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「文庫」から始まった出版プラットフォームの歴史:IPのマルチレイヤー化とAI時代への挑戦

連載
プラットフォーム学~先端事例から学ぶ、社会実装の現在点

提供: 京都大学プラットフォーム学卓越大学院プログラム

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次世代のプラットフォーム課題を学生が問う

 講演後のQ&Aセッションでは、プラットフォーム学を受講する学生たちから、現在の出版業界が抱えるリアルな課題について鋭い質問が次々と寄せられた。

Q1. 海賊版対策と「翻訳の壁」

学生A:「海外での海賊版流通を止めるには、法的な権利保護だけでなく『現地語へのローカライズ(翻訳)』と『アクセスの容易さ』という技術的・根本的な解決が必要だと思います。何が障壁になっているのでしょうか?」

垣貫氏:「アクセス自体は大体できる状態にあります。一番の課題は『翻訳者の不足』です。例えば過去にドイツでライトノベルを展開しようとした際、日本語から直接ドイツ語に翻訳できる人材がいませんでした。英語を底本にしてドイツ語に翻訳するという手法も試みましたが、翻訳ミスが露呈し失敗した経験があります。もし今後AI翻訳の精度が飛躍的に上がれば、正規版を早く展開でき、結果的に海賊版を駆逐する強力な武器になるはずです」

Q2. 「紙の本」が消滅する未来

学生B:「現在、電子書籍が7割・紙が3割とのことですが、将来的に紙の本がなくなってしまう未来は来るのでしょうか? 個人的には紙派なのですが」

垣貫氏:「十分あり得ると思います。かつてコンビニには本や雑誌の棚が3つありましたが、今は坪効率の観点から1つに減っています。また、物流を担うトラックのドライバーの不足も深刻で、20年後には完全に電子主体になっているかもしれませんね。私自身も蔵書が1,000冊を超えて家族に怒られ、電子で買い直した経験があります(笑)。ただ、海外は家が広いため、紙の本は『コレクターズアイテム』として残り続ける可能性はあります」

Q3. 生成AIの無断学習への対応

学生C:「AIに絵柄や作品がコピー・学習される問題について、出版社はどこへ働きかけるべきだとお考えですか? OpenAIのような巨大プラットフォーマーに直訴するのか、ローカルLLMを使ってコピーする個人をターゲットにするのか、レイヤーが複数あると思います」

垣貫氏:「おっしゃる通り複数のレイヤーがあります。まずはGoogleやOpenAIといった大元のAIプラットフォーマーに対して声を上げることです。しかしその前に、そもそも現在の日本の法律が『(AIによる)学習を原則認める』形になっているため、まずはこの法整備から変えていかなければなりません。その上で最終的には、個人の悪質な利用に対してもペナルティを与えられる仕組み作りが必要になってくると考えています」

総括:次なるプラットフォームの「胴元」を目指して

 講演の最後には、本プログラムのコーディネーターである原田博司教授が総括を行った。

 プラットフォーム学においては、一つの基盤を大きくするだけでなく、新しい技術をつなぎ合わせてネットワーク化する「プラネット(PLAtNET)化」が重要となる。

 「出版の歴史は、文庫、映画、ネット、電子書籍と、常に新しい技術を『引力』として繋ぎ込んできた最高のケーススタディです。次はデジタルペーパーか、ホログラムか、どんな時代が来るかわからない。本プログラムに参加する皆さんも、自身の研究技術をどうすれば次世代プラットフォームの『胴元』として組み込めるのか、出版の戦い方を参考に走り続けてほしい」と、受講した学生たちへ呼びかけた。

 今回の垣貫氏の講義を通じて浮かび上がったのは、技術がどれほど進化しても、変わらない「核」の存在だ。それは、人々の心を動かす「物語(IP)」の力である。

 出版社は、かつては紙を売る会社だった。しかし今は、その物語から生まれるあらゆる価値を管理し、世界中のプラットフォームへ供給する「ハブ」へと進化した。生成AIの台頭は、この「人間の創造性」の価値を再定義することを迫っている。

 垣貫氏の「AI翻訳で海賊版を駆逐する」「新しい権利還元の仕組みを作る」という言葉には、テクノロジーを敵視するのではなく、むしろ自らの武器として取り込み、クリエイターの楽園を守り抜こうとする、伝統ある出版社の矜持が宿っていた。

 京都大学の校舎を出た学生たちの手には、紙の本ではなくスマートフォンがあったかもしれない。しかし、その画面の中で躍動するコンテンツを支えるのは、100年前の「文庫」から脈々と続く、権利とプラットフォームの果てなき戦いの歴史なのである。

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