ユーザーの日常によりフォーカスする
このように、すべての写真においてきりっとした美しい写真を見せるSH906i。より広い範囲を撮影していることがわかる。
夜の闇に浮かぶビルもより範囲が広くダイナミックに表現されているし、レストランの店内も広がり方が違う。そして手元のマクロ撮影にもピントや撮影範囲の面でとても高い実用性を示していることがわかる。
広角レンズを採用した理由について、シャープの通信システム事業本部パーソナル通信第一事業部 商品企画部 部長の木戸貴之氏にお話を伺った。
「コンパクトデジタルカメラと撮影機能を同程度に充実させた上で、デジタルカメラとケータイのカメラを差別化を考えました。ケータイはブログなどに気軽にアップするため、室内での撮影や手元にある料理など、日常をキレイに撮影できることが大切なのです」(木戸氏)
ケータイでの撮影は、街中ではもはや当たり前になっている光景。確かに手元のモノを取ろうとしている人が、カメラを構えてぐっと身を引いて撮影している様子は多々見受けられる。レストランで運ばれてきた料理、ネイルサロン帰りの友人の両手、3人以上が入る記念写真。こういった写真はテーブルに座って普通に構えただけでは、入りきらないことが多い。
広角のレンズを採用することで、室内撮影をよりしやすくすることが可能になるのだ。
SH906iで広角の修行ができる
僕が初めてデジタル一眼レフカメラを買うときに、中学からの先輩の須田英之さんにアドバイスを頂いた。ヤマハで主にネットを活用した新商品のプランニングを担当し、祝日にはカメラマンとバンドマンをしている須田さんが、僕の写真の先生だった。
「どのメーカーのカメラを買ってもいいから、まずこのレンズをつけて3ヶ月くらい過ごしなさい」と薦められた、というよりは言いつけられたのが、シグマの「20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF」であった。数値を読み解くと、非常に広角で明るく、ズームができない単焦点レンズということになる。
恥ずかしながら、それまでズームができないレンズがあることは知らなかった。コンパクトデジタルカメラしか使ったことがなかった僕としては、このレンズはとても不自由だった。
ズームができないので、何か撮影したいと思ったら、画角いっぱいになるまで対象物に近づいていかなければならない。そして明るいレンズなのでピントもシビアになりがちだ。何となくシャッターを切るのではなく、何か1つのモノや箇所をめがけて近寄っていき、ピントを合わせて撮影しなければならない。コンパクトデジカメとは全く違う世界である。
しかしこの不便さを乗り越えて、目的の写真が撮れるようになること。実はそこが須田さんの狙いだったのかもしれない、と今は勝手に解釈している。
つまり、何にフォーカスするかを考えて、画角を取り、ピントを合わせ、自分の体を使って写真を撮りに行く。須田さんは、僕の一眼レフの初めてのレンズのチョイスによって、そんなことを教えてくれた。
SH906iの29mmという広角レンズは、そんな「広角の修行」を体験することができる。
SH906iは手元にあるものをしっかり撮れるが、フィールドに出たときに広角であることによる多少の不便があるかもしれない。しかしそれは、写真を体で撮りに行く感覚を掴むためのメリットとして捉えることができるのではないだろうか。
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