研究力はあるが、世界企業になれない。StartX創業者が狙う、日本ディープテックの再設計
NEXUS ORCA創設メンバーに聞く、世界を狙う起業家コミュニティ構想
NEXUS ORCAが作ろうとしているのは「起業家の学校」ではない
一般的な起業支援では、メンターが起業家へアドバイスを行い、一定期間のプログラム終了後に卒業する形式が多い。だがNEXUS ORCAは、こうした講義型のアクセラレータープログラムを目指していない。創業者同士が継続的につながり、互いに支援し合うコミュニティそのものを構築しようとしている。
「私たちがやっていることの本質は、お互いを支援する関係性を構築することです。創業者が『この問題で困っている』と言えば、コミュニティの中から、その課題を解決できる人を見つけてつなぎます。コーチングの場合もあれば、適切な人材やリソースを紹介する場合もあります」(Teitelman氏)
プログラムでは、国内外の起業家によるピアグループを軸に、アドバイザリーボードやワークショップも組み合わせ、創業者同士のつながりを深めていく。
特徴としているのは、「安心して弱みを見せられる環境」を重視している点だ。Teitelman氏によれば、多くの起業家は「強い創業者」であることを求められるため、共同創業者や投資家、社員に対して、悩みを打ち明けづらいという。StartXでは、共同創業者をあえて参加させないピアグループも設計してきた。
「ある起業家から、『これまで3か月かかっていた問題が、3日で解決できるようになった』と言われたことがあります。本音で困りごとを共有できれば、会社を作るスピードそのものが変わるのです」(Teitelman氏)
かつてStartXが非常に成功した理由の一つは、この「脆弱な空間」があるからだとTeitelman氏は強調する。起業家の選考以上に、創業者を説得し、脆弱であることの習慣を何度も繰り返し示し、構築するために多くのコストをかけている。これが大きな差別化のポイントであり、Y Combinatorなどの米国トップのアクセラレーターでも持ちえない価値になっている。
長坂氏は、この設計こそがNEXUS ORCAの本質だと説明する。
「内容だけを見ると一般的な起業支援に見えるかもしれません。ただ、誰をコミュニティに入れるのか、どう信頼関係を作るのか、卒業した人が次の世代をどう支えるのか。そうした部分まで含めて、裏側ではシステムとして設計されています」(長坂氏)
ノウハウを教える「学校」を作るのではなく、起業家同士が継続的に支え合う構造そのものを日本に根付かせようという考えだ。
「投資家の論理」と「ディープテック育成」のズレをどう超えるか
ディープテック領域では、研究開発から事業化までに長い時間がかかる。一方、スタートアップ投資の世界では、短期間での成長やIPOなどのイグジットを迫られる場面も多い。「投資家側の論理」と「長期的なディープテック育成」の間にはズレが生まれやすい。
Teitelman氏は、「どの投資家をコミュニティへ入れるか」が重要になると説明する。
「もし投資家が『できるだけ早くIPOしてほしい』と考えているなら、創業者も自然と小さく考えるようになります。だからこそ、私たちは大きな成果を本当に望んでいる投資家だけを選ぶ必要があります」(Teitelman氏)
NEXUS ORCAが意識するのは、日本国内だけではない海外投資家とのネットワーク構築だ。ただし、海外投資家の中には、日本の研究力や技術ポテンシャルを十分理解していないケースも多いとTeitelman氏は指摘する。
そのためNEXUS ORCAでは、日本のスタートアップと海外投資家を接続するだけでなく、「日本のディープテックをどう評価するか」を共有する仕組みも整えようとしている。
「日本への投資・協業に関心を持つ海外投資家のネットワークを構築しています。すでに海外投資家と日本チームをつないだパイロットイベントも実施しました。現在は、500人規模の国際投資家ネットワーク構築を目標に進めています」(Teitelman氏)
さらに長坂氏は、日本側にも世界基準の資本へ接続する視点が必要だと補足する。
「これまでは、日本国内のスタートアップコミュニティの中で成功モデルが閉じていた部分がありました。ただ、世界規模の事業を作ろうとすると、資本側にもグローバルな視点が必要になります。VCの投資判断は、その背後にいるLPとの約束にも左右されます。創業者だけに世界を目指せと言っても、VCやLPが早期IPOや短期回収を前提にしていれば、成長戦略は国内最適に戻ってしまう。成功した場合の最大値と、ポートフォリオ全体のリターンを見る視点を共有する必要があります」(長坂氏)
海外からの資金を呼び込むだけではなく、目指す前提そのものを、投資家側も含めて変えていくのが狙いだ。「どの市場を取りにいくのか」「どの規模を目指すのか」「次の大型調達ラウンドまでを誰が支えるのか」といった前提を、創業者と資本側が共有し、世界で勝った場合の最大値を投資家側も評価する視点が必要だと長坂氏は強調する。
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