第3回AIアクションプラン策定委員会
――「AIアクションプラン策定委員会」詳細については、こちらの記事を参照。
現在、人工知能(AI)の技術開発に対して米中を中心として世界的に積極的な投資が行なわれ、各国は最先端の技術力を得るべく研究を進めている。日本もこうした時代の潮流に対応できるAI技術開発の体制構築が必要だ。また日本は、米中と比べてビッグデータなどを通じたAI技術の利活用において遅れを取っている感が否めない。
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定及び事業抽出のための調査」では有識者による委員会を組成し、海外の事例や国内外の制度政策を踏まえて明確なアクションプランを検討している。
今回は、3月30日に行なわれた第3回のAIアクションプラン策定委員会での議論を紹介する。
AIアクションプラン策定委員会では、2020年2月に公益財団法人未来工学研究所が公表した「国・機関が実施している科学技術による将来予測に関する調査」をベースに、20項目の将来的な社会事象をリストアップし、それをもとに議論が進められた。
社会事象の部分には、過去にNEDOにおいて行なった未来の人工知能技術の検討で出てきた技術シーズを合わせて、それぞれ関連性の高いAI技術的キーワードを並べている。
第3回AIアクションプランでは、第2回で追加されたキーワードや意見について深堀りしつつ、具体的な技術課題、社会課題について議論した。
今回は、議論された中でも特にポイントとなった話題を5つ紹介する。
教育
教育に関して委員からは、「VRを活用して学習の機会・可能性を広げる」という意見が出た。何かをするとき学習者は「できた」「できなかった」しか判断できないが、VRを使うとそこに段階が生まれるのではないか、という意見だ。例えば、テニスで空振りをしたとき、「どれくらいラケットとボールが離れていたのか」を計測し、それを触覚として表示できるようになれば、より効率的に学習できるかもしれないだろう。
また、VRだけでなくAIでも「どれくらい合っているか(外れているか)」は提示できる可能性がある。例えば、学生が数学のテストの証明問題を採点してもらうときは「どれくらい外したのか」「どこが間違っているのか」を知ることが重要。しかし、採点する側には当然リソースに限りがあるため、少しのコメントだけになったり、大規模なテストだと合ってるか合ってないか、1点/0点程度の情報しか返ってこなかったりする。しかし、機械やAIシステムなら「どれぐらい外してるのか」をそれぞれ丁寧にフィードバックして返すシステムができるのではないだろうか。
自分が正解にどれくらい近いのかを知ることができれば、学習者はより効率的に学習を進められるはずだ。
暮らし(生活・働き方)
暮らしの議論の中でもポイントになった話題が「スマートシティー」だ。現在、日本でもその注目度は高まっており、取り組みも進められているものの、実装には至っていない。
委員からは、「レガシーな都市を”スマート化”しようという“スマートシティー”には限界があり、基本スマートに考えられない。そのため、0から都市を作ることになると思う」という意見が出た。
例えば、大手家電メーカーが藤沢市でやろうとしたような「広大な土地で家を全部同じ設計で作る」といったイメージで、監視カメラやLED照明連動セキュリティーシステムなどが完備された都市だ。世界の事例だとモナコには多くのカメラが付いており、非常に安全な都市として認識されている。
また、公共交通での移動手段でも自動運転の導入などは重要な要素と言える。例えばベネチアは一般の車両が入れないといった特徴があるが、このような公共モビリティーしかない都市は、それをベースに生活が設計されている。
「ある都市空間内の移動が、空間におけるモビリティーで制御されている形であるならば、自動運転はもっと容易になるだろう。また、スマートシティーを0から作るとしたら、今あるテクノロジーをベースに『こうなれば良いな』という具体的な理想を立ててから、家と都市の作り方をどうするべきかと考えるといろいろ成り立ってくる。もし、そのような都市を作るならば、レガシーでない場所でやるのが良いのではないかと思う」とも述べられた。
実際、静岡県の裾野市ではロボット・AI・自動運転といった先端技術を人々の生活環境の中に導入・検証できる実験都市を新たに作り上げるプロジェクトも進められている。また、人間空間の中に無理やりいろいろなものを入れようとすると、ロボット的な進化が必要になるが、ロボット的なものがもともとあるとすれば、いろいろなものが成り立つかもしれない。
今後のスマートシティーの話題では、そういった都市のデザインを考えるというのも大きな議論のポイントになりそうだ。
自動運転
自動運転に関して、委員から出たのは「日本で社会実装できるのか」という意見。前回は、技術的な課題というよりはむしろ社会的な法整備を整えるという意見でスムーズにまとまったが、実際どのように自動運転を社会実装していくかは大きな課題だと言える。
自動運転の実装に関して委員からは2つの意見が出た。
1つ目は、「自動運転専用道路を作る」という意見。自動運転車のみが走る道路を作れば、事故なくスムーズに移動できることはもちろん、制限速度を大幅に上げられるかもしれない。仮にそうなった場合、特に物流業界は大きな恩恵を受けるだろう。
そして2つ目は、「まずは半自動運転を実装する」という意見。具体的には「完全な自動運転ではなく、何か不測の事態(崖崩れや渋滞など)が起こったときのみ、人間のオペレーターがリモートで介入する形の半自動運転を普及させる」とのこと。実際、以前人間のオペレーターがリモートで10~20台の車をコントロールするシナリオがあったり、じゃがいもを収穫するトラクターで半自動運転を取り入れている事例があったりした。
今後のアクションプラン策定委員会では、実現可能性の高い「半自動運転の普及」に関する議論を深めていく方針だ。
ものづくり
ものづくりに関して、委員から出たのは「Process industryを強化する」という意見だ。
Process industry(装置産業)とは、一定以上の生産やサービスの提供のために巨大な装置(システム)を要すると考えられる産業、あるいは十分な装置や設備を整えればそれだけで一定の成果・収益が期待できると見られる産業を指す用語。Process industryには、カーボンや油脂・創薬などが当てはまる。
また、これについて「Process industryの中でも特に創薬は、自動設計や機械学習の活用が進んでいる分野の1つで、膨大な予算があるため、独自でそのような強化ができている。しかし、他の装置産業はそれぞれの対象領域がタコツボ化していたり、製薬のように個々の企業で完結してリソースがなかったりする。そのため、もう少しAIの立場から横串しで通せるような活動や、そういった活動をサポートするプラットフォーム作りを検討したほうが良いかもしれない」という意見が出た。
実際ヨーロッパには、そのようなプラットフォームの成功事例があり、アメリカや日本ではそれを追随する取り組みが行なわれているものの、現在ヨーロッパでの先行事例に比肩するような成功体験は得られていない。それを成功させる上で課題となるのが、それぞれの企業で秘匿したい部分を「どうやって共通化させるのか」という問題。端的に言うと「機械学習モデルに載せられるのか」といったことだ。
ヨーロッパでは、さまざまな機材やデータを集めた結果を、プラットフォーム自身についている研究者のような人たちが解析している。彼らは、そことのトレードオフで企業から情報を得るが、その情報が秘匿される代わりに、より高いお金を払うといったシステムになっている。
しかし、日米は、現在この動きを完全に模倣できていない。今後日本がどのようなシステムで、そういったプラットフォームを作るかは重要な論点になってくるだろう。
AI×サイエンス
AI×サイエンスで、まず議論になったのが「AIが作った新たなサイエンスをどうやって人間が理解するか」という話題だ。新しいサイエンスでも、人間に理解できないぐらい高次元のものは学習できるが、それを人間にどう説明するかが問題になる。
ほかにも、委員からは「宇宙際タイヒミュラー理論のように、今までの体系と違うものとなるとわからないかもしれないが、パーツごとにつながっていてそこが追えるのであれば、誰かがわかれば良いのではないか」という意見も出た。
この意見に関連する例としては、AI囲碁・将棋が挙げられる。AI囲碁や将棋は新しい定石を多く生み出しており、解説者ですらAIがなぜそこに打つのかわからないほど難解。そして棋士たちは、対局後AIの手を自分でもう一度研究し直して理解している。これと同じように、サイエンスも結果だけ出てきて、はじめは理解できないものの、そのうち全員が理解できるようになるかもしれない。
次に議論になったのが、「AIとサイエンスをどうやってアクションに落とし込んでいくか」という話題だ。それに関して、委員からは「政府機関が高スループットの実験がやりやすいような産業エコシステム育成する」という意見が出た。
材料探索などをやるときには、やはりネタのデータを作らなければならない(シミュレーションでなく実際に実験装置を作ってデータを集める方法がある)。しかし、そういった実験操作はワンオフのものが多く、作るのが非常に大変だ。例えば、大学の研究者が「この分野でまず、とある機械学習を作りたいから、こういう実験装置を作りたい」と思ったとしても、簡単には作れない。そのため、機械(実験装置)を作ってくれる中小企業を探すことになるが、仮に見つかったとして、その企業の技術だけだと難しい場合も当然ある。
委員はこういったことも踏まえ、「実は産業エコシステムがそろっていることが、科学(特に高次元科学)を推進する母体になるのではないか」と述べた。
また、これが実現すればワクチン開発に活かされる可能性もある。今後いつ新たなワクチンが必要になるかわからない世の中、国はそういった産業エコシステムの体制を維持しておくべきかもしれない。
まとめ
今回は、第3回AIアクションプラン策定委員会の中で、特に議論のポイントとなった5つの話題(教育・暮らし・自動運転・ものづくり・AI×サイエンス)について紹介した。また今回、共通して出たのが「どうやって世の中に実装、実現していくか」というキーワードだ。議論で出た施策や研究に関する具体的な実現方法も含め、明確なアクションプランへとどのように落とし込まれるのか、今後の議論に期待したい。
本アクションプラン成果を発表する公開シンポジウムを開催します
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO)は、「NEDO人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン・シンポジウム―日本が目指すべきAIの社会実装の方向性―」を下記のとおり開催します。
本シンポジウムでは、「人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン策定及び事業抽出のための調査」の成果を紹介するとともに、アクションプラン策定委員会の有識者委員と、日本が目指すべきAIの社会実装の方向性について議論します。多くの皆様のご参加をお待ちしております。
NEDO人工知能(AI)技術分野における大局的な研究開発のアクションプラン・シンポジウム―日本が目指すべきAIの社会実装の方向性―
開催概要
日時:2021年6月15日(火)9時30分~12時00分
形式:オンライン開催
主催:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
運営委託先:株式会社角川アスキー総合研究所
参加費:無料(事前登録制)
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