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OSとCPU

2000年10月19日 01時08分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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 SPARCとSolarisの組み合わせ、という、システムの中核的な要素を1種類に絞ったことで、Sunのコンピュータシステムはユーザーにインターオペラビリティ(相互運用性)とスケーラビリティを提供している。ユーザーは、業務用途にハイエンドサーバを使用し、ソフトウェア開発にはワークステーションを使用する、といった使い分けが自然にできる。開発したソフトウェアに関しては当然互換性があるので、用途に応じたハードウェアの使い分けがシステムに不安定要因を持ち込むことには繋がらないのだ。この戦略をSunは最初のSPARCマシンが発売された1987年からずっと堅持している。これだけの期間継続したことで、ユーザーにはそのポリシーが認知されており、サードパーティからの対応製品の販売も、ハードウェア/ソフトウェアの両方で商用UNIXシステムとしては最大級の選択肢がそろっている。

 これと対極的なのが、IBMである。IBMが販売するコンピュータシステムは、PCからメインフレームまで、実に幅広いものとなっている。これは、単に大きさが異なるのではなく、CPU/OSという基本的なコンポーネントが異なるさまざまなアーキテクチャが並列的に存在しているのである。CPUでは、PCで利用しているIntel/AMDのほか、Powerアーキテクチャもあれば、メインフレームのものもある。OSは、Windows、OS/2、AIX、System390などのほか、Linuxにも熱心に取り組んでいるし、さらに統合UNIXシステムとして計画中のMontereyもあるといった具合だ。これは、「IBMには何でもある」という信頼感を生むが、すべてをサポートし続けるのはたいへんな作業であり、IBM以外には実行し得ない戦略であろう。ただし、UNIX系の商用システムメーカーとして有名なHewlett-Packard、Compaq Computer(旧DEC)、SGIなども、いずれもWintel PCなどの製品を所有しており、シングルアーキテクチャを貫徹しているのはSunくらいである。

 一方、アーキテクチャが1種類だということは、ユーザーによっては選択肢の幅の狭さと見えることもあり得る。WebサーバにIISを使いたいとか、メッセージングサーバはExchangeで、という希望をもつユーザーがいたとすると、このユーザーにとってはSunのサーバは選択肢から除外されることになる。ハードウェアのサポートもPCとは比較にならず、かつ価格も高い場合が多いので、CD-Rを焼きたいとかDVD-ROMを使いたいとかいった周辺機器に依存した明確な使用目的がある場合には、PCよりもSunのワークステーションを選ぶという人はまずいないだろう。

 ただ、企業システム向けのサーバとしては、デメリットよりもメリットが上回っていると思われる。サーバ市場でのSunの圧倒的な存在感は、その証拠と考えてよいだろう。しかし、ここに来てSunは少々不可解なことも行なっている。それは、Linuxアプライアンスサーバのメーカーとして注目されていた米Cobalt Networks(以下Cobalt)の買収である。Cobaltの製品はアプライアンスサーバとして下層のコンポーネントは極力隠蔽するように工夫されている。そのため、ユーザーにとっては買ってきて設置すればすぐに使えるという魅力のある製品だが、中身はSPARCでもSolarisでもない。既存のSunのラインナップにCobaltを組み込んでも、別段相乗効果や補完効果は期待できそうにないのだ。

 Linuxそのものではないが、現在Linuxのデスクトップ環境として標準的な地位を得ているGNOMEについても、SunはSolarisの標準デスクトップ環境として採用する方針を発表している。Cobaltの買収も、Linuxを中心とするオープンソースコミュニティへの接近の現われと見ることもできそうだが、対応アプリケーションの拡充やユーザーインターフェイスの統一など、Solarisに対する具体的なメリットが期待できるGNOMEに比べ、Cobaltのほうは少なくとも既存の製品に何か新しい価値をもたらすものとは思えない。

 シングルアーキテクチャを堅持することで確固たる地位を築いたSunが今後どうするのか。Intel/AMDの熾烈な競争の結果猛スピードで進化を続けるx86系CPUの存在や、すでに確固たる地位を占めるに至ったLinuxの存在がそろそろ無視できなくなっているのだろうか。UltraSPARC IIIのリリースに先立って発表されたCobaltの買収は、Sunの進む道が以前ほど明確(あるいはシンプル)なものではなくなってきていることの証拠なのかもしれない。

渡邉利和

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