このページの本文へ

週刊セキュリティレポート第48回

医療ICT化における課題 その4

医療ICTの今後の広がり

2012年06月25日 06時00分更新

文● 富安洋介/エフセキュア

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 これまで3回では、現在の医療ICTが抱えている課題を紹介してきました。最後は、今後の医療ICTの広がりを紹介したいと思います。

まだ第一歩を踏み出したばかりの医療ICT

 第45回でも紹介した「保健医療分野の情報化にむけてのグラウンドデザイン」では、6つの情報化を想定しています。このうち、前回までに紹介した。電子カルテシステムとレセプト電算処理システムは、比較的普及が進んでいます。ですが、そのほかの分野、特に遠隔診療支援システムと個人・資格認証システムについては、本格的な導入に際して大きな不安が考えられます。

 遠隔診療支援システムは、大きく2つに分けられます。1つは病院や診療所と在宅の患者を結ぶもので、もう1つは病院や診療所同士をつなぐものです。

 遠隔診療といってまず思いつくのが、1つ目の病院と在宅の患者を結ぶ形態かと思います。寝たきりなどで動けない患者や、交通の事情で病院に行くことが難しい患者のために、従来の訪問医療を発展させ、より効率的に行なう手段として期待されています。この遠隔診療での最大の懸念点は、どのように安価でセキュアな通信環境を一般家庭と病院との間に築くかにあります。

 医者と患者の問診の内容や、血圧などの生体データの内容は、プライバシーとして他人に知られたくないと思う人が多いうえ、人によっては社会的な影響の面からも守られる必要があると思います。かといって、レセプトオンラインのガイドラインのような重厚なセキュリティでは、患者側の負担が大きく現実的ではありません。セキュリティのガイドラインをどう定めるのか、また負担をどうやって分担するかという点での落としどころが非常に難しい問題なのです。

 遠隔診療のもう1つである病院同士をつなぐものは、異なる病院の専門医がCTスキャンやMRIの画像診断などを行なう方式です。こちらは、比較的推進しやすいと考えられます。病院同士のため、比較的インフラが整えやすく、また画像診断であれば特定の個人を結び付ける情報を送る必要もないため、個人情報の保護についても守りやすいと考えられます。

マイナンバー制度をうまく安全に活用できるか

 今年の2月14日に社会保障・税の共通番号(マイナンバー)制度が閣議決定され、今国会で審議されています。国民の所得と社会保障の支払いの状況を一元的に管理し、公平な社会保障を目指すという大目標の元に作られていますが、それ以外にもメリットがあるといわれています。

 この原稿を書いている時点では法案審議中のため修正が盛り込まれる可能性がありますが、このまま内容で通った場合、私たちの社会保障や税の支払い記録などが番号により統一された情報として扱われるようになります。この情報は、ICカードとポータルを使用し、自分のいままでの年金の保険料の支払などの記録の確認や、行政側からの制度改定などの情報提供を受けることが可能になります。

内閣官房によるマイナンバー制度導入までのロードマップ

 今回の制度では、保険料の支払いの状況のみがマイナンバーの情報として含まれ、レセプトの内容や電子カルテの情報との連携は規定されていません。しかし、社会保障を取り扱う以上、医療データと連携することでより大きなメリットを生み出すとの議論もあります。もちろん、実際に連携するにあたっては、セキュリティ上の大きな問題があります。それは、「社会保障・税に紐付けられているID」と「今後連携するほかの情報に紐付けられているID」のそれぞれの情報がもれた場合も、特定の個人が特定されない仕組みを作ることです。この仕組みが情報連携基盤で、内閣官房で検討が進められています。

情報連携基盤技術ワーキンググループによる、中間取りまとめ

 マイナンバーの閣議決定を受け、2012年後半には検討内容が煮詰まっていくと思いますが、個人的には、検討内容の結果にかかわらず、国民にはマイナンバーを拒否する自由があってもよいのではないかと考えます。医療分野については、ICT化により私たちが直接恩恵を受ける内容が山ほどあります。課題は多いですが、少しずつでも解決されることを願っています。

筆者紹介:富安洋介

エフセキュア株式会社 テクノロジー&サービス部 プロダクトエキスパート
2008年、エフセキュアに入社。主にLinux製品について、パートナーへの技術的支援を担当する。


カテゴリートップへ

この連載の記事
ピックアップ