以前、ドルビーのオーディオ技術について解説したが(関連記事)、今回はDTS社のオーディオ技術を紹介する。すでに触れているように、DTSは映画のサラウンド方式などの分野でドルビー社のライバル的な存在だ。
DTS(Digital Theater System。現在の米国本社名はDTS,Inc.)の設立は1990年。APT-X100というデジタル音声圧縮技術により、原音の約1/4という低い圧縮率で圧縮された音声を開発し、映画の音をフィルムではなくCD-ROMに収録し供給することで、より高音質なデジタルサラウンドを実現した。
最初の作品はスティーブン・スピルバーグ監督の「ジュラシック・パーク」(1993年)。ビッグタイトルで導入することで、フィルム上に記録されたタイムコードと同期して動くDTSオリジナル、シネマプレーヤーの普及、しいてはDTSを促進することが狙いだったようだ。
AVファンの間では、他社のサラウンド方式よりもDTSの方が高音質であると評判で、DVDではオプション規格として採用されたものの、コレクターズ向けのスペシャル版などに収録されることも多く、その評判を高めていった。
他社のコーデックとの大きな差は、ユーザーの目に付く部分では最大1.5Mbps(ドルビーデジタルは640kbps)の高転送レートである点。
転送レートが高いほど情報量が多く、より音質がよいとわかるが、それだけではなかった。多くの音声圧縮では、圧縮の際に聴覚心理を元に、より大きな音にマスキングされ聴こえにくくなる音を間引く技術を使っているが、DTSではそれを極力使わないようにしている。高転送レートと合わせ、なるべく情報のロスを抑えることを追求した方式で、同社ではこれを「ニアロスレス」と呼んでいる。
2000年には、後方にサラウンドバックチャンネルを追加した6.1chの「DTS-ES」が「グラディエーター」で採用される。ドルビーデジタルサラウンドEXがサラウンドバック音声をサラウンド音声に重ねて記録するマトリックス記録のみを採用したのに対し、DTS-ESでは6.1chの信号が独立したディスクリート記録をDVD Videoで唯一可能とした。(マトリックス6.1chで記録された作品もある)。
CD-ROMやHDDを記録媒体としているため、クオリティー追求という点では有利なのだ。なお、CD-ROMによる供給のメリットとしては、同じフィルムのまま多言語対応しやすいことも挙げられる。
一般的なフィルムの供給は、配給元がそれぞれの国や地域に合わせた音声を記録したフィルムを用意する必要があったが、DTSの場合はフィルムは共通で、音声用のCD-ROMを国や地域に合わせて用意するだけでいい。現在では、字幕用のテキスト情報もCD-ROMでデータとして配給が可能となったため、多言語対応がよりしやすくなっている。