インターネットを駆使し、独特の戦術でアメリカ大統領選挙を勝ち抜いたバラク・オバマ。選挙中彼を支持する人々が巻き起こした「オバマ現象」に、米国のみならず世界が注目した。こうしたオバマの大統領選を、戦略コミュニケーションの第一人者が分析したのが、『オバマ現象のからくり 共感の戦略コミュニケーション』だ。著者の田中慎一に話を聞いた。
―― 黒人初の米国大統領となったバラク・オバマ氏が、従来と異なる選挙戦を展開し“オバマ現象”を作り出せたのはなぜでしょう。
今までの米国大統領選では、候補者はまず自己主張、次に国民に対し何を求めるかを問い、そして対立候補を批判するというのが普通でした。しかしオバマは常に“アメリカに感謝”から話し始めたのです。この一言で、人種や政党、宗教などあらゆる多様さから生まれた対立概念がなくなりました。
さらに彼は「Yes, We Can」を掲げます。「I」つまり「私」ならできるというのではなく、国民と一緒の立場で「We」つまり「みんな」でやろうという姿勢を見せたことが、さまざまな問題を抱え自信を失った今の米国国民に響いたのでしょう。
従来の欧米型コミュニケーションはいわゆるディベートで、いかに相手が間違っていてこちらが正しいかを主張し、相手を説得することからスタートします。そこには相手を受け入れる寛容さがありません。自分が絶対とするこの感覚から、あらゆる戦争も引き起こされたと思うのです。
けれどもオバマが使ったのは従来の説得型ではなく、一緒だという共感のコミュニケーション。もともと日本人が得意としてきたやり方です。オバマが米国大統領選を共感のコミュニケーションで勝ち抜いたということは、欧米社会のコミュニケーション概念を変えたとも言えます。
(次ページ「多様性社会を生き抜くコミュニケーションの力」に続く)
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