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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第321回

DeepSeekをきっかけに、AIはインターネットのような存在になるかもしれない

2025年02月04日 07時30分更新

文● 小島寛明

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 2025年1月の最後の週、中国の新興企業が提供する生成AIサービスDeepSeekの登場でマーケットが激しく揺れた。

 DeepSeekはChatGPTのように、主にユーザーがチャットで質問をすると、答えを返してくれる生成AIだ。1月20日にDeepSeek-R1という新しいモデルを発表すると、ChatGPTの新しいモデルo1に肩を並べる性能を持つと高い評価を得た。

 各方面からツッコミが殺到してはいるものの、会社はこのDeepSeek-R1のリリースまでにかかった開発費について、ChatGPTの10分の1程度の約9億円としている。ChatGPTのAIモデル「o1(Pro mode)」をユーザーが利用するには、Proというプランを契約する必要がある。Proの価格は現在200ドルで、日本円換算では3万円を超える。開発する側にとっても、ユーザーにとっても金がかかる最新型のAIと見られていたが、DeepSeek-R1の登場で、この状況は変わった。中国発で価格破壊が起き、生成AIの技術はコモディティ化するかもしれない──。

 このあおりを受けたのは、高価で高性能の半導体を開発・販売しているエヌビディアだった。米国のNASDAQに上場している同社の株価は、AIの登場でこの数年急騰していたが、27日の取引で17%急落した。

 日本と米国を中心に各メディアが報道しているDeepSeekへの評価を確認すると、現時点ではかなり幅があり、率直に言って判断が難しい。「AIにかかるコストが下がるなら、良いことだ」という楽観的な見方がある一方で、「さらなる下落の始まりだ」というかなり悲観的な見方もある。

エヌビディアの株価は半分に?

 まず、最も悲観的な予測を確認したい。

 29日のブルームバーグによれば、『ブラック・スワン』の著者で、ナシーム・ニコラス・タレブ氏はインタビューに対して、今後の下落は2、3倍の規模になる可能性があると述べたという。

 単純に計算すると、17%下落の3倍は51%だ。タレブ氏は、さまざまな局面で悲観的な予測を表明することが多いそうだが、この予測が的中するならば、今後、エヌビディアの株価は27日を起点に半分になるおそれがあるということになる。

 一方で、エヌビディアの株価は急落前も現在も、割高な水準になっていると見られている。このため、機関投資家などはエヌビディアを売るタイミングを見極めていて、DeepSeekの登場が売りの材料とされ、急落の一因になったという見方がある。この見方は、AIに多額の資金を投じている他のビッグテック各社にも当てはまる。

コストが下がるならポジティブ?

 反対に楽観論の例としては、29日のウォール・ストリート・ジャーナルの「米国企業はもう、DeepSeekが大好き」という記事がある。

 DeepSeekの登場で、米国のテック企業の優位性には疑問符が付いた。DeepSeekを米国企業が使うことで、取り扱いに注意を要する情報を中国企業に抜かれるという競争上、あるいは安全保障上の懸念もある。

 そうだとしても、企業がChatGPTをはじめとした生成AIに払っているコストは高すぎる。コストが下がるのなら、さまざまな心配事はあるものの、DeepSeekの登場を歓迎している企業のIT担当者は少なくないはずだ。ウォール・ストリート・ジャーナルの記事のおおまかな趣旨はこのような内容だ。

 現時点で、DeepSeekの全面導入に踏み切る米国や日本の企業はほとんどないだろう。しかし、今後期待されるのは、米国のIT大手などによるDeepSeekのカスタマイズだ。自社で有力なAIモデルを持っていないとしても、DeepSeekは公開モデルだ。米国企業向けに特化する形でDeepSeekをカスタマイズし、自社のサービスとして提供したとしても、法的な問題にはならないはずだ。日本でも、サイバーエージェントがDeepSeek-R1派生モデルをベースに、日本語で追加学習をした大規模言語モデルを公開している。

大競争時代に突入

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