未完成のプロダクトをあえて“世に出して問う”という挑戦
BI Challengeの実施で心がけているのは、“常に世に問うていくこと”。実際にSXSWへの出展、経産省の“始動”プログラムなど、国内外のイベントに参加し、価値検証を行なっている。
「弊社は、良くも悪くも正社員として採用されて、ずっと同じ環境にいるので、多様な意見が出にくいのが弱み。だからこそ、外へ外へと意見を聞いていこう、という気持ちでやっています」と湊氏。
外からの意見を聞くため、フィラメントのCEO角 勝氏、東大発イノベーション教育プログラムi.schoolの横田 幸信氏らに社外メンターを依頼し、月1回の対面メンタリングおよびオンラインでの適宜相談を実施している。
プレーヤーの立場でも参加している山本氏は、メンターに紹介された事業者へ開発中のプロダクトを持ち込み、意見を求めたことがあるそうだ。
「社内でいくらアイデアを練っても、外に持っていくとお客さんに響かないことがあります。フィラメントさんにメンターをお願いして良かったのが、このアイデアならこのメーカーに聞きに行くといい、というのをピンポイントで教えてもらえる。現場のリアルな答えが返ってくるので、どう改善すべきか見出しやすい。聞きに行ったメーカーさんが気に入り、実際のビジネスにつながることもあります」
世に問うていくなかで、化学反応やイノベーションが起こり、事業化へと進む。スピーディーかつタイムリーにできるのは、フィラメントの的確なメンタリングによる部分は大きいだろう。なかには、外の意見があまりに厳しすぎて、うまく路線変更ができず、活動を休止したチームもあるそうだ。アイデアに思い入れがあると、ずるずる続けてしまうケースが多いが、早めに見切りを付けられれば、時間やリソースが無駄にならず、次のアイデアに移るチャンスにもつながる。
このプログラムによって、プロダクト開発のアプローチの仕方も大きく変わった。一般的に、大手企業は開発中の未完成なプロダクトを世に出すことを避けがちだ。とくに、NTTコミュニケーションズはもともとインフラの会社だ。これまでは、絶対に止まることない、完璧なサービスを創る、というマインドが浸透していたという。
「新しいサービスをつくるときも、十分なテストをし、何段階もの会議を経てから、ようやくリリースするのが普通。プロトタイプの状態で展示会に出展するのは、大きなチャレンジでした。今までとはプロセスを変えて、先に世に問い、そのフィードバックからブラッシュアップを重ねて、アジャイルにやっていくという試みは、弊社ではとても新鮮なことでした」と湊氏。
インフラのように絶対失敗してはいけないシステムもある一方で、世の中の課題を解決するような新規事業の場合は、アジャイルなやり方のほうが適している。
日本の企業では、とかく失敗が許されない空気があるが、新規事業の創出を促すには、失敗を繰り返すなかで、いくつか成功が生まれればいい、という文化を醸成していく必要があるだろう。