米マイクロソフトが、7月11日~14日(現地時間)まで、カナダ オンタリオ州トロントで開催したパートナー向け年次イベント「Microsoft Worldwide Partner Conference 2016」(WPC 2016)は、同社のひとつの変革点を示すものになった。
例年、このイベントの実質的な主役は、CEOのサティア・ナデラ氏ではなく、マーケティング、営業を統括するCOOのケビン・ターナー氏であることは、誰もが認めるところ。基調講演では、ターナー氏のセッションの中で新たなパートナー施策が発表されたり、今後のパートナー戦略の方向性が打ち出すことが多かった。そして、数年前から、WPCの基調講演を通じて、パートナーのクラウドシフトを積極的に提案してきたのも、ターナー氏であった。
だが、WPC2016開幕直前の7月7日に、ケビン・ターナーCOOの突然の退任が発表され、COOは空席のまま、WPC2016の開幕初日を迎えた。最終日に予定されていたターナーCOOの基調講演は、ワールドワイドコマーシャルビジネス エグゼクティブバイスプレジデントのジャドソン・アルソフ氏が代役を務めたが、米国人として小柄な身体ながらも、身振り、手ぶりが大胆なターナー氏の力のこもったしゃべり方に比べると、どうしても迫力不足であったことは否めない。
そして、それ以上に、ターナー氏がいないWPCの会場には、マイクロソフトの変化を感じざるを得ない雰囲気が強く広がっていた。
ケビン・ターナー氏は、前CEOのスティーブ・バルマー氏の時代からCOOを務めてきた人物。190ヵ国以上、4万7000人以上のマイクロソフト社員から構成されるセールス、マーケティング部門を統括。全世界のパートナー戦略もリードしてきた。それは、2014年2月のナデラCEOの就任以降も変わらないままだった。
だが、今回のWPC2016は、すべての基調講演、セッションにおいて「クラウド」がキーワードとなっていた。2年前にナデラCEOがクラウドファーストへのシフトを鮮明に打ち出してから、ようやくWPCも全体に渡ってクラウド一色となったといえる。既存のライセンスビジネスを牽引してきたターナー氏がこのタイミングで退任することは、まさに、パートナー戦略も新たな時代に入ったこと、つまりクラウドファーストの時代に入ったことを強く感じざるを得なかった。
ターナー氏によって、強固な体質に変化したマイクロソフト
WPC2016の会場で、日本マイクロソフトの平野拓也社長にもその点について聞いてみた。
平野社長は、ターナー氏のこれまでの功績を高く評価する。
平野社長は、2005年に日本マイクロソフトに入社したが、ケビン・ターナー氏と自らの入社時期が1週間しか違わないことを明かしながら、次のように語る。
「入社当時、マイクロソフトの印象は、これだけ大きな会社なのに、なんてゆるい会社なんだろうということだった。四半期ごとの利益の責任なども徹底されたものがなく、まるで、身体は大人なのに考え方は高校生のような感じだった」と当時を振り返りながら、「そこに、秩序であるとか、しっかりとしたモノの見方などを持ち込んだのがケビン・ターナーであり、その功績は大きかった」と語る。
ターナー氏によって、マイクロソフトが強固な体質へと変化したことを感じていた1人が平野社長だった。
ターナー氏は、米最大の小売業であるウォルマート出身。約20年間をウォルマートで過ごした同氏は、同社において29歳という若さで史上最年少の役員に就任したほか、最高情報責任者(CIO)などの主要なマネージメント職を歴任。マイクロソフト入社直前まで、当時年商370億ドルの規模を誇った「SAM’S CLUB」事業部の社長兼最高経営責任者を務めた。
小売業で培ったノウハウをマイクロソフトに導入し、スコアカード方式と呼ばれる独自の評価手法も、同氏によってマイクロソフトに持ち込まれたものだ。
毎年1月に開催される社内向けの事業報告会であるミッドイヤーレビューは、ターナー氏を中心にして実施されるもので、全世界の法人や事業部門が細かい事業結果やその事業を取り巻く情報までを報告。「どんなにいい業績を達成していても、厳しい要求が求められる、社内で最も厳しい会議」と、事業をあずかる幹部社員からも恐れられていたほどだ。だが、今年1月に開催されたミッドイヤーレビューでは、その雰囲気が大きく変化していたという。
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