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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第7回

撤退が価値を生み出す──「総合電機メーカー」はもうやめよう

2008年03月11日 10時30分更新

文● 池田信夫(経済学者)

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撤退は「買い」の材料だ


西田厚聰氏

HD DVD終息を語る東芝代表取締役社長の西田厚聰氏

 最近、電機業界で「撤退」のニュースが相次いでいる。このコラムでも取り上げた東芝のHD DVDからの撤退に続いて、先週は三菱電機が携帯電話から、パイオニアがプラズマパネルの生産から撤退することを表明した。しかしいずれの場合にも、撤退が報じられたあと、株価は上がった。

 世界の株式市場では、企業買収する会社は「売り」、売却/撤退する会社は「買い」というのが常識だ。今、日本の株式市場の60%は外国人投資家だから、世界の常識にそって評価されたのだろう。長期的に見ても、「選択と集中」を進めている東芝の時価総額は、ここ3年で約1900億円(8%)上がっているが、900社以上の連結子会社を持つ「総合電機メーカー」日立製作所の時価総額は約2600億円(10%)下がっている。

 両社の時価総額は、約2.4兆円とほとんど同じだが、2007年3月期決算における資本効率の指標とされるROE(自己資本利益率:当期利益÷自己資本)を見ると、東芝の13%に対して、日立は赤字だ。そして東芝のPBR(株価純資産倍率:株価÷1株純資産)は2.14倍だが、日立は0.99倍。つまり日立の株式は、会社を解散して売却したときの不動産や金融資産などの価値しかない。経営者や従業員の生み出す価値は、株主にはまったく評価されていないのだ。

東芝の株価

ここ3ヵ月における東芝の株価の推移。HD DVDの撤退がウワサされ始めた2月10日前後から株価が上がり、2月19日の終息宣言付近まで上がり続けている(出典:Yahoo!ファイナンス)



赤字部門は削減するのが鉄則


 日立のような会社は、日本の電機メーカーには珍しくない。この第一の原因は、多角化して多くの不採算部門を抱え、過剰設備や余剰人員を切れないことだ。半導体の技術進歩を示す「ムーアの法則」によれば、生産量が同じなら、必要な設備は1年半で半分になるから、大量の過剰設備が生じ、それにともなって余剰人員が生まれる。

 逆にいえば、ムーアの法則に従って設備と人員を削減すれば、効率は3年で4倍になる。だからIT産業では、不採算部門からいかにすみやかに撤退するかが重要だ。こういうとき、赤字部門を黒字部門からの内部補填で延命すると、黒字部門の士気も低下して、どちらにとってもよくない。補填はせず、赤字になったら切るというルールが必要だ。特に余剰人員を切ることが重要だが、これは日本の経営者には難しいだろう。その場合には、部門ごと他社に売却するなど、資本市場の活用が必要だ。

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