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プロダクトではなく、市場の「課題」を愛せよ Hello Tomorrow CEO アルノー氏が語るディープテック社会実装への鍵

Hello Tomorrow 共同創業者 兼 CEO、アルノー・ドゥ・ラ・トゥール氏インタビュー

特集
エコシステムの潮流

Hello Tomorrow 共同創業者 兼 CEO アルノー・ドゥ・ラ・トゥール氏

ディープテックの架け橋「Hello Tomorrow」

 Hello Tomorrowは、優れた科学技術(ディープテック)の社会実装と事業化を加速させるために立ち上げられた、世界最大級のディープテック・エコシステムおよびグローバル・ネットワークだ。2011〜2012年当時、ウェブやeコマース中心だったスタートアップ支援に対し、優れた科学研究とビジネスと投資コミュニティを結び付ける目的で創設された。スタートアップコンテスト「Global Challenge」、グローバルサミットの運営、企業・政府向けのイノベーションコンサルティング、投資ファンドなどの多角的な事業を展開している。

 Hello Tomorrowの共同創業者 兼 CEOのアルノー・ドゥ・ラ・トゥール(Arnaud de la Tour)氏は、自身も大学でPhD(博士号)を取得した科学研究者であり、研究室の優れた研究成果がビジネスに結びつかない現状に疑問を抱いたことから、仲間とともに同団体を起業。以来10年以上にわたり、世界中のディープテック・スタートアップと大企業、VC、投資家、行政をつなぐ架け橋として主導的な役割を果たしている。

実証実験の「その先」へ——世界70カ国3000名がアムステルダムに集結

 2026年6月11日〜12日、オランダ・アムステルダムにて「Hello Tomorrow Global Summit 2026」が開催。2025年までのパリ開催から、かつて造船所として使われていたアムステルダムの歴史的かつインダストリアルな会場へと舞台を移し、世界中からディープテック関係者が集結した。

 世界70カ国以上から3000名を超える参加者と、48以上の政府公式派遣団が集まり、国境を越えたオープンな協力関係が形成されました。オランダのロブ・イェテン副首相兼気候・エネルギー相や半導体露光装置大手ASMLのクリストフ・フーケCEOをはじめ、政財界やトップ投資家のリーダー層が登壇、参加した。

 50以上の専用サイドイベントが企画され、単なる初期アイデアの交流にとどまらず、大企業の調達部門(Procurement)や現場とスタートアップを結びつけ、実証実験から本格的な産業生産、供給網への統合をテーマにした議論が行なわれた。

研究者はCEOになるべきか? アルノーCEOが語るディープテックの「現実と未来」

――Hello Tomorrowの設立から10年以上が経過しましたが、ディープテックを取り巻く環境はどう変化しましたか?

アルノー氏:設立当時は「ディープテック」という言葉すら定着しておらず、投資家はITやデジタルプラットフォームばかりに注目していました。最初の数年は初期段階のスタートアップに資金と顧客を引き合わせることが課題でしたが、現在では初期支援の仕組みは格段に成熟しました。これからの10年の課題は、「プロトタイプから実際の産業化・大規模生産へとスケールさせること」であり、大企業の購買・調達チームとスタートアップを直接結びつけるエコシステム成熟化にシフトしています。

――研究型スタートアップが成功するために、最も重要なマインドセットは何ですか?

アルノー氏:最も大切なのは、「プロダクト(技術)を愛するのではなく、市場(課題)を愛すること」です。 研究者出身の創業者は、自分が長年開発してきた素晴らしい技術そのものに固執してしまいがちです。しかし、技術は課題を解決するための手段に過ぎません。早い段階から見込み顧客と対話し、「市場にどんな課題があり、誰が対価を払うのか」に集中する必要があります。もし自らの技術が課題解決に最適でないとわかったなら、「その技術を捨てる覚悟」を持って市場のニーズに合わせ込む姿勢が不可欠です。

――研究者がそのままCEOになるべきでしょうか?ビジネス人材との役割分担はどうあるべきですか?

アルノー氏:例外的な人物を除き、研究者がそのままCEOになることはおすすめしません。研究者は顧客開拓や業界構造、資金調達、組織経営に関するノウハウが不足しているケースが多いためです。ヨーロッパで成功しているパターンは、研究者はChief Scientistなどの立場やアカデミアに留まりつつ株式を保有し、経営や市場開拓はビジネス思考を持つ起業家(CEO)が主導する形です。また、研究者がスタートアップに挑戦しても、失敗した際に大学や研究機関のキャリアへリスクなく戻れるような柔軟なキャリア制度を作ることが、研究者の起業参画を増やす鍵となります。

――生成AIなどの「AIブーム」は、ディープテック分野の投資や成長にどう影響していますか?

アルノー氏:AIはディープテックの資金を奪う存在ではなく、むしろディープテック全体の成長を強力に牽引する推進力となっています。 タンパク質設計や新材料の発見、フィジカルAI、産業用AIといった製造プロセスの最適化など、先端技術の多くでAIが活用されています。また、AIデータセンターの急増に伴う半導体需要やエネルギー供給・蓄電、気候変動対策技術の需要も跳ね上がっています。AIのみならず、防衛や安全保障・サプライチェーン自給の高まりも、ディープテックへの長期的な需要を支えています。

――大企業とディープテック・スタートアップが連携し、社会実装を果たすためのポイントは何ですか?

アルノー氏:大企業の既存組織にとって、短期的リスクが高く収益インパクトが見えにくい初期スタートアップと協業することは本質的に困難です。 そのため、スタートアップとの協業に特化した専門チームを組織内に作り、通常とは異なる評価指標(KPI)や柔軟なプロセス、失敗を許容する文化を設計することが重要です。既存事業に接続しつつも、スタートアップのスピード感や実証実験に適合した環境を整備することが、オープンイノベーション成功の第一歩となります。

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