オフィス機器用のプロセッサーのはずが
まぜかワークステーションに採用される
さてチップが完成したのでOPDはこれを利用して製品を作るわけだが、なぜかここでワープロではなくワークステーションの方に行ってしまったのがROMPの運の尽きだったかもしれない。
実際のところ、1981年の段階のプロセッサーといえば、インテルがiPAX432を華々しく発表した程度で、これが公称2MIPS(実際はもっと低かった)。翌1982年には6MHz版の80286がリリースされ、これが0.9MIPS程度。ROMPは4.3MIPSではあるが、これはRISC命令での性能なので、DhrystoneなどでのMIPS値は当然落ちる。ラフに言えばこの6MHzの80286と互角位だろうか。
少なくともこの時点では最高速プロセッサーであり、それこそintel 8088などよりもずっと性能が上だったことは間違いない。その結果として「8088の代わりにROMPを搭載すればもっと価格性能比の良いワークステーションができるのではないか?」というアイディアが浮かんだらしい。
かくしてOPDとDevelopment Labはここからシステム化に向けての作業を開始していく。ここで問題になったのはOSである。ESDはOSをMS-DOS一本に絞って作業したことで急速な商品立ち上げを可能にしたが、ROMPではそうならなかった。
先にオースティンのIBMをDevelopment Labと紹介した(事実1977年当時はそうだった)が、その後1982年にオースティンのIBMは組織変更され、Advanced Engineering Systemsに切り替わっていく。この当時、そのオースティンを仕切っていたのは、Glenn Henry氏(その後独立してCentaur Technology, Inc.を立ち上げ、x86互換のCPUを開発したことで有名)である。
Henry氏はこのポジションに就く前にSystem/32やSystem/38といった比較的小型のシステム開発を指揮しており、1982年ごろにAFWS(Advanced Function WorkStation)なる開発プロジェクトに携わってきていた。そしてROMPとこれを利用した製品の開発はすべてHenry氏の傘下に置かれることになる。
かくしてROMPもこのAFWSに思い切り影響を受けることになった。一応1982年の段階では、まだワークステーション以外にワープロ(*2)の開発も並行して走っていたが、このDisplayMasterの後継製品の開発は、なぜかは不明だが1983年にキャンセルされてしまい、ROMPを使うのはワークステーションのみということになった。
(*2) IBM Word Processor/32の後継として1980年にOPDが発表した、IBM Displaywriter System 6580のさらに後継製品

この連載の記事
-
第811回
PC
Panther Lakeを2025年後半、Nova Lakeを2026年に投入 インテル CPUロードマップ -
第810回
PC
2nmプロセスのN2がTSMCで今年量産開始 IEDM 2024レポート -
第809回
PC
銅配線をルテニウム配線に変えると抵抗を25%削減できる IEDM 2024レポート -
第808回
PC
酸化ハフニウム(HfO2)でフィンをカバーすると性能が改善、TMD半導体の実現に近づく IEDM 2024レポート -
第807回
PC
Core Ultra 200H/U/Sをあえて組み込み向けに投入するのはあの強敵に対抗するため インテル CPUロードマップ -
第806回
PC
トランジスタ最先端! RibbonFETに最適なゲート長とフィン厚が判明 IEDM 2024レポート -
第805回
PC
1万5000以上のチップレットを数分で構築する新技法SLTは従来比で100倍以上早い! IEDM 2024レポート -
第804回
PC
AI向けシステムの課題は電力とメモリーの膨大な消費量 IEDM 2024レポート -
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ