データセンターの二重化でさらなる可用性を目指す
こうしたFXプライムがさらなる可用性の向上のために検討したのが、データセンターの二重化。きっかけは2006年に都内で起こった大規模な停電だ。「クレーンが送電線を引っかけて、データセンターのある地域も完全に停電に陥りました。もちろん、CTC のデータセンターは自家発電装置があったので問題はなかったのですが、もしも……を考えるとやはりデータセンター自体の冗長化もやらなければならないな、と考えました」(中林氏)とのことで、2007年からデータセンター強化への具体的な検討に入ったという。
その結果、同社が目指したのが2つのデータセンターをアクティブで動作させる「ダブルデータセンター」という発想だ。メインサイトとDR(Disaster Recovery)サイトを両方とも稼働させ、データベースをリアルタイムにミラーリングするという仕組みを用いる。「1〜2分の切り替え時間で市場が一気に変わってしまうこともあります。サイトの切り替えも極力短くし、取引を守る必要がありました」(中林氏)とのことだ。これを実現するために導入されたのが、サイト間での負荷分散を実現するBIG-IP Global Traffic Manager(以下、BIG-IP GTM)である。
BIG-IP GTMは複数のデータセンターを1 つのドメイン名でまとめることが可能で、アプリケーションとネットワークの状態に応じて、最適なサイトにユーザーを振り分ける。振り分けに際しては、RTTや帯域、トポロジなどを統合したQoSモードやネットワークやサーバーのリソースに応じた動的比率モードのほか、数多くのメトリックを選択できる。プログラミング言語「iRules」によるトラフィック制御、IPv6や携帯電話へのいち早い対応も大きな特徴である。
今回、FXプライムはBIG-IP LTMでの実績を踏まえ、データセンター間での負荷分散でも、迷わずBIG-IP GTMを選定した。急増している携帯電話でのトラフィック制御やSSL処理能力の高さなども評価されたポイントだ。
BIG-IP GTM導入の結果、FXプライムではデータセンターの振り分けにBIG-IP GTM、サーバーの振り分けにBIG-IP LTMを使うという構成になっている。技術面にかかわったシステム技術課長の阿部 光氏は、「基本的には両方ともアクティブ−アクティブなので切り替えるという発想がありませんでしたが、BIG-IP LTMと同等時間でフェイルオーバーされるように要件定義しました」と述べる。この結果、データセンターの障害が起こった場合でも、30秒以内に完全に処理を切り替える設計になっている。
導入に関しては、2008年の末からDRサイトの構築を開始し、2009年5月には第1期の移行が完了。ミドルウェアの改修程度で完了し、サービスに影響を与えずに、作業を進められたという。
100年に1度といわれる金融危機にも耐えうる
2 ~ 3 倍のキャパシティを確保
FXプライムのデータセンターでは、全体で50台以上の物理・仮想サーバーがあり、情報提供用と取引用のサーバー、さらにASP用のサーバーが用意されており、冗長化されたBIG-IP LTMがリクエストを各サーバーに振り分ける。
データセンターが2つになり、しかも両方アクティブで運用しているため、キャパシティも増大した。金融機関として安全性の高いシステム設計を目指していることもあり、現在のトラフィックの2〜3倍程度は十分さばけるという。
もちろん、レスポンスも良好だ。たとえば、Webブラウザや携帯電話用取引サイトのほか、同社は「PrimeNavigator」というFX取引専用クライアントを提供している。PrimeNavigator は、「マーケットの鼓動が聞こえる 新しい臨場感がFX取引を変える」という謳い文句のとおり、Webブラウザに比べてリッチで操作性の高いFX 取引環境を提供するもの。リアルタイムでスピーディーな売買やマーケット表示を実現するため、バックエンドでは非常に大量のショートパケットが飛んでいるが、こうしたトラフィックの処理も問題なくさばいている。
中林氏は「リーマンショック以降の市場では、短い期間で相場が一気に上げ下げすることが多々あります。100 年に一度といわれる不安定な金融市場のなかでも、安心した取引環境を提供でき、お客様より大きく信頼していただくことができました」とBIG-IP GTMによるデータセンター二重化の効果を語った。同社はさらに北海道にもサイトを持っており、重要情報をバックアップしているという。FX業界でも最高レベルの信頼性を実現したシステムといえるだろう。
よい意味で意識しないBIG-IP の存在
中林氏は「トラブルもなく、よい意味でBIG-IP の存在を意識しないで済んでいます。インフラ部分をCTCにおまかせし、われわれはお客様の利便性を追求したオリジナルアプリの開発やIPv6対応など次のプロジェクトに注力できます」とのことで、安定したインフラをベースに質の高いサービス提供にチャレンジを続けていくとのことだ。
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