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このスタートアップに聞きたい 第29回

花きEC事業で急速成長するBeer and Tech

労働集約からデータ集約へとフラワーデリバリーを変革するHitoHana

2021年03月23日 10時00分更新

文● BookLOUD 根本 編集・聞き手●北島幹雄/ASCII STARTUP

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 2020年初頭より始まったコロナ禍により、さまざまなビジネスがオンライン化すると同時に急成長を遂げている。株式会社Beer and Techは花卉(花き)及び観葉植物の通販事業"HitoHana"で急成長を遂げているスタートアップである。

 従来、花束などをネットで注文する場合、価格と目的等を指定する程度であとは販売業者にお任せとなることが多かった。HitoHanaでは、サイト上にアップされている1万点を超える実物写真から、ユーザー自身の希望に最も近いものを選択して花束作成の依頼ができる。また、サブスクリプションモデルで定期的に花束のデリバリーを行なうサービスも提供しており、気軽に花屋に立ち寄ることが難しくなってきている状況下で好評を得ているという。

花卉ECに新たな切り口で挑むHitoHana

 消費者向け商品の通販事業というと、生産・仕入れ・配送などを外部の事業者に任せ、自らはマーケティングと販売に特化するプラットフォーム型事業を思い浮かべることが多いだろう。しかしHitoHanaでは、仕入れから製造、販売、配送までを一気通貫で自社内に抱えるSPA型のビジネスモデルを採用している。そしてそのオペレーションにIT技術を導入してデータ蓄積を行い、労働集約型からデータ集約型へと花卉産業を変革させようとしている。

 たとえば従来、ギフトを送る相手にどんな花束が届くかわからないということが花卉EC事業におけるユーザーの最大の悩みであった。HitoHanaではこれまでに制作した花束の実例写真を1万点以上サイト上に掲載しており、ユーザーにはその中から自分のイメージに最も合うものを選択し、それに似た花束の制作を依頼する。これによって贈り手のイメージに近い商品が受け手に届くようになる。

 実際に制作・発送された花束はサイト上の写真とは異なるが、発送された花束の実物画像もユーザーに送付されるため、確認できるようにもなっている。ユーザーは実物もしくは写真データをもとに制作された花束に対するフィードバックをHitoHanaに送る。これは実際に花を栽培して飾り付けをするフローリストのスキルアップや製品の品質向上に役立てられることになる。

 HitoHanaが提供するのはギフト向けなどオンデマンドでの購入サービスだけではない。サブスクリプションモデルで定期的に花束を届けてくれるサービス「お花の定期便」も提供している。月額1500円~5000円(税別・送料無料)で毎週/隔週/毎月花束を届けてくれる。この事業が現在、非常に速いスピードで成長しているという。

 ギフト向け事業ではクリスマス需要で前年比1000%の成長など、急速に伸びてきているが、利用は多くても年に数回になるため、長期的な関係を築くのが難しい。そこでHitoHanaはギフト向けに加えてサブスクリプションサービスも提供している。

HitoHanaのビジネスモデル

 Beer and Techは「ビジネスとテクノロジーの力で、古い産業の未来を作る」をそのミッションに掲げている。これは森田氏の持つ社会に対する課題意識から生まれてきた。

 「日本の労働人口は半減していくにもかかわらず、労働生産性は米国と比較して大きく差がある。我々が今当たり前だと思っている暮らしを今後も維持していくためには、一人当たりの生産性を改善するしかない。

 大企業と中小企業を比べると、大企業の方が労働生産性が高い。しかし日本では大企業で働いている人の割合が米国に比べて低い。事業を大規模化することで、2倍近い生産性向上が期待できる。これからの日本では、規模化しづらく変化できない産業で、大きな事業を創れる会社が求められているのではないか」(森田氏)

 このような視点から花卉産業を眺めてみると、現在は中小店舗が非常に多く、規模が大きいと儲けがなくなる産業と考えた。これを集約・規模化していかないと、そこで働いている人たちはIT投資の恩恵に与ることができない。規模化できないと生産性が低いままで、働く人はどんどん減っていってしまう。そこで強いビジネスモデルを作って規模化していこうとして生まれたのがHitoHanaだ。

 HitoHanaでは、仕入れから製造、販売、配送までを一気通貫で自社内に抱え、そのオペレーションにIT技術を活用することにより、ユーザーに対する利便性・選択肢の提供とフィードバックデータの蓄積を実現した。すなわち、単なる労働集約型の産業から、内部ノウハウの蓄積による高付加価値提供ビジネスへと変化を遂げた。

 「花卉産業自体は約1兆円の事業規模があり、EC化率はどんどん高まってきている。2027年のEC化率は10%超、EC市場規模は1188億円までの拡大が予測される。現時点の最大手の小売事業者でも3%程度のシェアしかないこと、ECは寡占的なビジネスモデルが組みやすいことなどを勘案すると、日本国内に初めて寡占的な小売りが生まれるタイミングと考えている。また、フラワーデリバリーサービスはグローバルの年間成長率が6.7%を記録しており、各国でスタートアップが大型の資金調達をしている。日本は年間平均成長率9.2%とグローバルの中でも高い。これもこの事業に対して期待するところ」(森田氏)

 花や植物を購入するときにユーザーが不安に思っているのは価格だけではない。イメージ通りのブーケを作ってくれるか、インテリアにマッチした観葉植物が見つかるか、そういった点を不安に思っている。ネットできれいな花束やカッコいい観葉植物を見つけることはできるが、じつはそれを簡単に購入できないところに花卉ECビジネスの課題があると森田氏。HitoHanaは1万を超える豊富なバリエーションと、それを自社制作するサイクルを両立させている。

 「一番効いているのはデザイン。他社では提携する花屋さんから配送しているところもあるが、それだと自社でデザインをコントロールすることができない。色も選べないし、どんなイメージの花束が送られるかもわからない。

 コロナ禍になって、花屋さんのメインユーザーだった所得の高い層が軒並みリモートワークになった。それまで花卉ECのメインユーザーだった花を店舗で買ったことがない人ではなく、そういう目利きができる人が通販を利用するようになると、自分で選びたいとニーズが増えてくる。そういうお客様に対して、このお花屋さんはセンスがいいと思ってもらうことが非常に大事」(森田氏)

森田氏のフィロソフィーが生んだHitoHana

 HitoHanaは人件費をカットすることによる「効率化」を図るようなビジネスモデルを採用していない。むしろフローリストなどの専門家をより多く雇用し、多くの花を自社で仕入れるなど、むしろリスクを自社内に抱え込もうとしているようにも見える。しかし、より多くの労働者がより高い生産性を実現することによって所得格差を解消していくために、ITを武器に大きな船を構築しようというのがBeer and Techの目指すところだ。

 「SPAモデルも、そのままやれば、オペレーション費用が大きいだけの単なる労働集約型の事業になってしまう。人件費に一番お金を使っているのに、そこから価値を生み出さないと、普通の花屋さんと同じことになってしまう。そこで、オペレーションの中でデジタルデータを生成し、価値につなげることで、もともと解決したかったIT格差によって所得格差が生まれるという課題を解決する。そういう業態が増えてくるのではないかと思っている。

 オペレーションを切り離すという話より、オペレーションにITをどうやって組み込むか、という発想の方が競争力を生む。そういう競争戦略を取る会社がもっと出てくると思っている。オペレーションを抱えていないとだめというわけではないが、より理想的なのは社内に抱えて、そしてそれに携わる人材の成長を生み出すモデルの方が良いと思っている。」(森田氏)

 通常の店舗ではスペースなどの制約により、頻繁に売れる花を仕入れ、それを使って花束を作ることになる。しかしHitoHanaは一般の花屋さんに比べて8倍に及ぶ種類の花材を仕入れており、フローリストは自分の持つイメージ通りの作品にチャレンジできる。ユーザーからのフィードバック、制作数の増加、多彩な花材が利用可能など、フローリストにとってはスキルを伸ばすこの上ない環境が提供されていると言ってよいだろう。

 また、花の管理は非常に難しいが、HitoHanaは花卉市場の中に制作スペースを設けていて、市場で仕入れたらその場ですぐ花束を制作している。これにより新鮮でバラエティに富んだ花材の利用を可能にしている。一方、市場はコロナの影響で事業規模が縮小するにつれて場所が空いてきており、HitoHanaがその場を埋めることは市場にとっても見逃せないメリットとなっている。

 農林水産省が主導する生産者支援プログラムに参加して、廃棄される可能性のあった花を2万3000件以上出荷するなど、HitoHanaの生む大きな船が、多くのステークホルダーに新たなチャンスを創出している。森田氏のフィロソフィーが生んだHitoHanaがさらに成長し、より多くの人たちを乗せることのできるサービスとなっていくことを期待する。

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