米マイクロソフトが開発したホログラフィックコンピュータ「Microsoft HoloLens」が、いよいよ企業での活用を模索するフェーズへと移行しようとしている。
米国時間の3月30日から、米国およびカナダ市場を対象に、開発者向けの「Development Edition」の提供を開始しており、現在、エンタープライズ分野における「コマーシャル・パートナー」として、約30社がHoloLensを活用した業務用アプリの開発をスタートしているところだ。
この中には、NASAやエアバスといった宇宙・航空関連、アウディ、フォルクスワーゲン、ボルボ、サーブといった自動車関連、オートデスクやダッソー・システムズといったCAD関連企業などが含まれる。そして、唯一日本の企業としては日本航空(以下、JAL)が参加している。
JALがHoloLensで実現したい内容を本社側にプレゼン - 日本MSが橋渡し役
今回のJALの参加は、日本マイクロソフトの樋口泰行会長が、米マイクロソフトの当該部門との橋渡し役となり、JALがHoloLensを使って実現したい内容を本社側にプレゼンテーション。それが認められて決定したものだという。Development Editionの提供が、米マイクロソフトの本社部門を通じて、米国、カナダ市場に限定して出荷されているという背景からも、日本マイクロソフトはこのプロジェクトには直接タッチはせず、米本社とJALとの間で2015年8月から協業体制を取り、開発が進められた。
そうした経緯もあり、4月18日に行なわれた会見でも、会場は日本マイクロソフト本社であるにも関わらず、主催はJAL。司会進行やデモストレーションも、すべてJALが行なった。
また熊本地震の影響により、日本マイクロソフトの樋口会長が対応の陣頭指揮を執ることを理由に、JALの植木義晴社長ともども急きょ欠席になったこともあり、日本マイクロソフトからの登壇者はゼロ。JALのHoloLensプロジェクトチームの担当者と、米Microsoft ニューデバイスマーケティング担当のスコット・エリクソン ゼネラルマネージャーが登壇して、説明を行なった。ちなみに今回のJALの発表は、HoloLensを活用した業務用プロトタイプの開発はアジア初であるとともに、航空会社でも初めてとなる。
パイロットを対象に開発した「ボーイング737-800型機 運航乗務員訓練生用トレーニングツール」
JALが開発したのは、パイロットを対象に開発した「ボーイング737-800型機 運航乗務員訓練生用トレーニングツール」と、整備士を対象にした「ボーイング787型用エンジン整備士訓練用ツール」のふたつである。
「ボーイング737-800型機 運航乗務員訓練生用トレーニングツール」は、HoloLensを装着することで、リアルなコックピット空間をいつでもどこでも体感でき、副操縦士昇格訓練での補助的なトレーニングツールに活用することを目指しているという。
現在の訓練では、コックピット内の計器、スイッチ類を模した写真パネルに向かい、操作をイメージしながら操縦手順を学習しているが、HoloLensを利用することで、目の前にコックピット内の計器、スイッチ類がホログラムとして表示され、音声ガイダンスに従って、自らの体を使ってシミュレーションできるようになるため、効果的な訓練が期待できる。
JALの植木社長は、会見に寄せたコメントの中で、「私はJALのパイロットとして35年間フライトをしてきた」と前置きし、「その経験から、パイロットの訓練、特に初期段階の訓練にまだアナログなものが多いことを知っている。私が訓練をしていたころも、コックピットの計器やスイッチが描かれた紙を、部屋の壁に貼り付けて手を動かしたり、声を出したりし、ひとりで完全に想像の世界でやることがあった。だが、紙はなんら反応しないため、それが正しい手順なのかを自分では判断できない。そこで、正しい手順になっているかどうかを、同期の訓練生に見てもらったりといったこともあった」と振り返る。
そして、「HoloLensなら、極めてリアルなコックピットを再現でき、スイッチを反応させたり、計器の数値を変化させたりできるようになる。実際のコックピットでの動きに、より近いイメージを体で覚えることが可能になった」とし、「これはパイロットだった私だからこそ自信を持って、めざましい進化だと理解できる」と評価した。
開発プロジェクトに携わったJAL HoloLensプロジェクトリーダーの速水孝治氏も、「HoloLensは、現実も透過して見ることができるミックスド・リアリティを実現しているため、VRやARとは異なり、コックピットの映像とともに自らの手も見える。そのため、コックピットの操作を自ら行なっているように見え、頭で覚えたことを体に覚え込ませる、いわば知的メモリーを運動メモリーに変えるための学習につながる」とする。
この訓練には所定のステップが定められているため、トレーニング期間を短くすることにはつながらないが、習熟度を高める点では大きな効果があると見込んでいる。
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