大手家電メーカーの勢力が強い日本では、家電ベンチャーというとまだまだ珍しい存在だ。このような中、(株)Cerevoの代表取締役である岩佐琢磨氏は、大手家電メーカーにできない製品を開発することで成功を目指している。後編では、その経営の秘訣や若くして起業するまでのキャリアに迫る。
ファブレス経営で勝負する
日本で家電ベンチャーとしての起業が難しい理由として、まず莫大な資金が必要となる点が挙げられる。岩佐さんはこの“困難”をいかにして乗り越えているのだろうか。
「確かに家電を作るベンチャーというのは日本では異例で、プロダクトも実績もない状態で億単位の資金を調達することが課題になります。また、日本は大手家電メーカーの力が強い。それらが競合になるということで、投資する側の見る目も厳しくなります。大手企業では、私たちがやろうとしているネット家電は構造上作れないということも説明しますが、それらのことは大手家電メーカーの内部にいた人間以外には理解しがたいものなのでしょう」
ただし、現在はだいぶ家電ベンチャーもやりやすい世の中になってきたと岩佐さんは語る。
「今では、5000台とか1万台といった小ロットの開発を受けてくれる製造先が増えました。私たちは小さな会社なので、例えばデジタルカメラだけを作っていては、大手に本気になられたときに比較的簡単に潰されてしまいます。そこで、『ネット連携』ということをコンセプトの中心に置いて、さまざまな製品を開発していく必要があるでしょう。それを可能にするためにも、自社で生産設備を持たずに外部委託して、小回りの利くファブレス経営がポイントになります」
もし、自社で金型製作から製造まですべてやっていたら、設備投資費用や維持管理のコストが莫大なものになってしまう。ファブレス経営にすることで、これを回避できるわけだ。
「そういった設備投資が必要で莫大なコストがかかる部分を外部に任せてしまうことで、ネット家電ベンチャーが成り立っていけるのです」
家電ベンチャーと大手メーカーのいい関係
ハード部分などにおいては、ファブレス経営という手法をとるCerevo。しかし、ソフトウェア部分はすべて自社で開発を行なうという。それは、競争力を支えている部分だからだ。
「ネット家電は、機械側の組み込みソフトウェアとサイト(サービス)側のソフトウェアの利便性や融合性が、そのまま製品のクオリティにつながります。メーカーのアイデンティティになると言い換えてもいいでしょう」
このソフトウェア部分で、他社製品との差別化が図れなければ、ただの安売り合戦になってしまう、という。
「製品のキーになる部分だから自社で開発するのは当然ですね。それに、自社でやることで、各機能やインターフェースなどをとことんこだわることができ、それが利便性の向上にもつながるのです」
ベンチャーという立場で、家電業界を生き残っていけるのかを問うたとき、岩佐さんは次のようにも語った。
「10年後は大手メーカーも、私たちと同じ方向の家電を作っていることでしょう。そこで私たちのようなベンチャーは潰されてしまうのかというと、そうではないと考えています。おそらく私たちは、その頃は日本でのネット家電のノウハウを持った会社になっています。そして、このノウハウにより、大手メーカーに協力できる可能性も出てくるはずです。今年の冬にも発売する私たちの製品が1万台でも2万台でも売れて、ユーザに評価をいただくことで、日本の家電市場もよい方向に変わっていったらいいなと思いますね」
(次ページ、「キャリアは「オタク」と「ITベンチャー」でスタート」へ続く)
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