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最新ユーザー事例探求第46回

Salesforce+Boxが中核の研究者支援システム、研究効率向上と経営視点の「強み」把握

東京理科大が国際競争力向上に向け構築した「VRE」の狙い

2017年07月12日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 東京理科大学では、およそ2年前に教員/学内研究者向けの新たな情報システム「Virtual Research Environment(VRE)」を構築した。同大学 学術情報システム部 情報システム課 課長の松田大氏は、「世界で認められる研究力を持ったグローバルな大学の実現」という中長期的な目標に向けて、IT環境をブラッシュアップする必要があったと語る。

 このVREは、「Salesforce」や「Box」などのクラウドサービスを統合したシングルサインオン(SSO)環境であり、教員の研究活動や教育活動で必要となるあらゆる情報を統合することを目的としている。今回は松田氏と、同課の積田薫氏に、その背景や狙い、実際のシステム構成などについて聞いた。

東京理科大学 学術情報システム部 情報システム課(神楽坂)課長の松田大氏、同課の積田薫氏

「世界の理科大」目指し、研究者支援や「強み」の分析に取り組む

 現在、国内の大学には、学生人口減少(少子化)への対応だけでなく、研究機関としてのグローバル競争力向上も強く求められている。そうした環境下で、東京理科大では「日本の理科大から、世界の理科大へ。」というスローガンを掲げ、IT環境の変革によるマネジメントの効率化に取り組んでいる。たとえば2013年度からは、「Microsoft Office 365」の採用、財務/会計/人事システムの更新、電子決裁システムの導入などのIT変革を行ってきた。

 本稿で紹介するVREも、そうした中長期ビジョンに基づく改革の一環と位置づけられる。松田氏は、情報システム部門の観点から、VRE構築においては「グローバルな研究コラボレーション環境の構築」と「(IT領域における)グローバルベストプラクティスの取り込み」という2つが大きなコンセプトだったと説明する。

VRE構築に至った背景(出典:東京理科大学、以下同様)。グローバル競争力向上のために、海外大学との連携や研究効率向上を実現するIT環境が求められた

 VREが目標としたのは、「研究業績の集約」「研究費の予実把握」「SNSによる部門/分野の枠を超えたコミュニケーション」「容量無制限のクラウド型ファイル共有」という4つの機能を備えた、教員(学内研究者)向けポータルの構築だ。松田氏は、同大学の教員が「研究に関することならばVREに行けばすべてわかる」と考えるようなものにしたかった、と語る。

VREの主要機能と利用イメージ。既存システムとも連携しながら、学内で行われている研究活動に関する情報を集約したポータルを目指した

 それまで東京理科大では、研究業績を集約してWeb公開するデータベース(「RIDAI」DB)こそあったものの、研究をサポートする仕組みとしては「ネットワーク環境だけで、ツールは特にない」(松田氏)状況だったという。そのため、研究に関する情報は各教員の手元などに散在しており、また部門を超えたコラボレーションを促すようなコミュニケーション環境でもなかった。

 たとえば教員自身は、自身が持つ研究予算は知っているものの、その使用状況(予算の残額)をリアルタイムに把握するすべはなかった。また、コミュニケーション環境としては、個々の研究室で独自にNASを導入したりサーバーを立てたりといった具合で、部門や領域を超えたコミュニケーションは主にメールに頼っていた。

 こうした貧弱なコミュニケーション/コラボレーション環境については、教員と共同研究を行う企業からも不満の声が上がっていたという。共同研究や受託研究を進めるうえでは慎重な取り扱いが必要なデータを共有することもあるが、たとえば教員からそうしたデータをCD-Rで渡されてしまい、メディア受け取りや廃棄の煩瑣な手続きが発生する、といったことも起きていたという。

大学における研究活動の模式図。ひとりの教員(中央)は複数の研究グループに属し、コラボレーションで研究を進める。大学は研究管理、研究費管理などのサポートを行うほか、公募研究に関する情報提供を行う

 他方で「私立大学(私学)の経営」という視点からも課題があった。大学としてグローバル競争力を向上させていくためには、公的/民間の公募研究への応募状況や外部研究費(外部資金)の獲得状況、各研究プロジェクトの進捗状況、特許の出願状況などをリアルタイムに知り、外部へのアピールポイントとなる「強み」を把握する必要がある。しかし、従来の環境では、研究の進捗状況などは教員自身しか知らず、経営層から大学全体の研究状況を把握することが困難だった。

 「さまざまな研究業績は、大学の持つ知財(知的財産)であると同時に、社会に還元していくべきものでもあります。そういう意味でも、各先生の手元にバラバラに散在している状況は問題がありました。そこで、これを一元化、集約する必要があると考えたわけです」(松田氏)

Salesforceベースで研究進捗や外部資金の獲得状況を可視化

 こうして、各方面にわたる課題を解消するために、東京理科大では研究情報ハブとしてVREを設けることになった。

 前述したとおり、VREでは「研究業績の集約」「研究費の予実把握」「SNSによる部門/分野の枠を超えたコミュニケーション」「容量無制限のクラウド型ファイル共有」という4つの機能を提供する。大きく分ければ、個々の教員が行う研究ステータスの統合管理環境(前者2つ)と、学内外のコラボレーションを活性化する柔軟なコミュニケーション環境(後者2つ)となる。

 まず、研究ステータスの統合管理においては、Salesforceベースでダッシュボード化が図られた。これにより経営層が研究業績、たとえば各教員の公募研究への応募状況や大学全体の外部資金の獲得状況などを、グラフを通じて一目で把握できるようになった。なお、従来から運用してきた研究者業績データベースはそのまま残しているが、このデータベースに登録された情報もVREから閲覧可能になっている。

 「VREで、研究の進捗状況や特許の出願状況などを把握できるようにしたいと考えました。研究予算に関する情報も同様です。Salesforce(プラットフォーム)はダッシュボード化、グラフ化が得意なので、こうした目的に適しています」(松田氏)

VREの「外部資金状況」画面。公的研究費(科研費など)と民間研究費(企業との共同研究や受託研究など)に分かれている

 またVREでは、公募研究の情報を集約して、各教員向けに提供するページも用意されている。キーワードや公募先の種類などで検索も可能になっており、積極的な応募を促す仕組みだ。積田氏は、VREポータルに掲載された情報はダイジェストメールとして各教員に送信されるようになっており、そのメールをチェックしている教員も多いと語る。

 「積極的に公募研究に応募し、外部資金を獲得していただかないと研究はできません。その(積極的な応募の)実現のために、こうした機能を盛り込んであります」(積田氏)

VREの「研究費等公募情報」画面。公募情報を集約して教員に提供している

 なお研究費の予実把握機能については、外部の財務管理システムの入れ替えなどがあった影響で、現在は連携をストップしているという。

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