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最新ユーザー事例探求 第54回

海洋水産資源管理の高度化を支援する環境シミュレーション研究所に導入の背景を聞く

“海上のセンサー”の遠隔管理に「TeamViewer IoT」を採用した理由

2020年10月05日 09時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

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 「海洋や漁獲のデータを収集するこの機器は、北から南まで、全国の漁業者さんや自治体、研究機関に導入いただいています。埼玉は“海なし県”ですから、導入先は当然県外になります。メンテナンスのために現地出張するのは、毎回、時間もコストもかかっていました」(環境シミュレーション研究所 小平佳延氏)

環境シミュレーション研究所 主任研究員の山口晶大氏(左)、同社 代表取締役の小平佳延氏(右)

 埼玉県川越市にある環境シミュレーション研究所は、海洋に関するさまざまなデータを活用するためのシステムを開発、提供する企業だ。そんな同社製品の1つ「RealMC-02」は、海洋/漁獲データを漁船や海洋調査船などからリアルタイムに収集するGPSデータロガーである。上述のコメントにあるとおり、同製品の導入先は全国の漁港が中心となっており、中には離島も含まれる。

 メンテナンスのたびに毎回現地出張するのではなく、リモートからでもセキュアかつ確実にメンテナンスできる手段はないか――。そう考えていた同社が発見したのが、TeamViewerの提供するリモートアクセスツール「TeamViewer IoT」だった。今年(2020年)8月からRealMC-02に組み込み、すでに大きな効果を上げているという。導入の背景などを、同社 代表取締役の小平佳延氏、主任研究員の山口晶大氏に聞いた。

「海洋水産分野の情報化」目指しデータ活用ソリューションを展開

 環境シミュレーション研究所は「海洋水産分野の情報化促進」を目的として、さまざまな海洋データの解析/活用のためのソリューションを開発している。「海洋環境情報配信事業」「海洋版GIS事業」「デジタル海底地形図事業」の3つが事業の大きな柱であり、顧客の多くは海洋/水産の調査研究を目的とした国や地方自治体、研究機関、大学などだという。

環境シミュレーション研究所のWebサイト(https://www.esl.co.jp/)

 こうした事業の基盤には“海のデータ”が必要となる。行政機関や情報提供会社から購入できるものもあるが、海水温やプランクトンの分布など日々変化する細かなデータはそれだけでは補えない。そこで、漁業者の協力も得ながら、現実の海から多様なデータを収集するのがRealMC-02の役割となる。

GPSデータロガー「RealMC-02」本体。GPSによる位置情報と、接続された魚群探知機や海水温/潮流センサーなどの情報をログ記録し、魚種ごとの漁獲量データと合わせてLTE経由でクラウドに送信できる

 このGPSロガーは多様な用途に使える。たとえば水産資源管理がその一例だ。

 クロマグロを筆頭に、近年では水産資源管理の重要性が国際的に指摘されるようになっている。水産物は限りある資源であり、競って乱獲を進めてしまうと漁業の持続可能性が失われてしまう。そのため、精度の高いデータに基づく管理と規制が欠かせなくなっている。

 「国の施策として、水産庁が資源管理に力を入れています。ただし、漁獲量をどこまで規制すべきか(漁獲枠をどの程度割り当てるか)を判断するためには、個々の魚種の総量がわからなければなりません。『この魚はどこに、どれだけいるのか』『どれだけ獲っているのか』というデータが必要なのです」(小平氏)

 国や自治体も調査船を持っているが、毎日運航できるわけではない。そこで、これまでは漁業者に協力を仰ぎ、紙の調査票へ漁場位置や魚種ごとの漁獲量を記入してもらう形でデータを収集していた。

 ただし、こうしたデータ収集の仕組みでは精度に欠けるうえ、あくまでも自己申告の情報なので信頼度も低い。さらに近年では、国の資源管理対象となっている魚種を数十種類から200種類程度まで拡大するという議論もあり、紙の調査票による記入/集計では追いつかなくなる懸念もある。

 「より精度の高い研究データをリアルタイムに収集しつつ、協力してくれる漁業者さんたちにもメリットをもたらしたい。そこで、GPSデータロガーが活用されることになりました」(小平氏)

 これは漁船を“海上のセンサー”として活用するアプローチだ。RealMC-02を漁船に設置し、GPS装置や魚群探知機、海水温や潮流などのセンサーと接続すれば、海上の正確な位置情報と合わせて魚群や海底地形、潮流、水深、水温といったデータが自動で記録できる。 さらに漁獲量データは、タブレットやテンキーから入力が可能だ。記録された各種データは、LTE回線を通じてまとめてクラウドに送信される。

RealMC-02を使うことで多様な“海のデータ”を自動で取得できる(パンフレットより)

 これにより、国や自治体、研究機関側は従来よりも精度が高くリアルタイムなデータが収集できるようになった。また漁業者の側も、操業が終わった後で自船のログを見ながら漁の振り返りができる。好漁場を見つけた場合は、海水温や潮流といったその周辺環境データを詳しく知ることも可能だ。

 「漁業者側も、水産資源や漁業の未来に危機感を持つようになっています。かつては『良い漁場の情報は他人に教えたくない』という意識も強かったのですが、最近では『こういう仕組みが必要だ』とご協力いただけるケースが増えました。“勘と経験”の時代から、漁業を次世代につなぐための新たな方法を模索されています」(小平氏)

最近ではデータを活用した“スマート漁業”に取り組む漁業者も増えているという

全国の漁船に導入されるデバイスをリモートメンテナンスするために

 旧版製品も含め、環境シミュレーション研究所では、このGPSデータロガーを10年近く開発、販売してきた。現在のRealMC-02は、この5年ほど提供してきたモデルだ。現地でのデバイス設置やメンテンナンスには製品開発を担当する山口氏が出向き、現地業者の協力を得ながら作業を進める。山口氏のスケジュールが空いていない場合は、小平氏が出張することもある。

 現在このデバイスが導入されている地域は東北、北陸、山陰、四国、九州などで、これまで最も遠かった出張先はそれぞれ「宮古島」(山口氏)、「与那国島」(小平氏)だという。最初の設置時はともかく、継続的なメンテナンス作業のたびに遠方へ出張するのでは、時間もコストもかかりすぎてしまう。

 「現地出張に行くとなると、1週間ほど前から現地作業の準備を始め、なおかつ前日/当日/翌日の3日間ほどが確実につぶれてしまいます」(山口氏)

 漁船が海に出ていないタイミングで作業する必要があるので、漁業者とのスケジュール調整も大変だ。「漁業者さんにとっては、むしろ漁に出られない荒天の日のほうが都合がいい。『嵐だから来い!』と言われたこともありますね(笑)」(小平氏)。

 こうした課題を解消するため、RealMC-02では従来からリモート管理機能の組み込みを模索してきた。たとえばソフトウェアアップデートは、センター側にアップデータ(スクリプト)を配置しておくと、RealMC-02がログデータを送信する際にそれを検出して、自動ダウンロード/更新する仕組みを備えている。

 しかし、リモートから個々のデバイスに接続して設定変更や稼働状況の監視を行うのには、あまり良い手段がなかったという。開発初期にはSSHを使うことを考えたが、LTE接続のためIPアドレスがひんぱんに変わるうえ、SSHポートを開放したテスト機をインターネット接続しておいたところ数日で攻撃者に侵入されてしまったため、使うのをやめた。

 「リモートアクセス機能を自社で作り込むこともできなくはないのですが、そこに工数やコストをかけるならば、むしろ製品本体の改良に使いたい。また、自社で開発するとセキュリティの懸念がつきまとってしまう。“餅は餅屋”だと考え、昨年あたりから何か良いツールが提供されていないかと、ずっと探していました」(小平氏)

 そんなとき、偶然読んだニュースサイトの記事でTeamViewer IoTを知り、すぐにTeamViewerに問い合わせて検証を開始。検証結果も良好だったため、採用に踏み切った。

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