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STARTUP×知財戦略第31回

Mt.Fujiイノベーションキャンプ2019開催レポート

葛飾北斎のタッチ、質感も再現 文化財のデジタルアーカイブベンチャー

2019年10月16日 10時00分更新

文● 松下典子 編集● 北島幹雄/ASCII STARTUP

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 2019年9月13日~15日、山梨県のスタートップイベント「Mt.Fujiイノベーションキャンプ2019」が甲府市の「やまなしプラザ」で開催された。山梨県にゆかりのある起業家、起業準備者、学生などが参加。イベントの1日目と2日目は、メンター陣によるアイデアとビジネスモデルのメンタリング、最終日には「イノベーティブビジネスプランコンテスト」を実施。本記事では、最終日のコンテストのプレゼン内容と、その結果をレポートする。

 「Mt.Fujiイノベーションキャンプ2019」は、これから起業を考える「始動部門アイデアコース」と、山梨県で自社サービスを展開したいスタートアップ企業向けの「始動部門ビジネスコース」、イベントに協賛・協力する大手企業とビジネスを進めていく「協創部門」の3コースにわかれて実施され、2日目の予選審査を経て13チームを選出。「イノベーティブビジネスプランコンテスト」では、各チームの代表者が登壇し、審査員と関係者の前でプレゼンを行なった。

難病を抱える患者同士が情報交換できる「#いってME」

 始動部門アイデアコースは、5チームがコンテストに選出。山梨大学1年生 栗原 真希氏は、難病の人やその保護者のための情報共有サイト「#いってME」を提案。難病は症例が少ないだけに、身近な人に理解してもらえず、孤独を抱えがちだ。そこで、同じ病気の患者同士がつながり、痛みを緩和する方法や、術後のケアなどを情報交換できるコミュニケーションアプリを提案した。

 既存のコミュニティサイトやQ&Aサイトは、匿名性や信ぴょう性に不安があり、難病についての悩みは投稿しづらい。「#いってME」は、ユーザーの性別・年代・疾患名を登録することで、匿名性を保ちつつ、情報の信ぴょう性を確保する。

 ユーザーは無料で閲覧可能だが、医療機器メーカーや病院に対しては、月額制で情報を公開。投稿に対する評価ボタンを設置して、高い共感を得ている情報をフィードバッグすることで、新しい医療機器や治療法へつなげられる。

 自身も難病を抱えていた実体験を持つ栗原氏。「普段の些細な工夫であっても、誰かに共有できるだけで救われる、ということをみんなに知ってほしい」と訴えた。

山梨県の企業から学生へアプローチするスカウト型採用アプリ

 山梨大学4年生 松澤 光希氏は、「山梨のスカウト型採用サービス」を提案。山梨県の企業は、採用難の課題を抱えている。その原因の一つは、既存の就職活動は、求人メディアへの広告掲載や就職説明会などイベントの参加は費用が高いうえ、多くの企業情報の中に埋没してしまい、学生に会社の存在を知ってもらえていないことにある。「山梨のスカウト型採用サービス」は、初期費用なしで学生に採用情報を発信できるのが特徴だ。

 アプリには山梨県内の企業情報を掲載し、地元企業への就職を希望する学生がプロフィールを登録すると、企業の求める人材とマッチングする学生に情報が届けられる。企業側は、就職を希望する学生へ人事部などからダイレクトに情報提供でき、学生は、自分が就職したい企業の情報を効率よく収集できるのがメリットだ。収益モデルは、内定が決まると企業が紹介料手数料を支払う形で、学生側には費用は発生しない。

親子の相互理解を深める5日間のプログラム

 関西大学1年生 蔵元 優里奈氏は、親子のコミュニケーションのきっかけづくりになる親子参加型の「親子理解プログラム」を紹介。不登校の要因としていじめが占める割合は0.5%であり、実際の要因としては、家庭に係る状況が36%と最も多い。そこで、親子の相互理解を深めるため、ハーバード大学ガードナー教授が提唱する「多重知能理論を用いた才能発掘プログラム」を用いた8種類の適性検査と、親子参加による5日間のワークショップを実施する、という内容だ。

 また、関西大学経済学部1年生の阿部 綾美氏は、高齢者がお勧めのお散歩スポットをシェアし合うコミュニティアプリを提案。情報を共有することで外出やコミュニケーションの機会が増え、高齢者の健康にもつながる。ぜひブラッシュアップして、アプリを完成させてほしい。

2択の質問で簡単に意見を収集できるアンケート型SNS「Witch」

 始動部門 ビジネスコースからは、5社が登壇。株式会社SPRING OF FASHION(代表取締役 保坂 忠伸氏)の「2択で簡単に質問できる意思決定ウェブサービスWhitch」は、決断に迷ったときに、2択のアンケートを投稿して多数決がとれるアプリ。例えば、2種類のジャケットの写真から「どっちがいい?」というアンケートを作成すると、ほかのユーザーから意見がもらえる。

 既存のTwitterやSNSに比べて簡単に2択の質問をつくることができ、友人関係などのつながりのない不特定多数から意見を収集できるため、バイアスがかかりにくいのが特徴。一般ユーザーは無料で使用でき、利用者が増えてきた段階で、企業向けの企画の調査や広告に活用してもらうことで収益を得る計画だ。

ブロックチェーンによる非改ざん保証技術を活用した防犯ドラレコ

 フロッグカンパニー株式会社の代表會田 昌史氏は、次世代防犯ドラレコ「今日あなたは目撃者Carshare ワーミッター 実録24時~捜査最前線スペシャル~」を紹介。同社は、ブロックチェーンを活用したシステム開発を得意としており、「ワーミッター」は、5月にリリースした非改ざん保証データ頒布プラットフォーム「ソラノメ」をベースにしたものだ。

 非常時や衝撃探知時に自動で通報され、場所・日時・動画の非改ざん保証付きデータが警察や保険会社などに送信される仕組み。これにより、あおり運転や当て逃げの際の処理手続きや捜査がスムーズになり、犯人の早期特定・逮捕にもつながる。現在はプロトタイプとして、Raspberry Pi製のドライブレコーダー版を開発済み。Androidアプリ版として一般販売を目指している。

1日分の野菜の栄養が5粒で摂れる米粉グミ

 Tryca GO(トリカゴ)プロジェクトの安孫子 眞鈴氏は、「米粉グミによる生活習慣病の予防」を提案。生活習慣病の原因とされる野菜不足を解消するため、1日分の栄養素を5粒で摂取できるグミを開発し、世界に広めるための活動を行なっている。凝固剤としてゼラチンの代わりに米粉を使用することで、血糖値の上昇も抑えられるという。

  ひとヒラク株式会社の菊池赳史氏は、「山梨のおいしい」をイスラーム教へ!」と題し、山梨県の名産品をハラール対応にし、イスラム教徒の観光誘致を促進するプランを提案。

リマスターアートでデジタル文化産業を創出

 大手企業との事業協創を目的とした協創部門では、株式会社アルステクネ ・イノベーション(代表取締役 久保田 巖氏)の「The Grate Wave Project」が登壇。同社は、文化財のデジタルアーカイブ化と事業活用を進めているベンチャー企業だ。AIが普及していくなか、欧米では創造力育成の切り札として、芸術鑑賞教育が脚光を浴びている。ただし、日本の国内では欧米に比較して美術作品が少なく、欧米並みの芸術鑑賞教育が困難だ。

 そこで同社のもつコア技術、疑似3D質感処理機技術(DTIP)を用いて「リマスターアート」を開発。世界的アーティスト作品の視覚情報を余すことなく再現し、デジタルミュージアムを始め、あらゆるメディアやコンテンツ、プロダクトへ利用できるようにするという。

 運用テストとして、学校内にリマスターアートを用いたスクールミュージアムを開催。将来的には、企業研修向けの芸術思考育成プログラム、認知症改善プログラムなどへの展開も目指している。

 「The Grate Wave Project」の起爆剤となるのが、山梨県立博物館の北斎のアーカイブだ。マスターレプリカは、山梨県立博物館で展示するほか、ラグビーワールドカップに参加する9カ国への寄贈品としても選定されている。また、10月には東京オペラシティでオールデジタルでの北斎展が開催され、LIMEX社との協業による全天候型屋外展示レプリカや、4Kデジタル絵画を展示。また、Dynamic VRによる裸眼で飛び出す3D絵画や、動くムービングアートピクチャー(特許取得)なども公開される予定だ。

移住者とのワークシェアリングで多忙な農家をサポート

 山梨県北杜市を拠点に農家の生産・流通・販売などのサポートを行なっているFarmers Agencyは、移住者向け農作業マッチング事業「農家お助けシステムneighbor」を提案。農家で課題とされているのが人手不足による身体的な負担と破棄野菜の増加だ。

 北杜市は、全国的にも移住者の多い地域であることから、草刈りや配送といった単純作業を個人のパートナーへ委託できる仕組みを構築。また、複数農家の出荷をまとめて配送する「乗せ合い物流」で物流コストも削減できる。

 現在の登録パートナーは8名。さらに規模の拡大と効率化を図るため、人材サービス企業のパーソルや山梨県庁との協創を提案した。

スタートアップの陥りがちな知財の失敗事例を特許庁が紹介

 プレゼン終了後のトークタイムには、特許庁より「事例から学ぶ“Startup×知財”~エンジェル・シード期からの知財戦略のススメ~」と題し、IPASの成果事例などからスタートアップが押さえておきたい知財戦略を紹介した。

特許庁 企画調査課 ベンチャー支援班 係長 小金井 匠氏

 「画期的な技術を開発しても、特許を取得していなかったために市場のスタンダードとなり、独⾃性を失われる」、「他社の知財に抵触していることに気付かず、別製法を余儀なくされた」といった、知財に関する失敗を経験して知財の重要性に気づく企業も少なくない。

 こうした失敗を防ぐため、あらかじめ知財の知識と事例を学んでおくことが⼤切だ。例えば、特許を取得していたが、権利範囲が狭く、ビジネスの守るための知財が不⾜しており、後発企業が容易に参⼊できてしまうというケース。この場合、ビジネスに合った知財を追加出願しなければならない。

 同じ発明でも、どのように記述するかによって権利範囲は変わってくる。そのため、ビジネスの方向性にマッチした権利範囲になっていることが必要だ。

 また、特許は公開されてしまうため、目に見えないものはブラックボックス化して隠し、リバースエンジニアリングされやすい技術は特許出願する「オープン&クローズ戦略」がよく使われる。

 起業したばかりのスタートアップがいきなり知財戦略を始めるのはハードルが高い。まずは、社名やサービス名、ロゴの商標登録から始めるのがお勧めだ。次のステップとして、早いうちに知財の担当者を決めておこう。

 また、特許出願前に発明を公開すると新規性が失われてしまう。出願前に学会や展⽰会等で公開しないように注意が必要だ。他社との協業をする際には、お互いの営業秘密が簡単に漏れてしまわないように、守りたい情報を整理し、しっかりと対策を講じておくことも必要だ。

 特許庁では、こうした事例が学べる事例集として「知財アクセラレーションプログラム(IPAS)2018成果事例集」、「ベンチャー投資家のための知的財産に対する評価・支援の手引き」、「一歩先行く国内外ベンチャー企業の知的財産戦略事例集」の3冊をIP BASEで公開しているので、ぜひ参考にしてほしい。

 特許庁では、スタートアップの知財活動を支援するため、1)専門家とスタートアップの出会いを促進するためのイベント開催、2)知財アクセラレーションプログラム(IPAS)、3)スーパー早期審査、4)特許手続き費用を3分の1に減額、5)知財コンテンツの配布--といった5つの支援施策を実施している。IP BASEやTwitterで情報発信もしているので、ぜひ活用してほしい。

 審査の結果、始動部門アイデアコースは、山梨大学 栗原 真希氏の「#いってME」が最優秀賞を受賞。優秀賞は、山梨大学松澤 光希氏の「山梨のスカウト型採用サービス」、3位は関西大学 蔵元 優里奈氏の「親子理解プログラム」が受賞した。

 始動部門ビジネスコースの最優秀賞は、SPRING OF FASHIONの「2択で簡単に質問できる意思決定ウェブサービスWhitch」、優秀賞はフロッグカンパニーの「今日あなたは目撃者Carshare ワーミッター 実録24時~捜査最前線スペシャル~」、3位をTryca GOの「米粉グミによる生活習慣病の予防」が受賞した。

  協創部門では、アルステクネ ・イノベーションが最優秀賞、Farmers Agencyが優秀賞に選ばれた。

NTTデータ賞と富士通アクセラレータ賞を受賞したアルステクネ ・イノベーションの久保田巖代表取締役社長(中央)と、NTTデータ イノベーション推進部 オープンイノベーション事業創発室の豊洲の港から船長の佐藤昌弘氏(右)と富士通マーケティング戦略本部 ビジネス開発統括部 ベンチャー協業推進部のイノベーション鈴木智裕氏

 さらに特別賞として、関西大学 阿部 綾美氏「スマホを使ってもっと外出を楽しく!」が山形大学国際事業化研究センター賞を受賞。NTTデータ賞と富士通アクセラレータ賞にはアルステクネ ・イノベーションがパーソル賞にFarmers Agency、NEDO賞にTryca GO、 山梨県の前進!やまなし賞として、ひとヒラクの「山梨のおいしい」をイスラーム教へ!」がそれぞれ受賞。また、アントレプレナーシップ賞には、SPRING OF FASHIONの保坂 忠伸氏が受賞した。

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