117年のリサイクル事業の経験を活かしてサーキュラー・エコノミーを目指す「ReSACO」
CtoCの世界ではシェアリングエコノミーが拡大し、自動車メーカーも積極的にMaaS(Mobility as a Service)へ乗り出しはじめている。不要品をリサイクルするところで言えば、メルカリやヤフオクなどのサービスが人気だ。しかし、BtoBの世界ではほとんどシェアリングが進んでいない、と考えた企業がある。
明治35年に創業し、117年の歴史を持つ東港金属株式会社 代表取締役の福田隆氏。同社は、企業から出る廃棄物を収集し、買い取りしたり産廃処理を行う業務を手がけている。そして近年、廃棄物の課題解決を手掛けるスタートアップ企業・トライシクルを展開し始めた。
トライシクル株式会社が手がけるBtoBサーキュラーエコノミー対応プラットフォーム「ReSACO」について、代表取締役の福田氏に話を伺った。
リユースと廃棄物処理の両方を一手に引き受けられる「ReSACO」
サーキュラー・エコノミーとは、直訳では循環型経済となり、可能な限り無駄を減らして製品や資源を活用し続け、ごみの排出ゼロを目指す経済モデルのこと。一般的に、企業から排出される不要品はゴミとして産廃処理されるが、ここで発生する無駄をリサイクルしようというのがBtoBサーキュラーエコノミー対応プラットフォーム「ReSACO」だ。
2019年7月現在、プラットフォーム上で動いているのは、リユースと廃棄物処理の2つの機能だ。単にリユースという観点で見れば、CtoCも含めて売り手と買い手をマッチングさせるサービスは存在する。しかし、企業が排出するものの中には捨てざるを得ないものもあり、その時の受け皿が必要になる。その際、安心して廃棄できるような仕組みが必要とされている。
当初「ReSACO」は企業の不要品を手軽に出品できるウェブ・アプリとしてリリースされた。指し値で販売する「フリマ」、オークション形式の「コンペ」、プロによる中古買い取りの「クイック」などにより、不要品をお金にしたり、必要なモノを安く買ったりできる。
「例えば、古い船外機だと、このままではほとんどゴミなのですが、燃料タンクだけ取り外すと、なぜか1万200円の価値がでて売れる。今はそういった流れを属人的にやっているが、最終的にはシステムに取り込もうとしている」(福田氏)
どうしても売れないものは、親会社である東港金属の資源リサイクルの中で処理していく。廃棄物を粉砕し、色や素材ごとに判別して分類し、再利用に回すのだ。このバックエンド部分が、IT開発だけをやっている会社ではなかなか難しいポイントだろう。
廃棄物処理の面倒な契約も「ReSACO」上で行えるのが特徴だ。電子契約システムのクラウドサインを利用しており、内容が決まると遷移して契約してもらう仕組みになっている。処理には法律で責任を明確化させるマニフェストが必要となっており、通常は複写のマニフェスト伝票を書いて、ドットプリンタで出しているそうだ。ここも、アプリで入力した電子データを元にマニフェストをプリントアウトして対応できる。実質的に紙のマニフェストを買う必要がない。
「業界的にはかなり画期的で、この半電子契約と電子マニフェストのシステムだけでもビジネスになるくらいのもの」だと福田氏は笑顔で語る。
また「ReSACO」アプリでユニークなのが「AI査定」機能だ。アプリで不用品の写真を撮ると、同社が持つ中古品の画像データとマッチングさせて、売れそうな金額を算出してくれる。元のデータはクローリングしたり、提携しているオークション会社のデータを提供してもらったりして準備したそう。特に、家具のデータが多いので、リアルな価格が出る傾向にあるという。ちなみに、アプリの開発は社内の若手エンジニア2名と、外部のベンダーの両方で行っている。
新しい連携や新サービスを相次いでリリース
「ReSACO」は1月にベータ版をローンチし、手数料無料キャンペーンを実施しつつ、UIを改善するなどして、4月から手数料が発生する正式スタートとなった。まだ始まったばかりなのだが、次々とプレスリリースを発信している。
5月には物置きのシェアサービス「モノオク」と業務提携を発表した。「ReSACO」に出品された商品を「モノオク」のスペースに保管するという内容だ。オフィスの移転や廃業で売れるまでのリードタイムに保管しておく場所がないユーザーに対して、安価な保管場所を提供する。
また6月からは「プレミアム無料回収サービス」と「不要品まるっとおまかせサービス」をスタートした。「プレミアム無料回収サービス」は、高く売る必要はないが、お金はあまりかけたくないという企業ニーズに応えたもの。近年、無料と言っていたのに追加費用を要求されたり、回収後に不法投棄されてしまったりというトラブルが増えているそう。同社なら、きっちり処分してもらえるので安心だ。
もちろん、完全なゴミの山を無料で引き取るわけにはいかない。申し込みがあると、チャットで写真をやりとりし、対応可能かどうかコミュニケーションするのだ。リリース後すぐに問い合わせが来て、廃棄業者の見積が25万円だったのに、無料で回収したため感謝されたこともあるという。チャットでやりとりすることで記録が残り、無料と言っているのに後で請求が発生したといったトラブルを回避できるのだ。
中でも今後需要が高そうな「不要品まるっとおまかせサービス」は、段取りの段階からまるごと引き取りを行うもの。「部屋の中全部を片づけてくれ」とか、「倉庫を丸ごと預けたい」というニーズに対応する。1点ずつ出品するCtoCのサービスや宅配便では対応できない大規模なものでも、まるっと引き取れるのが強みだ。
「ReSACOでは、安心、安全を提供している。我々はBtoBなので、価格よりも、いかにスマートに処理してトラブルを起こさないことの方が重要。たとえば万一に備えて、仲裁委員会を設けていて、品質や条件が違うというトラブルが起きた場合、委員会で和解案を出して、お客さま同士が納得する解を出すようにしている。とはいえ、今のところ委員会にかけるほどのトラブルは起きていない」(福田氏)
BtoBの中古品市場だけでなく設備投資市場17~18兆円を狙う
狙う市場について尋ねると、「国内のBtoB中古品市場は2000~3000億円だが、国内の設備投資は17~18兆円くらいある」と福田氏。中古車はマーケットが成熟していて2.7兆円と大きく、CtoCのリユース市場は2兆円近くまで来ており、そのような数字から考えると、BtoB中古品市場の伸びしろはまだまだあると考えているという。
「廃プラスチックをはじめとする中国ショックの影響もある。2017年に中国が資源の輸入を止めたことで、世界中のリサイクルシステムが困っている。元々日本から年間175万トンも機械が出ていた。それが今では国内で処理できなくて、あふれかえっている。これもリユースに回したい」(福田氏)
狙いとしてはオフィス用品通販サービスを手がけるアスクル株式会社をロールモデルにしているという。
「アスクルさんは企業の備品調達のインフラになっていて、非常に多くの事業所と契約している。日本の事業所は534万事業者くらいなので、私の感覚的には9割くらいの事業所と契約されているのでないか思っている。インフラになるというのはこういうことで、我々も企業の廃棄インフラになりたいと考えている」(福田氏)
現時点では、認知度を上げるよりも、UI/UXを向上させることに注力。元々、メルカリやヤフオクを意識していたので、初年度80万ダウンロードがアプリとしてのKPIだったが、そもそもCtoCアプリとはまったく異なるサービスであるため、現在は見直し中とのこと。
ただ法人相手の場合、アプリで中古品を売買するというハードルをなかなか超えられず、今でも電話とメールでやりとりした方がいいという感覚が拭えない。そこを打破するための、「プレミアム無料回収サービス」や「不要品まるっとおまかせサービス」を始めているのだという。
次のフェーズでは、リメイクを行いたいと福田氏。例えば、古い工業用ミシンを受付のデスクにしたり、パイプ椅子に木を貼り付けてリッチな感じに仕立てるといったことをITプラットフォーム上でマッチングさせたいそうだ。さらには、不要品を素材として利用するアップサイクルを手がけるアップサイクラーも出てくると考えている。
「江戸時代はすごくエコで、サーキュラー・エコノミーを実践している世界だった。壊れた傘を縫い合わせて使ったり、肥えを売買したり、掃き寄せしたゴミでさえ燃やして使っていて、捨てるという概念がほとんどなかった。これを現代のITを活用して、実現したいと考えている」と意気込みを語ってくれた。
リサイクルの流れは静脈物流とも呼ばれている。製造や消費といった動脈物流が目立つものの、よりよい社会を実現するため、静脈物流にもしっかり目を向けなければいけない。「ReSACO」はサーキュラー・エコノミーを実現すべく、その流れの真ん中に根を張ろうとしている。大手企業を中心としたSDGsへの関心の高さも後押しの理由となるだろう。今後の「ReSACO」の活躍に期待したい。