メルマガはこちらから

PAGE
TOP

オープンイノベーション成功のカギは、かつてない行動基準と評価基準

イノベーションとはこれまでにないものを生み出すこと

1 2 3

日本のオープンイノベーションイノベーションは過渡期
成功のキーは大企業が握る

中村:次のお題は、「オープンイノベーションは成功しているのか否か」です。「事業提携しました」「実証実験を始めました」というニュースリリースは、珍しくなくなりました。しかしその後成功したのか、事業としてグロースしたのかというニュースは、まだ少ないように思います。そんななか、今のフェーズで日本のオープンイノベーションは成功していると言えるのかどうか。

今野:現時点で成果として出ているかどうかを判断するのは、時期尚早だと思います。アメリカの時価総額トップ5はすべてベンチャーです。一方日本のトップは金融、自動車、製鉄などが占めています。これがアメリカのようにIT系のベンチャーが時価総額トップを占めるようになるのかというと、日本がそうなるのは難しいと考えています。そもそも、マーケットがドメスティックだということもあり世界規模に展開するのが難しいという現状があります。また一部の大企業の動きが速く、会社は残りつつ変革を内部で変革を起こして残っていくという可能性があるとも感じています。これから10年、20年という時間をかけて、大手企業が内的変化を遂げるかどうかが大事になってくると思います。ただし、新規事業の育成には期間が長くかかるので、そこを理解しておくことが必要ですね。

 たとえば、ベンチャーキャピタリストを育てるのに5年10年と時間がかかります。投資して効果がでるのに同じぐらい時間がかかり、さらにそれが大手企業の経営に影響を与えるようになるのにまたさらに同じぐらいの時間がかかるからです。成果が出るのは20年から30年先の話で、先ほど麻生さんが「企業として新規事業を生み出し続ける」ことが大事だと言っていたけどまさにその通りで、やりきれば自然と成果は出ると思っています。

中村:面白いキーワードがたくさん出ましたね。アメリカみたいにベンチャーがトップになるかというと、そうではないかもしれない。これは同感です。日本は独自の生態系を遂げていて、老舗の大手企業が移り変わらないんですよね。国とインフラが紐づいていることも重要で、たとえば水道のベンチャーなんて考えられない。でも国土の広いインドでは、水のベンチャービジネスがたくさん出てきています。そういう観点からも、大企業がトップに残るのが日本のイノベーションの形なのかなと思いました。

麻生:大企業が日本をリードしていくような存在になるのは賛成ですね。というのは、大企業に勤めているサラリーマンの方ってすごく優秀なんですよ。私自身はリクルートを退社して色々な日本企業の新規事業開発を支援するビジネスをしていて、色々な大企業の方と話す機会が増えました。そしたら、リクルートを辞める前に想像していたより、優秀な人が多くて驚きました。日本のサラリーマンって起業家に比べてやる気もないし、そんなに優秀でもなく仕事を右から左にこなすだけ、みたいな固定観念があったんですが、全然違いましたね。

 でも、これが構造的な問題だなと思っていて、そんな優秀な人たちが大企業を辞めないんですよ。辞めて起業した私から見たら、こんな優秀な人たちはみんな辞めて起業すればいいのにと思うんですけど、アメリカなら会社勤めを辞めて起業しているだろうなって思うような優秀な人が全然辞めない。そういう構造が残っているので、日本の場合はスタートアップだけでイノベーションを起こして行くのではなく、大企業が大企業のままイノベーション起こすのが日本ではいいのかもしれませんね。

 だって、加藤さんも辞めないでしょ? すぐ資金調達できますよ? もう明日辞めます?(笑)

加藤:ちょちょちょ、ちょっと待ってください。

麻生:ほら、こうなるんですよ(笑)

加藤:優秀な人がやめないという問題については、コーポレートガバナンスに問題があると思っています。日本企業は経営監督機能の部分と、業務執行機能の部分がくっつき合ってるんですよね。プロパーで入社して社長になれるという構造自体が、おかしいんですよ。投資家に対しては利益相反があるにも関わらず、それを超えて行きますよね。それを切ってしまえば、優秀な人はほかに行って、今度は経営者としてまた戻ってくるかもしれませんし、人材の流動化が進むと思うんですよ。そうなっていないから、辞めない人が出てくるんじゃないかと。

麻生:でもそれって希望がある話でもあり、すごくもったいないことでもあると思うんですよね。こんなに優秀な人が大企業の現場にいるのに、なぜかあまり動けない状況になっちゃってる。

今野:完全に同感なんですが、大きな組織を変えるのは本当に大変。変えて行くためにはそのための専門部隊を作ったり、トップがベンチャーに向き合う姿勢を明確に打ち出したりする必要がありますね。加藤さんのようなアントレプレナーシップ、イントレプレナーシップを持つ人を専門部隊に隔離しちゃって、そこだけ好きに動けるようにした方が早いと思います。

加藤:ただ、大企業にはローテーションの問題がありますね。その専門部隊にいった人が数年やって異動しちゃうと、せっかく作ったパイプが壊れちゃう。

麻生:ローテーションに加えて、決済権限の問題もある。

今野:だからトップの直轄組織じゃないといけない。稟議を上げて何段階も承認を取ってると、その間に話がなくなっちゃうことさえあるよね。

加藤:日本の大企業は合理性を追求するので最大公約数的な経営を目指すんですよね。でもそうするとほかの企業も同じことをしていて、それではイノベーションは起きませんよね。標準偏差から外れたところに面白いベンチャーさんってたくさんいるんですけど、社内で話を通しているうちに候補から外されちゃうんですよね。

今野:VCとしても意志決定者の数はできるだけ少なくした方がいいですね。増えれば増えるほど、飛び抜けたものは出てこなくなります。

中村:まとめると、オープンイノベーションが成功しているか否かと言えば、いまは過渡期だと。成功のキーは事業会社サイドの組織構造や決裁権限などにあるということですかね。加藤さんはもう4年やってきた訳ですが、会社の中では成功としていると見られているのでしょうか。

加藤:オープンイノベーションの成功は、スタートアップ側の視点で捉える場合と大企業側の視点で捉える場合でだいぶ違うと考えています。スタートアップがIPOやイグジットをゴールに置くのに対して、大企業にとっては、一時的な直接的利益よりも、もう一度スタートアップのような企業風土に変わることが成功だと思います。大企業も昔はスタートアップみたいな新陳代謝があったはずなのに、規模が大きくなって効率を重んじてがちがちの鎧を着て動きが悪くなっている。その鎧を外したりグリスアップして動きやすくするために、スタートアップと一緒に事業をやって、考え方や新しいやり方を取り入れていく。それをサステナブルにやっていくことが必要だと思うので、大企業側から見た成功はずいぶん先にあるなと。

今野:オープンイノベーションの目的のひとつには、タレントの獲得ってこともありますよね。麻生さんや加藤さんのように、アントレプレナーシップを持った人が社内から出てくることはかなりレアケースなので、イノベーションの旗振り役を得るという意味でもオープンイノベーションは大事だと思います。外から入ると前提となるヒエラルキーもないので、トップとのつながりも作りやすいんですよね。

中村:アントレプレナーシップって、言い換えるとどういうことなんでしょうか。

今野:正解のないものをいろいろやって、当たったものに思いっきりフォーカスするってことですよね。当たり前のことは他のところがすでにやっているので。

1 2 3

合わせて読みたい編集者オススメ記事