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アスキーエキスパート 第3回

鳥取県のオープンイノベーション“とっとりと”で地産商品創出

2016年06月23日 09時00分更新

文● 井田広之/アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。鳥取県庁の井田広之氏による地方都市でのオープンイノベーションについての最新動向をお届けします。

 鳥取県が全国初で開始した新商品開発プロジェクト“とっとりと”、特徴は“地域×地域外”によるオープンイノベーションだ。

「日本一の先進政策大賞やグッドデザイン賞も受賞したその仕組みとは?」
「ベンチャー企業やスタートアップは、地方創生にどう関わることができるのか?」

 地方都市によるオープンイノベーションを立ち上げた経験から、地方がどうオープンイノベーションを活用できるのかヒントを提供したい。

商品開発の悩みと“とっとりと”構想

「新商品をつくったんだけど、なかなか売れなくて……」

 鳥取県内の中小企業支援に長年関わる筆者は、経営者のこのような声をときどき聞くことがある。新商品を実際に見せてもらうなかで感じるのは、商品そのものの魅力が弱い場合も多いということだ。たとえば、原価を積み上げた結果、販売価格が高すぎるものになったり、外観にあまり力を入れず、見た目で損をしていたり、お金を払って買うニーズがあまりなさそうだったりする。

 一方、“モノ余りの時代”と言われているように、買い手側も欲しいものが見つかりにくい時代になってきている。たとえば地域産品は新商品が続々と世の中に投入されているため、その多くが埋もれがちである。つまり、中小企業にとって、顧客が魅力を感じる商品をつくることはただでさえ難しいうえに、ものが売れにくくなっているのだ。

 このような厳しい環境の中で売れる商品を生み出すには、従来から行なわれている商品開発経費の補助や販路開拓のために地域ぐるみで展示会に出展するという支援では「足りない」と感じていた。

 出来上がって後戻りが難しくなった商品をいかに売るかではなく、いかに魅力的な商品をつくるかというところまで遡った支援もしていく必要がある、と思い始めていた。

 そんな中、海外を中心に“オープンイノベーションの動き”が広がりつつあった。オープンイノベーションとは、外部との連携により従来は生まれなかった新しい価値を創り出すこと。たとえばP&Gは10年前、新製品のアイデアの約半分を社外から得て、数百の製品を投入していた。

 無印良品を展開する良品計画も、ネットを活用して消費者との共創による商品づくりに早期から取り組み、共創によらない商品の平均売上高の3倍以上になった、という結果も出していた。

 また東日本大震災以降、ボランティアや専門性の高い技術をもつボランティア“プロボノ”などにより、社会に貢献したいと考え行動を起こす人々が増えるとともに、地方の活性化に対する関心も高まりつつあると感じていた。

 そして、このような地元企業の商品開発の課題を何とかしたいという想いと、オープンイノベーションや人々の社会貢献のイメージが、ある時、筆者の中でうまく結びついた。

 地方企業が首都圏などに打って出るためのアイデアを地域外から得ることによって、これまで生み出せなかったイノベーティブな商品ができるのではないか。新商品をつくっても埋もれやすい世の中で、生活者との共創という新たな価値をつけることができるのではないか。開発プロセスに全国の生活者に関わってもらうことで、できあがる商品や地元企業への関心が高められるのではないか。このような想いをもとに、“とっとりとプロジェクト”の構想が生まれた。

多くの共感で成り立つプロジェクト

 とっとりとプロジェクトは、生活者との共創プラットフォームを開発、運営するベンチャー企業“blabo(東京都品川区)”と鳥取県が連携して事業を実施している。ちなみに、“とっとりと”の一番最後の“と”は、“with”、“一緒に”という共創のコンセプトが込められている。

 事前審査を経てプロジェクトに参加する地元企業が、blaboが運営するサイト上に開設した専用コミュニティーを通じて全国の生活者からアイデアを募り、それらをヒントにしながら、生活者との共創による新商品を開発し販路開拓を目指す取組みだ。

 鳥取県には日本遺産にも登録された開湯850年のラジウム温泉“三朝温泉(みささおんせん)”があり、もっと多くのかたに来て欲しいと考えている旅館の“依山楼岩崎(いざんろういわさき)”が、2015年度プロジェクトに参加。その経営課題を「思わず『三朝温泉に訪れたい!』と思ったあなた。いったいどんな“癒し”のプランを提案されたから?」などの、楽しみながら考えられるお題に変換して新プランのアイデアやキャッチコピーを募ったところ、全国から約260ものアイデアが集まった。

 その後、寄せられたアイデアをヒントにして、旅館だけでは考えつかなかった、中山間地のイメージを逆手にとった、スマホなどのデジタルツールから離れて“何もしない贅沢”を満喫できる宿泊プラン“三朝温泉デジタルデトックスプラン”を開発、2016年春に商品化され、多くのメディアに取上げられるなど反響を呼んでいる。

 とっとりとプロジェクトは、2015年秋に“グッドデザイン賞(日本デザイン振興会)”を受賞。また、全国3000件超の政策の中から“先進政策大賞(全国知事会)”も受賞するなど、その仕組みも高く評価されている。プロジェクト開始からこれまでの2年間の具体的な成果を以下に紹介する。

全国からのアイデア投稿件数は3100件以上
 参加した中小企業計13社に対し、全国から3100件以上もの商品開発アイデアがコミュニティーに寄せられた。単独の中小企業ではなく、鳥取県という人口が全国最少の地域を盛り上げるプロジェクトとして実施したことも、生活者の共感を得ることに貢献したと考えられる。

全国、地元メディアへの露出は60回以上
 全国初の中小企業支援策ということもあり、テレビ、新聞、雑誌、ネットニュースなど、多数の全国、地元メディアにプロジェクトが取り上げられ、新商品や参加企業、更に鳥取県全体の情報発信に繋がった。最近では何と、取組みがフランス語に翻訳されて、フランス向けの情報誌にも掲載された。

プロジェクトから新商品が続々と誕生
 前述の三朝温泉デジタルデトックスプランの他、全国の生活者との共創による新商品が続々と誕生しており、大手小売企業との取引が生まれるなど、大きな成果に繋がっている。

薄切り餅『毎日がもちようび(いけがみ)』

 食べる機会の減った日本の食文化「お餅」を日常的に食べて欲しいと願う老舗餅屋の新商品。ネーミングやレシピ集に生活者のアイデアを活用。

『伯州綿(はくしゅうめん)を使ったギフト向け商品(きさらぎ)』

 江戸時代には全国に知られた和綿の一大産地でもあった鳥取県西部。その優れた文化の復活を願って自社栽培したオーガニックコットン使用のタオル等。生活者からのアイデアがヒントや励みとなり商品化が実現。

地方創生のカギのひとつは、オープンイノベーション

 とっとりとプロジェクトは、“中小企業”と“全国の生活者”だけでなく、地方自治体(鳥取県)とベンチャー企業(Blabo)によるオープン・イノベーションでもある。通常、地方自治体が全国の生活者にリーチするのは難しく、サイトをつくっても反応が芳しくないケースも多い。今回、生活者との共創に関するノウハウとプラットフォームを保有するベンチャー企業との連携があったからこそ実現できた。

 共創のためのコミュニティーサイトを役所主導でつくっていないことも、今回の取組みではポイントになったと考えている。全国の生活者が楽しみながら、軽やかに投稿したくなるサイト設計やデザイン、テキスト、コミュニティー運営は、役所が不得意な部分だ。一方で、公的機関が持つ信頼感と安心感のイメージや、地域や地元企業に詳しいという点では、自治体の強みが活かされている。

 人口減少や少子高齢化が進む中、地方が抱える課題を解決するには、従来行なわれてきた政策の継続やその延長線上にある改善の取組みだけでは不十分である。その解決策のカギのひとつは、オープンイノベーションだと筆者は考えており、新たな技術や仕組み、価値観を持つベンチャー企業やスタートアップなどが活躍できるフィールドは広い。ぜひ、みんなでいっしょに、地方の未来を創っていきましょう!

■関連サイト
とっとりとプロジェクト

井田広之(いだひろゆき)

著者近影 井田広之

全国の生活者と鳥取県の企業が新商品を共創する「とっとりとプロジェクト」で、全国知事会「先進政策大賞」、日本デザイン振興会「グッドデザイン賞2015」を受賞。最近では、日本一に輝いた鳥取の美しい星空と宇宙をテーマに地域経済活性化を目指す「星空県」構想を提唱し、民間月面探査チームとのコラボもスタート。
経済産業省プログラム「始動Next Innovator」第1期生。中小企業診断士。神戸大学経営学部卒、山陰合同銀行を経て、鳥取県庁にて産業振興分野を10年担当。

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