サーバテンプレートが
システムの構築手順書になる
米ライトスケールのRightScaleは、もともとクラウドサービスの元祖でもあるAmazon EC2の管理ツールとしてスタートしている。
安田氏がRightScaleの魅力として感じたのは、前述したサーバテンプレートのコンセプトだ。サーバテンプレートの実体は汎用言語を用いたスクリプト群で、OSにとどまらず、ミドルウェアやアプリケーション、設定やバックアップ、監視までも単一のサーバテンプレートに統合できる。「サーバテンプレート自体が構築手順書になっているので、テストなども実に簡単になりました。また、バージョン管理されているので、いつ、だれが、どこを変更したかの履歴も、確実に管理できます」(安田氏)。
もう1つの選定の理由は、やはりワールドワイドでの実績だ。すでに全世界で4万アカウント、300万台のサーバーがRightScaleによって管理されており、一流企業や同業大手の採用も増えている。今年からは日本法人も設立され、継続的な利用を支える体制が整ってきたのも大きい。
実際の導入に際しては、エンジニア3名が3日間のトレーニングを受けたのち、発行されたテストアカウントにより、2011年の年始から2~3ヶ月の検証を行なった。「RightScaleのコンセプトを理解するのは大変でしたが、負荷が増えたときに自動的にリソースを追加するオートスケールのような機能も実際に見られました。英語でしたがドキュメントも豊富でしたし、トレーニングは有用でした」(安田氏)。その後、4月に狩りとものインフラで本採用し、あわせて「ミニチュアガーデン by Livly Island」というAndroid端末向けの箱庭育成ゲームのインフラとしても利用されている。
具体的なシステムは、ロードバランサー、アプリケーションサーバー、データベースサーバーの3階層のシステムに、管理サーバーとログサーバーを加えた合計5つのサーバーテンプレートから構成されている。ライトスケール自体から提供されているMySQLのテンプレートをそのまま使ったり、アプリケーションサーバー用に構築手順書から自社でカスタマイズしたものを導入している。
サーバー構築や運用の「プログラム化」が実現
RightScale導入のメリットは多岐に及ぶ。サーバテンプレートのおかげでゲームインフラでのサーバー構築が自動化され、約30%の構築コストの削減が実現されたという。また、バックアップや監視などを含めてテンプレート化されているので、いわゆる構築のベストプラクティスもシステムに確実に導入できた。「今まで特定の個人に依存していたものが、ゲーム開発担当、インフラ担当、アプリケーション担当など、みんなでノウハウを持ち寄ってバージョン管理しながら構築や運用の手順をリファインできるようになりました」(安田氏)ということで、運用の標準化に大きく貢献しているという。
また、同じシステム構成を再利用することで、ノウハウの共有も実現した。ソーシャルゲーム用のシステム構成は共通している部分が多く、使い回すことで、テスト環境などの提供が短期間で済むようになったわけだ。サービス開発部でゲームの開発を手がける開哲一氏は、「リクエストするとテスト環境もすぐに用意してくれます。加えて、DBなどをいろいろ変更したものをそのままサーバテンプレートに反映できるようになりました」ということで、ミドルウェアが導入された状態で用意されているので、スピードアップが実現された。インフラを提供する側の成田宏和氏も、「同じ環境をくださいというリクエストに容易に応えることが可能になりました。加えて、既存のテンプレートの一部分だけを切り出して、他に転用するとか、複数のサーバテンプレートをマージして、カスタマイズが柔軟なのもありがたいです」と述べている。
こうした導入効果を安田氏は、「RightScaleにより、サーバー構築がプログラム化され、ソフトウェアのようにリファクタリング、テスト、再利用が可能になった」と表現している。クラウドのリソースを有効活用することに加え、運用管理のPDCAを回すのにあたってRightScaleを最大限に活用しているわけだ。今後も同社ではRightScaleを積極的に使って、ゲームインフラの最適化を進めていくという。
この連載の記事
-
第56回
ビジネス・開発
ノーコードアプリ基盤のYappli、そのデータ活用拡大を支えるのは「頑丈なtrocco」だった? -
第55回
ビジネス
国も注目する柏崎市「デジタル予算書」、行政を中から変えるDXの先行事例 -
第54回
IoT
“海上のセンサー”の遠隔管理に「TeamViewer IoT」を採用した理由 -
第53回
ネットワーク
わずか1か月弱で4500人規模のVPN環境構築、KADOKAWA Connected -
第52回
Sports
IT活用の「コンパクトな大会運営」20周年、宮崎シーガイアトライアスロン -
第51回
ソフトウェア・仮想化
DevOpsの成果をSplunkで分析&可視化、横河電機のチャレンジ -
第50回
ソフトウェア・仮想化
テレビ東京グループのネット/データ戦略強化に「Talend」採用 -
第49回
Team Leaders
おもろい航空会社、Peachが挑む“片手間でのAI活用”とは -
第48回
Team Leaders
規模も戦略も違う2軒の温泉宿、それぞれのクラウド型FAQ活用法 -
第47回
Team Leaders
箱根の老舗温泉旅館がクラウド型FAQ導入で「発見」したこと -
第46回
ビジネス
東京理科大が国際競争力向上に向け構築した「VRE」の狙い - この連載の一覧へ