DVDの売り上げを落としたくない
── 「ブロードバンド大国」である日本で、ネットを活用しないのはもったいない気もしますが……
小寺 恐らく消費者のほうは、放送事業がかなり曲がり角にさしかかっていると感じていると思います。放送事業者もうすうす分かっているんでしょうが、彼らは、「未知のビジネスチャンスより今のビジネスモデルを守るほうが大事」と考えている。
現状、電波を使った放送ビジネスもあるし、パッケージを売るためのDVDレーベルも関連会社として持ってる。そこにネットの映像配信が入ってくると、既存のビジネスが縮小してしまうかもしれない。放送業界にとって、ネット配信を始めたことでこれらの事業がシュリンクしていくのはNGなんです。少なくとも現状維持が前提で、それにプラスアルファしてネットで利益が出るという形を求めている。
だから「YouTubeなどから一切違法コンテンツを根絶した上でなければ、ネットビジネスには出ない」と、デジコン委員会(総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」)などでも明言しています。これなども視聴機会を制限した上での、ビジネスモデルの考え方ですね。
加えて、ネット配信を実現するためには、権利処理の問題も大きい。「問題ない」と言う向きもありますが、やっぱり二次利用のときに出演者や制作スタッフの報酬はなしでいいのかという話は出てくる。通常のテレビ番組制作では、制作を開始するときに二次利用のことまで想定していませんし、スタッフ全員と契約書なども交わしていません。
しかしアニメ作品などは、映画で行なっていたような「委員会制度」で制作する方式が増えています。この方法では、委員会メンバーである企業の二次利用が前提となっています。放送でキャラクターを露出して、関連商品としての玩具やDVDの販売で利益を上げる。コンテンツ単価としての収益ではなく、世界観そのものを売るというスタイルですね。ただこれも、ネットがほとんど関係していないという事実もまたあります。
プロテクション自体をやめよう
── デジタル放送のコピー制限に関しては、すでに決まったダビング10のほかに、EPN※運用という代案も出ていました。小寺さんはどういった解決方法を望んでいますか?
小寺 僕は、プロテクション自体をやめたほうがいいと思っています。WOWOWのような有料放送ならともかく、無料放送に「CAS」という権利処理システムを適用するということは、意味がないんです。
そもそもこのCAS技術は、民放がBSデジタルに参入する際、将来的に有料放送化を見込んで用意されたものでした。しかし、BSデジタルが始まってみたら、対応テレビもあまり売れないし、視聴率もまったくふるわなかった。当初、試験放送は無料で、その後有料化する予定だったんですが、そのままずっと無料の状態が続いています。
放送業界が困ったのは、このCAS技術の開発にかかった100億円ほどの費用どう回収するかということです。だから、地上デジタル放送の対応機器に「B-CAS」というカードを付けて、審査費やライセンス費用などを得る仕組みを作った。
テレビやレコーダーにかかるB-CASの費用は、機器の価格に反映されて、ひいては消費者のサイフから出ることになる。つまり放送業界は、国民全体からお金を取って、過去の失敗をトントンにしたということです。
※EPN テレビ放送などに用いられる著作権保護方式のひとつ。コピーを制限するコピーワンスとは異なり、特定の受信機で視聴できるように再生を制限する。