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いよいよ始まる日本のIaaS-2010年版- 第3回

従量課金やオンデマンド性はユーザーのため

ネットビジネス事業者への老婆心が産んだニフティクラウド

2010年07月20日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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国内のクラウドサービスの先鞭を切った「ニフティクラウド」は、ISPのインフラをユーザーに貸し出すという意味では本場米国の事業者っぽいクラウドサービスといえる。ニフティの執行役員IT統括本部長 マーケティング・アーキテクト部長 林一司氏にサービス誕生の経緯と他社との差別化ポイントについて聞いた。

スモールスタートではじめたい気持ちは痛いほどわかる

ニフティ 執行役員IT統括本部長 マーケティング・アーキテクト部長 林一司氏

 今年の1月に発表されたニフティクラウドはVMware Sphereによる仮想化環境をベースに、ユーザーに対して仮想サーバーを提供するいわゆるIaaS(Infrastracture as a Service)である。当初、4パターンのサーバータイプのみだったが、4月にサービスが拡充され、1GHz CPU×1・512MBメモリの「mini」から3GHz CPU×4・16GBメモリの「large16」まで全部で10のサーバータイプから選択できる。OSに関しては、CentOS 5.3(32/64ビット)、Redhat 5.x(32/64ビット)、Windows Server 2008 SE/EE(64ビットのみ)をサポートしており、ディスク容量も30GBをスタートに自由に選択することができる。気になる月額料金はminiで7875円/月。large16でも9万1927.5円/月に収まる。

 通信事業者でも、データセンター専業でもないニフティが、こうしたサービスを企画したのは、サービス開始の1年前にさかのぼる。「この数年で自分たちがISP事業で利用してきたインフラを可能な限り仮想化してきました。現在、全体の95%にあたる160近いサービスがVMwareの仮想サーバーで動いています。当然、こうなるとリソースにも余裕ができますし、仮想化環境の運用ノウハウも蓄積されてきたので、外販した方がいいんじゃないかという話になったんです」(林氏)とのこと。ISPならではのスケールを活かし、インフラの余剰リソースを外販するという米国のAmazonやGoogleのようなスタートだったわけだ。そして、企画が立ち上がり、ほぼ1年でユーザーが使いやすいコントロールパネルを開発し、マニュアルやサポートメニューを作り、サービスとしてスタートしたという経緯である。

 クラウドの定義はまだ難しいが、通常のホスティングサービスに比べて、オンデマンド性が高いのはニフティクラウドの特徴。1時間12.6円という従量課金をサポートしているので、必要な時間だけ処理能力を上げるといった使い方ができる。「ベースの部分を月額サービスで押さえておいて、処理能力が増える分を見越して従量課金でリソースをキープすることが可能です」(林氏)。また、いったん契約を済ませてしまえば、サーバーの準備、スペック変更、HDDの追加・削除も約5分でできるというのもクラウドっぽい。

 こうした特徴は、ビジネスをスモールスタートさせてコストを下げたいオンラインゲームやケータイSNSの事業者に非常にアピールしているようだ。「私たちもISPとしていろんなサービスを立ち上げているだけに、低コストではじめたいという気持ちは痛いほどわかるんです。オンデマンド性にこだわったのも提供者=ユーザーという立場だからです」とのことで、ニフティ自体がこのクラウドのユーザーであるという点が大きい。開始4カ月からすでに200社を超えるユーザーを獲得しており、前述したオンラインゲームやケータイSNSの事業者の顧客が多いのもうなづける。

インフラはISPならではの安心感

 ニフティクラウドのインフラは、親会社である富士通のデータセンターで運用されている。データセンターは耐震強度の高い設備を用いており、24時間365日の監視体制、強固なセキュリティを実現。とはいえ、「よく聞かれますが、全部富士通のサーバーというわけではないんです」ということで、コストパフォーマンスを考え、最適な製品をチョイスしているという。

 こうしたインフラをベースに、物理サーバーの故障時でも自動的に他のサーバーに引き継がれるHA(High Availabirity)の標準搭載やシステムの完全冗長化、ピーク時にリソースを融通する高負荷対策などが施されており、クラウド導入に関して懸念されている信頼性の問題もクリアされている。もちろん、海外の事業者のサービスと比較し、低遅延でのサービスが可能な国内にデータセンターがあるという安心感も大きい。単にISPが副業でインフラを間貸ししているのではなく、商用ISPの高品質なインフラをサービスとして提供しているというイメージに近い。コントロールパネルも海外の事業者と異なり、きっちり日本語化されたメニューを用意している。

ニフティクラウドのコントロールパネル

レイヤだけにこだわってもしょうがない

 現状、ニフティクラウドはIaaSとして提供しており、今後は他社に競合すべくサービスの強化を粛々と進めるという。4月にはロードバランサーが提供されたが、今後やファイアウォール、VPNなどの追加も予定。VMイメージの持ち込みやバックアップ・リカバリー、オートスケールなどにも対応していく計画になっている。

 さらに将来的にはインフラ面での価格競争を見越して、PaaSやSaaSなどの領域もカバーしていくが、「正直、レイヤだけにこだわってもしょうがないと思っています。お客様がなにを必要か? 提供できるものはなにかを考えると、必ずしもPaaSやSaaSではないかもしれない。お客様はサーバー管理ではなく、ビジネスをやりたいわけですから」とのこと。ネットビジネスを展開するユーザーの多い現状では、コマースや会員制サービスなどの運営にあたって、ISPとして培ってきたノウハウのほうがむしろビジネスになるかもしれないと話す。ISPならではの、今後のサービス展開に期待したいところだ。

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