「目的を明確に」トヨタ、KDDIも実践するオープンイノベーションの手引き
eiicon主催のJapan Open Innovation Fes 2017開催
要諦1 目的を明確にすべし
イノベーションのジレンマの突破口として、“東急電鉄、リノベる。”と、“東京センチュリー、bplats”の2つ事例を踏まえて解説しました。
前者は2020年に向けて、不動産からすれば新規の着工件数は最大のKPIです。一方で人口は減少し、空き家や中古物件が増えてきています。そこで、東急電鉄の社長は、目先のことは新規かもしれないが、将来的には二次流通(リノベーション)に手を付けていかないと、社会にとっても良くないという発想の元、リノベーションをプロデュースのリノベる。と資本・業務提携をしました。東急不動産と食い合うところもあるかもしれませんが、次の柱になりそうなところとしてベンチャーと提携しています。
後者は、リース事業を手がける東京センチュリーが、中小企業のマーケットを開拓したいため、定額課金だけでなく、従量課金でレンタルできるようにしたところ、利用に応じて課金できるプラットフォームを持つbplatsと資本・業務提携しました。ともすれば、売上は落ちるかもしれませんが、ベンチャーと提携することでシステムを手に入れ、利用者の幅を広げようとしました。
このように時代の変化に適応していかなければならない状況で、全体を包み込みながら新しい市場を作っていくことを目指しています。足元はコンフリクトするかもしれませんが、おそらく変化が進んだときは、スムーズにトラディションしていくはずです。
もうひとつ、次世代技術の獲得のために資本提携することもあります。トヨタ自動車は、AIのエンジニアリング集団のPreferred Networksに105億円出資。自動車にAI技術を取り込むために、ベンチャーの技術を手に入れています。また、LINEは、ウィンクルの音声によるナビゲートをする技術を獲得。WAVEをはじめとしたIoT家電のために資本提携をしました。これらの事例は、技術獲得することで、より資本的な関係性が強まります。買収に限りなく近い形とも言えます。
要諦2 顔が見える「大企業」へ
オープンイノベーションを成功させるには、3つのポイントがあります。トップマネージメントがオーブンイノベーションにコミットしているか。外部から顔が見える専任担当者が要るか。事業部門が動かせる力を持っているか、ということです。よく見られるケースが、意思決定者が不在。窓口がわからない。事業部が孤立してしまっている、というもの。こういうベンチャー、大企業は嫌われるそうです。
ベンチマーク企業として挙げていたのがKDDIです。KDDIは、代表取締役執行役員副社長髙橋誠氏が、ベンチャーやオーブンイノベーションに対して強烈なリーダーシップを持って責任を持ち、意思決定をしています。その下にいる、バリュー事業本部 新規ビジネス推進本部 戦略推進部長の江幡智広氏が窓口になり、江幡氏から直接高橋氏に話が行くので、1ヵ月後には出資するのか業務提携をするのかといったことがすぐに決まります。10年前からこのような体制になっており、顔が見えるようになっています。
今野氏は「ベンチャーキャピタルに関わってから12年のキャリアがありますが、キャピタリストを育てるには最低3年かかります。パートナーという全体を見られるようになるまでに8年はかかリます。私自身も8年目ぐらいからパートナーとして活動しています。そのくらい時間がかかるものであり、専任担当者であってほしいです。人脈やネットワークはその人に着いてしまうので、その人がいなくなった瞬間に窓口がいなくなってしまいます。3年5年10年というスパンでじっくり腰を据えてやってほしいですね」。
要諦3 本気なら買え
上のスライドで、左が企業の声、右側がベンチャーの声です。大企業から資本提携の話があっても、下請けのような条項があったりします。少し資本を入れて、要件を聞いてくださいといってもダメ。本気で買って買収することで、戦果的にも圧倒的に高くなるそうです。
要諦4 アントレプレナーシップを買う
一形態としてアントレプレナーシップ(企業家精神)を買うという選択肢もあるとのこと。3つの悩みを抱えていたUNITEDはKIRAMEXを買収。今野氏が2、3社マッチングし2週間程度ですぐに決まったそうで、10人ほど出向し、売上が1年半ほどで5、6倍になったそうです。ベンチャーとアントレプレナーシップを持って対等に話を進める人がいないとダメ。なんとなくオープンイノベーションでは絶対うまくいきません。
要諦5 PMIこそ進化を発揮する
今野氏「PMI(Post Merger Integration:投資後、もしくは買収後にどれだけ支援、もしくは価値向上できるか)こそ真価を発揮します。この結果、中長期にわたってベンチャーと組みたいと思われる、最大のバリューだと思います」と語り、一番うまいと思う企業として、セールスフォース・ドットコムを挙げました。
セールスフォース・ドットコムは、買収した場合、買った会社の離職を防止することだけをKPIにしている社員がいるそうです。社員のモチベーションをケアする人達によって、買った会社をどれだけバリューアップしていくかマネージメントしていくとのこと。
出資や買収は入口でしかなく、そのあとのバリューアップさせていき、成功事例をつくっていくことで、この企業と組んでみたいと思わせることが大事。「ベンチャーへ投資しても、6割は投資した額が返ってきません。オープンイノベーションでも同じで、3社に2社、2社に1社しか成功しないことを認識する必要があります」(今野氏)
最後に、スタートアップの見極め方として、「社長がどこまで行きそう、伸びそうかなというところを見ることです。感覚的なことではありますが、マザーズに上場するような企業は、社長がドライブしています。1000億行く会社の社長とそうでないのとでは、顔つきが全然違います。何に対しても社長がコミットしていないとダメです」と語りました。