RPA導入で月初5日間の缶詰業務から解放 ミスも激減したベアーズ
RPAソリューションを実際に導入し、運用している現場はどうなっているのだろうか。今回は、日本初のクラウドRPA「BizteX cobit」(BizteX株式会社)を導入した家事代行やハウスクリーニング事業を手がける株式会社ベアーズの事例を紹介する。
RPAの導入効果としては作業時間の短縮がうたわれるが、意外にもベアーズが価値を見いだしたのは正確性だった。導入前の課題から導入後の効果まで、株式会社ベアーズ 東京本社 マーケティング部 部長の後藤晃氏にお話を伺った。
顧客へ提出するレポート作成の単純作業で月初5日間が潰れていた
「BizteX cobit」は、BizteX株式会社が提供しているRPAソリューションで、クラウドRPAとしては日本初だという。一般的には、RPAはオンプレミス製品が多いのだが、本製品はブラウザーベースで動作するのが特徴だ。クラウドサービスなので、最短で即日から利用できたり、コストもライトプランで月額10万円からと手ごろなのもユニーク。大掛かりなRPA製品だと導入だけで数千万円かかることもあり、手軽さがウリといえる。CEOは嶋田光敏氏で、創業は2015年7月。2017年11月に「BizteX cobit」の正式版をリリースした。
今回「BizteX cobit」を導入した事例としてお話をしていただいたのが、株式会社ベアーズ。家事代行の老舗かつ日本トップクラスの規模で全国展開している企業だ。家の中の困りごとを解決するサービスを提供しており、家事代行だけでなくハウスクリーニングやマンションのコンシェルジュ、ビルオフィス清掃、五つ星ホテルのクリーニングなども手掛ける。創業は1999年10月。
「もともと、創業者の高橋夫妻が香港で家政婦を雇っていて、日本に帰ってきたときに、家政婦そのものがほとんどなく、しかもお願いすると月に20万円とか30万円するという状況でした。求めるサービスがないということは、みんなも困っているのではないか、ということで、この産業を作ったのです」(後藤氏)
とはいえ、一般家庭が支払えるのは月に2~3万円と考え、そのプライシングで雇用するとペイしないので、時間貸しにしたという。さらに、家政婦というと高給の人が使うというイメージがあったので、「家事代行」という言葉を付けた。そう、ベアーズが家事代行というビジネスを生み出した老舗中の老舗なのだ。
当初は、やはり家事代行の認知が広まらず、売上を確保するためにハウスクリーニングやビルの清掃を行なっていた。そこで知り合った人に家事代行サービスを売り込んでいたという。そんな状況の中、2011年に東日本大震災が起きて、働き方や暮らし方を見直す雰囲気になり、政府も女性活躍支援をしたりと盛り上がってきた。さらにベアーズもメディアに取り上げられて、ブレイクすることに。ここ5年は、業界全体が右肩上がりになっている状況だ。後藤氏は2016年にベアーズにジョインした。それまでの15年間はSIerでシステム開発をしていたという。
「RPA導入前の課題は2つありました。1つは、企業の福利厚生として人事部から紹介していただくことがあるのですが、その際にどのくらいのユーザーが家事代行を使ったとか、どのくらい問い合わせがあったかとかを報告しなければなりません。似たような指標ではあるのですが、フォーマットがばらばらでその集計が意外に大変でした。毎月、月初5日間は缶詰になっていたのです。BtoBtoCでの法人会員は520社ほどありまして、やっていることは実績の数字を四則演算してレポートにするだけなのですが、その5日間、法人向け営業マンは社内にこもりっぱなしになります」(後藤氏)
攻めるための法人営業が、単純作業で缶詰になるのは大きな損失といえる。そして、もうひとつの課題が、やりたいことができなかったこと。後藤氏が見ているマーケティング部門で、参考にしたいデータの工数がかかりすぎて取れなかったという。たとえば、気温を記録できれば暑い日にエアコンの問い合わせが増えた相関関係を調べたり、夏だったら草むしりといったキーワードで検索してみたり、競合がそれらの情報をどう扱っているかとかをクローリングしてみたかったそう。
「すべて手作業でやっていたので時間もかかりましたが、それ以上に問題だったのが、やはりミスをしてしまうことです。法人の営業には完璧を求めたいので、手作業ってどうなの、みたいな話が出ていました。マクロを組んで作業を簡素化したのですが、単純作業は多く残りました。ある時、もしかしてロボットにやらせたらいいのではないか? と思いつきました」(後藤氏)
ビジネススクール仲間である嶋田氏の起業が縁になった
そんなある時、ビジネススクールで一緒に学んでいた嶋田氏がRPAサービスを立ち上げるという話を耳にする。後藤氏は長くSIerで働いていたこともあり、RPAのことは知っていたのだが、価格が高いことも知っていた。しかし、日本初のクラウドRPAと聞いて、導入できるかもしれないとデモを依頼したそう。
「最初は、交通費精算で自動集計するデモを見せてもらい、正確な動作に驚きました。あと、ワークフローをGUIで組めるので、一般の従業員でもできそうだなと感じました。価格は1000万円くらいするかなと思っていたら、月額数十万円から始められるというので、それならいける、と。デモ版で試したあと、2018年1月から正式導入しました」(後藤氏)
導入はIDとパスワードがあれば入れるのでラクだったようだが、ワークフローを組むのにはBizteXにいろいろとお願いしたそう。たとえば、ベアーズの基幹システムにはBASIC認証が走っていたのだが、そこにログインできないと半分以上のシステムが利用できなくなる。このような問題を1つずつBizteXのカスタマーサクセスに解決してもらったという。
現在RPAで動かしているロボットは10個。Yahoo!天気予報から気温を取得したり、ウェブ検索で競合調査をしたり、実績を集計したりしている。そのほかには、交通費精算をラクにするロボットもある。レポート作成のための集計ロボットはパターンごとに4つほど作った。
「ウェブ検索ではテレビのキーワードも追っているのですが、それは家政婦や家事研究家などが取り上げられるとアクセスが増えることがあるからです。当社は家事代行でもシェアが高いので、他社さんがテレビに出ても、うちに集客があるんです。そこで、競合他社さんがテレビに出るタイミングを把握して、コールセンターの用意をしておかなければいけません。家事代行は、どうしても買いたいと言う製品とは違うので、1回つながらなければまぁいいや、となってしまうので」(後藤氏)
手作業でレポートを作成していた時は、案件IDや住所、プラン、サービス番号などを基幹システムからコピー&ペーストしていたが、今は朝出社したらできている、というようになったそう。
「導入効果としては、400時間くらいかかっていた作業が、ほぼ半分の230時間まで短縮でききました。それ以上に、うちの会社としては作業が正確になったのが大きいですね。RPAは時間の短縮というイメージがありますが、現場は正確性のほうがメリットが高く、精神的にすごく楽になったと言っています」(後藤氏)
大幅に作業時間が減ったため、月初5日間でも早く帰れるようになったそう。ほかにも、ウェブのクローリングも行なっている。家事代行に関するキーワードをGoogleスプレッドシートに用意し、ロボットで検索して結果のタイトルやテキスト部分を取得するという作業だ。こちらも月に8時間、約1人日の工数削減を実現できた。
すでに、大きな成果を出しているが、今後はさらにいろいろな作業をRPAで処理する予定だという。
「全国で月間2000~4000件ものサービスを行なっているので、日次で締めていかないと、ミスが起きても追えないんです。今は、それを手動でやっているんですが、ここをRPAで自動化したいですね。締めていない人がいたら、自動的に催促のメールを送ったりできたらいいですね。ほかには、顧客からのキャンセルやスタッフの欠勤が重なったとき、閾値を超えたところでアラートが出るようにしたいですね。車の配車のように、そこをサポートしたいです」(後藤氏)
RPAは導入したあとのワークフローの構築が難しいはずなのだが、試行錯誤はあったものの、比較的手間を掛けずに運用できているのに驚いた。これが、クラウドRPAの特徴なのだろう。ベアーズ側も、貪欲にRPAを使い倒し、作業時間の短縮だけでなく、正確性というメリットも引き出している。
巨大なコストを投資して莫大な業務をロボットにまかせるというRPAが取り上げられることが多い中、業務リーダーが自分で動いて担当の仕事をロボットに置き換えるというコスト感とスピード感は今の時流にマッチしており、今後さらに広まっていくと感じた。