ドルビーの目指すものは「どこでもサラウンド」
ドルビーバーチャルスピーカーや、ヘッドフォン向けの「ドルビーヘッドフォン」は優れた技術だが、決して実際に5本のスピーカーと1本のサブウーファーを使ったサラウンド再生が不要になるものではない。これは実際にホームシアターを体験している人ならわかると思うが、いかに高精度な処理を行なっても、実際に後方からの音がスピーカーから出るのとはそれなりの違いがある。
あくまでも一般的なステレオ再生と、敷居の高い5.1chサラウンド再生の間を埋めるために生まれた技術だ。自分の仕事を否定するようで情けないが、テレビのスピーカーで映画を見ている人にどれだけ言葉を重ねても、サラウンドの魅力や臨場感を伝えることは本当に難しい。
ドルビーバーチャルなら、仮想的にでも後方から音が聴こえることの面白さを伝えることができるのだ。だから、ドルビーバーチャルでサラウンドの臨場感が面白いと感じた人は、ぜひともAVショップの視聴ルームなどで本格的なサラウンドも体験してみてほしい。部屋が狭くなるとか、ケーブルを引き回すのが見苦しいなどの問題が霧散するほどの興奮を味わえるはずだ。
こうした試みはホームシアター機器に限った話ではない。最近のAV機能を持つパソコンで見かける「ドルビーホームシアター」などがそれだ。これは、ドルビーバーチャルやドルビーヘッドフォンなどのドルビー社の音響技術をまとめたパーソナルコンピューター向けの技術。サラウンド技術だけでなく、ノートパソコンの小さなスピーカーでより迫力ある音声を再生する技術も含まれる。
さらには、シャープなどの携帯電話で採用される「ドルビーモバイル」は、これらのポータブルオーディオ版。ここ最近のシャープ系携帯電話を使っている人なら、電源投入時にロゴが表示されるので確かめてみるといい。
これはまさに「どこでもサラウンド」。今やノートパソコンやポータブル機器で音楽はもちろん、映画を楽しむ人を普通に見かけるが、サラウンドもまたどこでも当たり前に楽しめるべきだとドルビーは考えている。
かつて、「スター・ウォーズ」を製作したジョージ・ルーカスは「映画の半分は音だ」と言い、今や日本映画でもサウンドデザインを依頼することが多いスカイウォーカースタジオのエンジニア、ランディ・トムは「映画は映像メディアではない。優れた映像と音声の総合芸術だ」と言ったが、まさにそれを体現し、どこでも、さまざまな機器で最新の映画を楽しめるようにしているのがドルビーなのだ。
もはやドルビーは音だけのブランドではない!? ドルビーの映像技術にも注目
ドルビーは「音」のメーカーだと思ってしまいがちだが、実はドルビー社は映像の分野にも進出している。研究開発では、視覚メカニズム研究や画像符号化技術などにも取り組んでいるが、目立つところでは最近国内でも上映が増えている「3D映画」で「ドルビー3Dデジタルシネマ」という技術が採用されている。
国内映画館では「REAL-D」という別の方式もあるが、ドルビー3Dデジタルシネマでは、分光フィルターと専用のメガネを使用した分光方式を採用していることが特徴。昔流行した赤と緑のフィルムを貼ったメガネを使う立体映画で顕著だが、3D映画は目に負担が大きいと言われる。「ドルビー3D」の分光方式は目の負担が少なく、疲れにくいとされる。また、通常使われるホワイトスクリーンを使用できるので、3D上映専用のスクリーンを用意するコスト負担がないこともメリットとされている。
3D映画は、BDソフトでの実用化も進められるなど、次世代の映画の楽しみとして期待されている。個人的には従来だと音が前後に移動しても映像はそのままだったが、3Dなら映像が音と一緒に飛び出してくるため、絵と音の一致感が高まることが面白いと感じた。なにより、遊園地のアトラクションのようで、見ていて楽しい。今年は昨年までに比べて上映タイトルも増えてきているので、ぜひとも一度3D映画も体験してみてほしい。