月商300万円超のすごい八百屋「旬八青果店」が目指す未来
八百屋ベンチャーとして食農業界の人材排出を活性化させるアグリゲート
農業を変えるために取り組んだ小売業
青果店をビジネスとすることになったきっかけは、左今氏が大学時代、日本各地をバイクで旅に出かけたことにある。
「2カ月、各地を回ったが、当時は若い農作業者をほとんどみかけなかった。若者不在の農地の風景を見ていると、最初は癒やされたが、時間が経つにつれこれはまずいんじゃないかという気持ちになってきた。自分がそこで働くのもちょっと違う。なんとか、若者を農業の現場に連れてこられないだろうか。そんなことを考えるようになった」(左今氏)
農業と人材の関係がアグリゲートの根底にはある。左今氏が大学卒業後に選んだのは、人材紹介や派遣業務を行うインテリジェンス社だった。人材をコアとする業界で、実際の流れを学ぶことが目的だった。
「人材業界で働いてみてよくわかったのは、農業に若い労働者を送ろうにも、賃金が安すぎるということ。オーナーになれば高い収益を得ている人もいたが、『農家へ働きに行く』という観点では、就職しても儲からない。働く若者がいないのも無理はない状況だった」
この状況を変えるためには、「儲かる農家」を作る必要がある。また左今氏自身の実感から、「都会で忙しく働いていると、食環境はボロボロで、健康によくないものばかり食べている。儲かる農家を作ることで、都市の食生活を豊かにすることもできるのではないかとも考えた」と、意識を都市生活者に向けて考え始めた。
起業のためにインテリジェンスを辞めた左今氏は、まずは知り合った農家の野菜をマルシェなどに出店、また百貨店やスーパーへ営業を行う代行業務を行いながら、どんなビジネスを行うべきかを検討した。
「産直の通販事業をやればよいのではというアドバイスもあったが、すでに通販はオイシックスなど先行企業があった。今さら同じことをしてもしょうがない。当時は自分一人、営業代行業務でなんとか食べていくことができる状況だけだった」
営業代行の仕事をする中で、取扱量も徐々に増加していく。そんな中、転機が訪れる。独創的な品揃えのスーパーを展開する福島屋から、青果売場コーナーを請け負わないかという声がかかったのだ。
「担当する以前の実績は、1日5~6万円程度の売上だった。だがこれを請け負って、平均で13万~14万円、最高時には30万円を売り上げる青果コーナーにすることができた」
3倍近い売上アップを実現した要因は、現在の旬八と全く同じ構造だ。店舗があるエリアの顧客を観察し、話をして、求められているものを入荷し続けたことで売上は伸びていった。
「ここで得た経験は大きかった。値段は異なるが味に大きな違いがないような、慣行栽培(通常の育成方法で育てられている野菜)と有機栽培のほうれん草を一緒に販売し、青果におけるブランディングの重要性を痛感した。一人で営業代行をやっているときも、産地や商品名がブランドとして定着していない商品をブランド化するために営業をしていたので、重要性を理解しているとは思っていた。しかし、実際に値段が異なる商品を販売してみると、ブランドのありなしで、ここまで売り場に影響があるのかと驚いた」
この経験を契機に2013年10月、いよいよ自社ブランド、「旬八」の名称で青果店をスタートする。1号店は中目黒駅、続く2店舗目は山手通りに面した目黒警察署前店だ。
「産地から商品を店舗まで持ってくる、物流まで含めてビジネスを考えると、1店舗用の商品だけでは2トントラックは埋まらない。複数の店舗を持ち輸送まで行う方が効率的。そこで、ドミナント展開をスタートした」
この戦略は見事に成功し、順調に店舗は増加していった。
今後の成長の鍵握る教育事業
好調な成長を続けたアグリゲートだが6期目になって危機が訪れる。店舗は8店舗、さらなる事業拡大を狙い、規格外の野菜を扱う飲食店をオープンし、卸業を行う企業とも提携した。ところが、「きちんとした人材教育ができていない状態で事業拡大を進めたところ、5期目まで続けていた黒字が一転、赤字」(左今氏)という事態に陥った。
卸業者との提携はコスト削減につながりそうに思えたが、社内スタッフが育っていない状況では、逆にコストを増やす結果となった。また、これまで順調に業績が拡大していたこともあって、裏側の管理システムの整備などは後手にまわっていた。赤字要因はここにもあった。
「社内教育、管理システムをこのタイミングで急ぎ整備した。重視したのは、社内教育体制の部分。6期目でようやく仕組みを整えた」(左今氏)
社内向けの教育体制の充実は、思わぬプラス効果を生んだ。そもそも野菜を販売するための人材教育を制度立てて行っている企業組織はなかなかない。
「教育事業を専門で行っている企業から、これを外販すれば需要があるといわれ、事業化することになった。普段の食をもっと楽しみたいというカルチャー的な教育と、食や農業に関わったビジネスをしている人向けの講座の2種類を用意し、教育事業『旬八大学』として提供している」
さらに、この教育という仕組みは、今後導入を検討する青果店ビジネスをフランチャイズ方式で実施する場合のビジネスのベースとなる。
「当社の店舗の粗利率は50%で、業界の中では異常と言われている。これは、産地を回って、売れるのかわからないものを選別し、仕入れてくるからこそできるビジネス。実際の現場はきついが、今後ビジネスとして整理すればより稼げる」と左今氏はアピールする。スーパーや百貨店などにも青果バイヤーはいるが、日本各地を飛びまわって地場の農家と直接関わったりはできない。アグリゲートは旬八青果店の評判もあり、日本各地に招聘され開催するセミナー展開と平行して、地元と関われる仕組みがすでにできていた。
もっとも、同社も人材教育が十分でなかった時期に赤字転落していることからも明らかなように、きちんと「青果の生み出す価値を理解している」からこそ、それだけ収益性が高いビジネスが成り立っている。
たとえば同社は、産直だけでなく青果市場からも商品を仕入れている。「福島屋で青果コーナーを担当していた時代に、市場にも行ってみた方がいいとアドバイスを受けて行ってみた。市場は通常の店舗とは異なり、参加方法がわからないようなところから始めたが、産地では得られない貴重な情報がじつはある。取引上の使い勝手の部分で、レガシーな既存の仕組みを使わないというやり方ももちろんあるが、むしろ、良い部分は積極的に使わせてもらおうと、市場からも商品を仕入れている」(左今氏)
産直と比べ、市場で販売されている商品の売価には物流コストが載るため高くなる。だが、そういった点もふまえて市場を積極的に活用するために、通常は借りるケースが多い市場での販売権を、アグリゲートは自社で取得して市場に参加している。