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会社を変える事業はどう生み出すのか?『起業の科学』田所氏×『新規事業の本質』合田氏が語る実践論

 多くの企業が会社の柱となる新事業の創出に挑む中、期待されたプロジェクトが数年で姿を消したり、伸び悩んだりするケースは後を絶たない。会社を変える大きな事業と、成長に至らない事業を分ける要因はどこにあるのだろうか。

 その解を提示する1冊として、2026年8月5日、世界1000件以上の論文からと事業開発実績からそのエッセンスを体系化した書籍『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』(著:合田ジョージ、羽山友治/発行:角川アスキー総合研究所)が発刊された。著者である合田ジョージ氏が代表取締役を務める株式会社ゼロワンブースターでは、本書の発売直後の8月7日にカンファレンス「01Booster Conference Summer 2026」を開催。

 当日のセッションの中から、本書の内容とも深く連動した特別対談セッション「会社を変える事業は、何が違うのか― 理論と現場知から読み解く、事業創造の本質 ―」の模様を伝える。合田氏の対談相手には、『起業の科学』著者として知られる株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEOの田所雅之氏を迎え、ファシリテーターは、ASCII STARTUP編集長の北島幹雄氏が務めた。

株式会社ゼロワンブースター 代表取締役 合田 ジョージ氏

株式会社ゼロワンブースター 代表取締役 合田 ジョージ氏
MBA、理工学修士。東芝、村田製作所にて商品企画や国際アライアンス、全社戦略策定を経験。その後、IT StartupであるNobot社に参画、海外展開やマーケティングを指揮。同社のKDDIグループによるバイアウトの後、起業を経て、01Boosterを共同創業。2026年8月に著書『新規事業の本質 世界レベルの「理論」と「現場知」で描く全体地図』を上梓。

株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO 田所 雅之氏

株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO 田所 雅之氏
日本と米国シリコンバレーで合計5社の起業・事業売却を経験。その後、大手ベンチャーキャピタルのパートナーとしてスタートアップ投資や立ち上げ支援に携わる。著書に累計20万部を超えるベストセラー『起業の科学 スタートアップサイエンス』などがあり、日本のスタートアップエコシステムの構築に大きく貢献。現在は国内外のスタートアップや大企業の新規事業創造支援を行う。

ASCII STARTUP編集長 北島幹雄氏

ASCII STARTUP編集長 北島幹雄氏
各種イベントでモデレーターなどを歴任。起業家インタビューや産官学連携の取材を手掛ける一方、イベント登壇を通じて起業家・技術者・大手企業・自治体をつなぐハブとしても活動する。メディアと現場の両方から、スタートアップコミュニティの活性化に貢献している。

【事業の要件】モノ売り(点)から、体験づくり(面)へ

 セッションの冒頭、北島氏から「そもそも会社を変えるほど大きく成長する事業とはどういうものか」という問いが投げかけられた。田所氏は、成功する事業には単体の商品を売る「点」の視点ではなく、顧客体験全体を捉える「面」の視点が不可欠だと語る。

 「例えばタニタさんの場合、単に体重計を作って売るだけでは市場規模に限界があります。しかし『測る・わかる・気づく・変わる』という顧客の一連の体験全体を捉え、タニタ食堂や健康管理アプリへと領域を広げました。1回売り切って終わりではなく、顧客の健康管理に寄り添う持続的な価値へと繋げた好例です」(田所氏)

 では、なぜ多くのメーカーは「モノ売り」から脱却できないのか。北島氏が事業化でつまずく典型的なパターンを尋ねると、合田氏は「プロダクト忖度」と「マクロ分析の罠」の2つを挙げた。

 プロダクト忖度とは、顧客ではなく社内の関係者や技術に配慮するあまり、不要な機能を詰め込んで中途半端な製品を作ってしまう状態だ。一方、マクロ分析の罠とは、綺麗な市場調査レポートの作成で満足し、現場での顧客観察を怠ってしまう状態を指す。どちらも「顧客不在」のまま進んでしまう典型的な失敗パターンだという。

 田所氏はこれらを踏まえ、着替え不要で日常の隙間時間に通える「体験の面」を捉えて大ヒットした「chocoZAP(チョコザップ)」のように、顧客のリアルな行動データをもとに検証と微修正を小刻みに繰り返すプロセスこそが、事業を成長させる再現性の高いアプローチになると提言した。

【人材の要件】フェーズごとに適性のあるリーダーへ手渡す

 事業を成功に導くには、それを推進する「人材」の存在も欠かせない。北島氏から「事業を生み出す能力を持つ人材をどう見つけるべきか」と問われると、田所氏はまず、日本企業に多い「アイデアを出した本人が最後までやり切るべき」という固定観念に疑問を投げかけた。

 「事業開発には『0→1(アイデア発案期)』『1→10(事業立ち上げ期)』『10→100(事業拡大期)』という明確なフェーズがあります。ゼロから形にする人と、組織化して大きく育てる人に求められる能力は全く異なります。個人の想いに頼り切るのではなく、フェーズに合わせて適切なリーダーへバトンタッチしていく仕組みが必要です」(田所氏)

 このフェーズごとの適性という視点を受け、合田氏は「育成」に関する現場のリアルな実体を明かした。

 「厳しい言い方ですが、全員がオリンピックに出られるわけではないのと同じで、事業開発にも適性があります。大きな事業を起こせる人には、市場の構造を見抜く構想力や周囲を巻き込む行動力が必要であり、誰もが研修を受ければなれるわけではありません。早期に適性を見極める視点が必要です」(合田氏)

【組織の要件】既存事業とは異なる「モノサシ」を持つ

 

 新規事業のプロジェクトが途中で潰れてしまう要因の多くは、実は挑戦する個人の能力不足ではなく、会社側の評価制度と組織ルールにあるという。合田氏は、既存事業と新規事業の評価基準の決定的な違いを次のように指摘した。

 「すでに収益を上げている既存事業は、計画の確実性や当期の利益といった効率性・再現性の指標で評価されます。しかし、立ち上げたばかりで不確実性が高い新規事業をまったく同じ既存事業のモノサシで測れば、事業計画の精度や利益の面で太刀打ちできるはずがなく、評価は低くなり撤退に追い込まれてしまいます」(合田氏)

 この組織的な課題に対し、田所氏も強く同意する。

 「新規事業を既存の管理体制のまま評価しようとすると、どうしても失敗を恐れて小さくまとまった提案ばかりになり、尖ったアイデアが削ぎ落とされてしまいます。だからこそ、既存事業のルールから意図的に隔離し、挑戦そのものや仮説検証のプロセスを追う新規事業専用の評価軸やKPIを設定してあげる組織設計が必要です」(田所氏)

【実践のアプローチ】予測不能な時代を生き抜く「仮説検証」の重要性

 

 社内で新規事業の提案を通す際、5年後・10年後の不確実な事業規模や収益計画を求められるケースは多い。

 これに対し田所氏は、不確実性の高い初期段階で完璧な長期計画を練り上げるよりも、プロトタイプ作成やテスト販売といった「小さな実験」を早期に行い、得られた実測データをもとに判断していくアプローチの重要性を説く。特に強調したのが「失敗も含めて検証をやり切る」という姿勢だ。仮説が外れた場合であっても放置せず、なぜダメだったのかをデータから徹底的に突き詰めて撤退や軌道修正までをやり切る実行力こそが、成功率を高めると語った。

 合田氏は組織の観点から、既存事業と同じ精度で長期予測や確実性を求めてしまう評価体制そのものに課題があると指摘する。現場が「失敗を恐れずに実験し、やり切る」ためには、経営陣が計画の美しさではなく実験データに基づく軌道修正を正しく評価するルールや文化を整えることが不可欠だと語った。

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