中国発の新規格はいつも失速ぎみ
普及すればケーブル代も安そうだし、面白そうな規格になりそうだが、果たしてうまくいくのだろうか。
今までの中国における新規格・新コンセプトの製品は、発表時こそ華々しいが、発表後は発表時の自信・勢いが嘘のように失速するパターンがほとんどだ。たとえば「北京宣言」と呼ばれる「EVD陣営の企業は2008年内にDVDを停産」というEVDのテコ入れ発表では、中国国内はおろか日本などの海外メディアも注目し報道したが、実際に家電量販店店内では1台展示機があればよく、新タイトルの販売もないといった状況で、まったく消費者の目を向けさせることはできなかった。
一番成功した新規格は、北京五輪前にスタートしたTD-SCDMAで、こちらは唯一のTD-SCDMAのキャリアである中国移動(チャイナモバイル)の数字によれば、8月末の時点で132万7000人が利用しているという。これは実質無料のデータカードのバラマキと、市内のあらゆる場所でお目にかかるそのプロモーションが原因だろう。すなわち、最も成功したパターンも初年度で100万人が関の山だ。
もちろん腰を据えてこそ新規格は熟し、対応製品が多数登場するのだが、次々と新規格を出す傾向にある中国(企業)が、十年以上のスパンで腰を落ち着けてDiiVA普及を目指せるだろうか。
すでにDiiVAのHDMI抜きというのだろうか、中国版DLNAの「IGRS(閃聯)(関連記事4)」が登場し、対応テレビ向けのウェブコンテンツを制作済みだ。このDiiVAはIGRSとも中国国内でバッティングするのだが、中国国内での新規格でバッティングが起きた場合、今のところすべていがみ合っている。DiiVAのメンバーは(中国では)豪華だが、IGRSにもレノボがいるので一筋縄ではいきそうにない。
「創維」「長虹」「ハイアール」「TCL」などEVD陣営にいた中国電機メーカーの多くがDiiVAのメンバー企業となっているが、前述の「EVD陣営の企業は2008年内にDVDを停産」を守らず、未だにEVDプレーヤーを売らずDVDプレーヤーを販売するメーカーも、創維や長虹をはじめとして少なくない。ハイアールはEVDは販売せず、EVDのライバル(と自称する)ブルーレイプレーヤーを販売している。現状どのメーカーもHDMIをつけたテレビを販売しているが、どれだけのメーカーが様子見せずにDiiVAを搭載した製品を投入してくるか。
DiiVAで何をつなぐのか?
HDMIはプレーヤー・レコーダー類やゲーム機とテレビを繋いでいるが、DVDが圧倒的に普及しDVDの後釜が育たない状況で、ゲーム機は海外からの非正規輸入が基本。中国国内でのゲーム機正式販売は、海賊版問題と中国国内の法律から見込みも立っていない。いったい、テレビと何を繋ぐのだろうか。PCとテレビを繋げるだけならそれこそIGRSで十分だ。NVIDIAやATIなどにDiiVA対応のカードを作らせる以上に、PCシェアナンバー1のレノボのPCにDiiVAコネクタを載せることは難しいだろう。
コンテンツ面でいえば、オフィシャルサイトではテレビで「Facebook」が見られることを例に出しているが、中国からFacebookのページにはそもそもアクセスできない。テレビをネットに繋いで動画コンテンツといっても、最近になって政府がこれについての法律を制定したばかり(関連記事5))。
すなわちDiiVAを繋ぎたくなる魅力が今後も十分とは言えない状況で、果たして中国の消費者はDiiVA端子搭載のテレビに食指が動くのだろうか。中国で売れなければ、中国といえど大きな市場ではないわけで、中国国外メーカーもDiiVAには消極的になろう。「売れない以前に、そもそもメーカーはそんなに売らないのでは」という予測を、いい意味で裏切る結果となるか。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)
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