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最新ユーザー事例探求 第52回

当初からインターネットのみ、今年は運営効率化にFileMaker CloudやiPhoneも採用。事務局担当者に背景を聞く

IT活用の「コンパクトな大会運営」20周年、宮崎シーガイアトライアスロン

2018年10月10日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 今年7月に宮崎市で開催された「第20回宮崎シーガイアトライアスロン大会2018」。20周年の節目となる今年の大会には、宮崎県内だけでなく全国からおよそ1000人のアスリートがエントリーし、スイム、バイク、ランによる熱いレースを繰り広げた。

7月8日に開催された「第20回宮崎シーガイアトライアスロン大会2018」(写真提供:ファイルメーカー、以下同様)

 同大会の実行委員会は、20年前のスタート当初からITやインターネットを活用した「スマートでコンパクトな大会運営」を目指し、実践してきた。現在ではエントリー管理や、大会前日/当日に複数回行う現地受付、レース中の選手の状況把握などに「FileMaker」プラットフォームで構築したシステムとiPhone/iPadデバイスをフル活用している。今年の大会では、昨年から国内提供が始まった「FileMaker Cloud」も取り入れた。

大会運営にFileMakerで開発したカスタムアプリやiPhone/iPadを活用している

 今回は同大会の運営に携わる大会実行委員会事務局の徳留功一氏と、大会運営システムをFileMakerで開発したスプラッシュ 代表取締役の蜷川晋氏に、トライアスロン大会運営の裏側やITを積極的に取り入れる理由、FileMakerベースで構築されたシステムの具体的な機能や活用シーンを聞いた。

宮崎シーガイアトライアスロン大会実行委員会事務局の徳留功一氏

大会運営システムの構築を手がけたスプラッシュ 代表取締役の蜷川晋氏

「コンパクトな大会運営」目指し、20年前からインターネットとITを活用

 1998年から毎年開催されている宮崎シーガイアトライアスロン大会。2012年からは、それまでのショートディスタンス部門に加えてオリンピックディスタンス部門(スイム1.5km+バイク40km+ラン10km)も始まり参加選手が増加、現在では「九州でもいちばん人気の大会になった」と徳留氏は語る。全国的にも知名度があり、今年は関東など県外からのエントリーが7割を占めたという。

 「宮崎県トライアスロン連合が中心となり、さまざまな地元企業や地元組織が参画して実行委員会を構成しています。大会当日は500、600人ほどの高校生ボランティアも参加しており、彼ら彼女らが沿道から熱い声援を送ってくれるのも、この大会の魅力になっていますね」(徳留氏)

 ちなみに今年のボランティア参加者は高校生、大学生、一般を合計しておよそ630人だったという。

宮崎シーガイアトライアスロン大会は今年で20周年を迎えた(画面は公式サイト)

 そんな同大会の大会運営では、第1回目の開催からITやインターネットの活用に力を入れてきたという。1998年と言えば、ちょうどインターネットの利用環境が日本の家庭にも普及し始めたころだ。

 「20年前から『少人数でコンパクトに、システマチックに大会運営をすること』ことをテーマにしてきました。われわれは1回目の大会から、告知ポスターやチラシ、参加申込書といった“紙”は一切作っていません。告知も参加エントリーも、インターネットですべて完結させています」(徳留氏)

 1998年当時、ほかのトライアスロン大会ではまだ「アナログな」運営方法が取られていたと徳留氏は振り返る。大会参加選手は事前に健康診断を受け、その診断書を参加申込書やエントリー料などと一緒に現金書留封筒に入れて大会事務局に郵送する。受け取った事務局はそれを手作業でまとめ、管理する――そういうやり方だ。一斉に数百人、数千人がエントリーするのだから、事務局の作業はかなり大変なものになる。

 そもそも全国で開催されているこうした地域主体のスポーツイベントは、人員の面でも運営資金の面でもそれほど余裕がないのが実情だと徳留氏は明かす。安全面など大会の根幹にかかわる部分はしっかりと守りつつ、それ以外の部分ではできるだけ効率化していかなければ、長期的に開催を維持するのは難しい。

 そこで宮崎シーガイアトライアスロンでは、エントリー受付はWebサイトで行い、エントリー料はコンビニエンスストアやクレジットカードで決済する方式をとった。大会事務局は、そこで取得したデータを取り込んでエントリー選手の管理や参加通知証の発送などに使う。「今でこそこうした方法が一般的になりましたが、当時はかなり先進的だったと思います」と徳留氏は語る。

FileMakerのカスタムアプリを開発、大会当日の受付業務を効率化

 それから20年間、同大会では毎年試行錯誤を重ねながらIT活用をグレードアップしてきた。5年前の2013年大会からは、大会前日/当日の受付業務や運営状況の監視にFileMakerで構築したシステムを導入している。

 「FileMakerを導入するまでは、われわれも当日受付を紙ベースで行っていました。全参加者のリストを五十音順で印刷しておき、受付が済んだら鉛筆でチェックしてゼッケンを渡す、そういう煩雑な作業をやっていたわけです。アナログなやり方なので時間がかかり、10人以上のボランティアを割り当てても受付待ちの長い行列が出来てしまうので、なんとか解決したいと考えていました」(徳留氏)

 受付業務は最初の総合受付だけでなく、選手説明会(後述)や前夜祭のウェルカムパーティー、当日の大会会場でも行う。およそ1000人の参加選手が合計4回も行う受付処理をどう効率化するのか、これがひとつの課題だった。

 これに加えて、トライアスロンという競技ならではの特殊な事情を背景とした課題もあったという。

 「トライアスロン大会は、生命にかかわる危険もあるスポーツイベントです。そのため参加選手には、大会前日に何度か開催する『選手説明会』への出席を義務づけています。最初に総合受付を済ませてからでないと選手説明会に出席できないルールなのですが、総合受付と選手説明会の受付は別の場所で並行して行いますから、紙ベースで管理するかぎりそのチェックができません。これも悩みでした」(徳留氏)

 これをシステム化し、運営スタッフ間でリアルタイムに情報共有できるようにしようと徳留氏が思い立ったのが2013年だった。「ほかの仕事でFileMakerを使っており、その良さはわかっていた」(徳留氏)ため、FileMakerでシステム開発のできる会社を探し、出会ったのが東京のスプラッシュだった。スプラッシュの蜷川氏は、徳留氏から「大会受付を迅速に、誰でもできるようなシステムが作れないか」と相談を受けたことを覚えていると語る。

 相談した時点で徳留氏がイメージしていたのは、PCに取り付けたバーコードリーダーで選手参加証を読み取り、データベースと照合/記録するような受付システムだった。ここで蜷川氏は、受付端末としてPCではなくiPhoneを利用することを提案した。FileMakerは標準機能で二次元バーコードの読み取りに対応しており、モバイルデバイス用の「FileMaker Go」を使えばiPhoneの内蔵カメラで簡単にスキャンできる。クラウドにホストしたFileMaker Serverに接続して使うかたちならば、屋外を含め複数の場所で、複数のスタッフが並行して受付を行ううえでも便利だろう。

 徳留氏からシステム要件を聞き取りながら、スプラッシュではカスタムアプリの開発を進めていった。「すべて標準機能を使って開発したので、2週間くらいで出来たと記憶しています」と蜷川氏は語る。

 現在は、毎年4月下旬にWebでの参加エントリーを締め切ったあと、大会事務局が各選手のCSVデータにエントリー番号を付番したうえでスプラッシュに渡し、スプラッシュがFileMakerのカスタムアプリに取り込む。このアプリ(ランタイム版)は事務局に渡され、事務局のPCで大会開催までの管理業務に利用される。選手データの閲覧や修正といった機能だけでなく、二次元バーコード入りの参加通知証や封筒の印刷機能も備えている。

大会事務局が利用するカスタムアプリ。各参加選手のデータをここに集約しており、参加通知証や封筒の印刷機能も備える(画面はダミーデータ)

 また、大会当日にはこのカスタムアプリをFileMaker Serverでホスティングし、インターネット経由で活用している。前述したとおりFileMaker Goを使い、二次元バーコードをスキャンするだけで処理できる仕組みにした結果、これまで10人以上で対応しても行列が出来ていた受付業務が、わずか2人のボランティアで余裕を持って対応できるようになった。

iPhoneからアクセスすると受付用アプリを表示。受付担当者は内蔵カメラでバーコードをスキャンするだけで処理ができる。ちなみに選手は紙の参加証でなく、二次元バーコード部分を撮影したスマートフォン画像を見せるだけでもOK

 このカスタムアプリには、iPadで受付の進捗状況をダッシュボード表示したり、選手のリタイア情報を登録したりする大会事務局向けの機能も備えている。

 「大会事務局では『今年は受付がスムーズに進んでいるね』『説明会も参加の出だしは順調だね』といった具合に、iPadを見ながら大会の状況確認をしています。また、安全な大会運営のためには、リタイアした選手の人数をきちんと把握する必要があります。リタイア選手が出た場合には、無線連絡を受けた大会本部がすぐにそれを登録し、メディカルスタッフやレースタイムの計測会社も含めてリアルタイムに情報共有できる仕組みにしています」(徳留氏)

iPadからは受付状況のダッシュボードも確認できる

選手がリタイアした場合は即座に情報を共有する

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