読者の皆様、明けましておめでとうございます。2011年はいろいろと大変なことがあった1年でしたが、今年はよい年になるよう心よりお祈り申し上げます。さて、この週刊セキュリティレポートですが、今年から少し趣向を変え、1つのテーマについて掘り下げていきたいと思っています。初回は、教育現場における情報セキュリティをテーマに4回にわたってお届けします。
ここ数年で、小中学校や高校のICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)化が非常に加速しています。2011年4月には、文部科学省から「教育の情報化ビジョン」が発表され、より具体的な方針が示されました。これは、昨今問題となっている日本の教育レベルの低下を食い止め、より優秀な人材を輩出することを目的としています。教育レベルの向上はとても大切なことですが、しかし実現にあたり、情報セキュリティにさまざまな課題があります。
公立学校ICTの特徴
学校のICT化は、私立の場合は各学校で行ないますが、公立学校は市区町村や都道府県ごとの教育委員会が主導します。現在特に強く進められているのが、生徒向けの教育用コンピュータ、教員向けの校務用コンピュータと校務支援システム、校内LAN、電子黒板、そしてインターネット接続環境の整備です。また授業用以外に、自由に利用できるPCを図書室などに導入しているケースもあると思います。
インターネット接続については、各学校がインターネットへの接続回線をもつのではなく、各学校の校内LANや教育委員会、教育センターを結ぶ教育用イントラネット(教育用広域LAN)を構築し、インターネットへは教育センターなどの各地域センターにゲートウェイを設けて接続するような方法が多くとられているようです。広域のLANを構築することにより、学校間での資料の受け渡しや、コンテンツの共同利用などを、インターネットを経由するより安全で簡単に行なうことが目的となっています。
学校ICTの現状
それでは、学校のICT化は、今現在どのような状況なのでしょうか。昨年の3月に行なわれた公立高校のICT環境整備状況に関する調査をまとめた、「平成22年度学校における教育の情報化の実態などに関する調査結果(概要)」を文部科学省が公表しているので見てみましょう。ここでは、セキュリティを考える上で大切な、教員の校務用コンピュータ整備率について注目します。平均は99.2%と高い数値にありますが、低いところでは65%~70%程度の地域もあります。また都道府県ごとの集計になっているため、地区や学校単位では偏りがあるかもしれません。
100%が支給されていない場合、そこには個人用PCが持ち込まれているという可能性が考えられます。企業では情報セキュリティの観点から、厳しく制限されていることが多いですが、教育現場ではまだ多くの持ち込みPCが使われているという現状が想像できます。そのため、今後もICT設備については拡張する必要があり、情報セキュリティの観点からは、校務用PCの100%普及が特に重要となってきます。
筆者紹介:富安洋介
エフセキュア株式会社 テクノロジー&サービス部 プロダクトエキスパート
2008年、エフセキュアに入社。主にLinux製品について、パートナーへの技術的支援を担当する。
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