ10倍以上の速さで医薬品候補分子を設計できるという。

 「優秀なAIを作るためには、強いバイオテクノロジーが必要」と小川氏。同社ではロボットの実験で学習データを収集し、AIの出力を検証するサイクルを重要視している。NEDOのプロジェクトでも採択されたバイオテクノロジー実験自動化ロボット「HAIVE」は、2020年の時点で実験の60%を自動化している。研究者とロボット、人機一体での実験も重視しており、「研究者が優秀な助手をたくさん抱えているようにロボットを活用したい」と小川氏。創業当初からロボットによる実験を想定し、ロボットの専門家をメンバーに入れていたそうだ。AIバイオベンチャーでありながらロボットも自社開発で、新川崎にハードウェアのR&D、鶴岡のバイオラボの2つの拠点をもつ。

https://molcure.com/haive/

 MOLCUREは、小川氏が慶應義塾大学院在学中の2013年に設立。AIの技術自体は2013年に特許出願しており、当時からすでに実用レベルにあったが、当時の製薬業界ではAIはまだ注目されておらず、しばらくはアカデミア向けの事業が中心だった。

 2018年に製薬企業との共同研究を本格化。製薬企業の創薬プロジェクトや実験についてのヒアリング、AI導入のコンサルティングを含めてサービスを提供し、AI解析はMOLCURE社内で実施している。

 現在は抗体医薬品、ペプチド医薬品の2つの開発支援を主としているが、今後は核酸医薬やCAR-T細胞療法といった分野への拡大も計画しているという。

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