ビジネスに直接結びつかない研究
―――森さんは楽天技術研究所で、研究開発の戦略やルール作りと経理や総務、人事などのマネジメント業務を行なっているそうですが、そもそも楽天技術研究所はどういうところなのでしょうか?
森:ネット系の起業でよく見られる研究所は、ビジネスと直接結びついた「新サービス開発室」になっているところが多いようですが、楽天技術研究所は、純粋な研究開発機関です。博士号や研究業績のある人を集めて、R&D((Research and Development:研究開発)を行なっています。研究開発の定義を「短期的な事業戦略に直接結びつかない、長期的な視野に立っ た研究開発を行なうこと」としています。
―――楽天のビジネス側から依頼を受けて何かを開発するのとはまったく別の観点から、研究開発をしているということですね。
森:研究開発は、開発の方向性を定めるための「サード・リアリティ」というビジョンを策定し、そのビジョンにそって研究を行なっています。このビジョンは、「インターネットと社会の関わりが今後どうなっていくのか」に対するものです。このサード・リアリティに基づき、必要なもの、すべきものを考えて開発するのが楽天技術研究所の役割となっています。
―――インターネットと社会がどのように変化していくかに対してのビジョンが「サード・リアリティ」ということですが、もう少し詳しく教えてください。
森:サード・リアリティは、インターネットと社会の関係の中で、これまでにない「第3のリアリティ」が誕生するだろうという観点に立ったものです。例えば、最近、野球を観戦する際、携帯電話などで試合の情報も見ながら目の前の試合を観戦する人がいますが、その人にとっては、目の前で行なわれている野球だけがリアリティなのではなく、デジタル情報によって補完された、その人なりのリアリティを作り上げている、ということになります。これは、技術の進化やサービスの多様化によって、さまざまな点でリアリティ(実感)というものが変化してきているということです。
また、現代の私たちは自ら新しいリアリティを作り出していますが、リアリティが私たちの行動様式を規定しているという側面もあります。分かりやすいのがサンタクロースの例ですね。サンタクロースというのは、作られた架空の存在で実在しないものですが、これが広告や小売等のビジネス活動に影響を与えています。
―――社会の新しいリアリティをもとに研究開発するということですが、つまり楽天技術研究所のテーマとして「サード・リアリティ」を掲げる意義は何でしょうか?
森:楽天は、サービス企業なので、ユーザーがどういうリアリティを感じているのか? リアリティを持っているのか? これが大変重要なことで、これにリーチすべきだという問題意識があります。現在サード・リアリティの中で、このリアリティの変化のあり方を便宜的に「Interaction(ネットの変化)」「Fusion(概念の変化)」「Collaboration(関係の変化)」3つに(変化の仕方によって)まとめ、これをもとに具体的に開発を進めているのです。
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